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第18話 決戦

遠くの方で、グリフォスとゾルダーが戦いを始めているのが見えた。

装置を破壊しようとする自衛隊と、それを阻止せんとするギデオン軍も大規模な空中戦を繰り広げている。

その様子を、峰人はどうすることもできずにただ見つめていた。


「皆さん!グリフォスを援護しましょう!」


セーネとエアルが、それぞれのドラゴンに騎乗して飛び立とうとする。

間違いなくこれが最終局面だ。

それなのに、自分にはもう何も出来ない。

結局、普通の中学生が人類を救うなど土台無理な話だったのだ。

セーネやエアルは、何年も前からずっと竜騎士として戦ってきた。

それに対し、自分はほんの数週間。

生き残っただけでも万々歳だろう。

峰人は、最後の戦いに臨む者たちに言葉をかけることも出来なかった。


本当にこれでいいのか?


自分にそう問うが、これ以外に選択肢がないのだから仕方ない。

峰人は疲れ切った体で、瓦礫の上に座り込んだ。

まるで夢でも見ていたような感覚だった。

ドラゴンや、異世界や、竜騎士が実在し、世界を守るために戦った。

未だに現実だとは思えない。

打つ手がなくなった今、ようやく元の自分に戻った気がした。

後は彼らが勝利し、平和な明日が来ることを願うだけだった。



ーーだから、お前は悔いのないようにな。



不意に蘇ったのは、ジャックの言葉だった。

彼と会ったのはほんの1時間程度だったが、不思議な親近感を覚えていた。

おそらく、グリフォスと契約した数少ない人間の1人だったからだろう。

彼も70年前、こんな感情を抱いたのだろうか。

別れ際にジャックがあんな言葉をかけた理由が、今は理解できる。

彼は、「自分と同じ運命を辿るな」と伝えようとした。

そして今、峰人自身がその岐路に立たされている。

これで終わっていいはずがない。

こんな終わり方でいいはずがない。


「ちょっと…待ってくれ!」


気付いた時には、メフィアとセイバーを呼び止めていた。

2人と2体は、峰人の方に視線を注いでいる。

峰人は必死に考えていた。

何か自分に出来ることがあると信じて。


「峰人、貴方はもう十分戦いました。誰よりも立派な竜騎士です。だから…」

「いや…そうじゃなくてだな」


セーネの言葉を遮って、周囲を見渡す。

更地になった名古屋、ゾルダーと戦うグリフォス、停止した次元転移装置…。

今、もっとも必要なことは何だろうか。

おそらく、ゾルダーを倒すことだ。

ゾルダーを倒すには、グリフォスの力が必要だ。

グリフォスは今最後の力を使って戦っている。

最後の力は、ドラゴンのエネルギーを限界まで消費する技だ。

ならば、大量のエネルギーを一気にグリフォスに与えることが出来れば、ゾルダーに勝てる確率が上がり、上手くいけばグリフォスを救うことも出来るかもしれない。

そんな大量のエネルギーがある場所は…。


「メフィア、オリジン・ストーンはとんでもない力を秘めてるんだよな?」

「え?まあ、確かにそうよ。でもどうして?」

「その力…グリフォスに送ることが出来れば、ゾルダーを倒せるんじゃないか?」


突拍子もない提案にメフィアは目を泳がせ、意味もなくセイバーと目を合わせた。

無論、驚いていたのはセーネやエアルも同じだ。


「何を言ってるんだお前は!?」

「どうなんだメフィア!!?」


思わず声をあげたエアルよりもさらに大きな声で、メフィアに質問した。

メフィアは少し考えたあと、あまり自信がなさそうに答えた。


「まあ…確かにそうかもしれないけど、どうやってエネルギーを届けるの?」


その点についても、峰人には考えがあった。


「竜騎士の力って、ドラゴンの力を借りてるんだよな?じゃあ、人間の力をドラゴンに届けることは出来ないのか?」


そこまでの説明で、セーネとメフィアはその真意を理解した。

双方とも目を見開いて、信じられないという様子だった。


「そんな冗談でしょ!?」

「まさか…貴方の体を中継して、グリフォスに石の力を届けるということですか!!?」


あまりに常識外れな提案に、それ以降の言葉を紡ぐのに時間がかかった。

間を置いてようやく、セーネが話を続けた。


「あのですね…ストーンの力は本当に強大なんです。ですから、人間がそのパワーを受けてしまえば体が粉々になってしまう可能性も…」


その言葉を聞いても、峰人は冷静なままだった。その程度のリスクは承知の上だ。


「セーネ…お前言ったよな?"犠牲は出したくない"って。全員で生きて帰れる可能性が1%でもあるなら、そっちに賭けるべきだろ?」


峰人の言葉を聞くと、セーネはそれ以上の反論を出来なかった。

メフィアは呆れたようにため息をつくと、峰人に目配せをした。

「乗れ」という合図だ。


「はぁ〜、全くしょうがないね。セイバー、援護を頼むよ!」

「おう、任せろ!」


メフィアとセイバーは翼を羽ばたかせ、戦火の真っ只中へと突っ込んでいった。













ゾルダーは、あの紫の炎を乱射していた。

グリフォスもそれに対抗するように、青いレーザーを放つ。

街は完全に破壊されており、人も建物もない。

だから、手加減する必要もなかった。

やはり命中精度ではグリフォスに分があり、レーザーが命中するたびにゾルダーの鱗が焼けただれる。

再生能力があるためそれほどの影響はなかったが、ゾルダーはこれまでにないような怒りの表情を見せていた。

ゾルダーが一気にグリフォスに接近し、その鉤爪で"竜の輝き"を捉えようとする。

グリフォスは全速力でそれをかわし、上昇した。

鉤爪が、腹の表面の皮膚をえぐる。

腹から血が流れ、痛々しい爪痕がついてしまうが、グリフォスは気にも留めない。

また新たなレーザーを放ち、それをゾルダーの背に直撃させる。

ゾルダーはグルグルと喉を鳴らし、憎き敵の方に目をやった。


「グリフォス…貴様は解っているのか?この世界の人間を支配出来なければ、滅ぼされるのは我が種族なのだぞ!!?」

「我々自身が選んだ道だ!!」


グリフォスが飛びかかり、その牙でゾルダーの首筋に噛み付く。

鱗がバキバキと割れ、凄まじい顎の力で肉ごと引きちぎった。

ゾルダーは噛み付くグリフォスを自らの手で引き剥がすと、その体を地面に投げつけた。


「ぐぅっ!!」


グリフォスは地面に叩きつけられる。

頭を強く打ったことで、視界がクラクラと揺れる。

それを振り払うように頭を左右に振り、改めて上を見上げる。

その目に飛び込んできたのは、これまでにない大きさの火球を形成するゾルダーの姿だった。

おそらく、あれがフルパワーなのだろう。


「ドラゴンは滅びない!我々は未来永劫、支配者として君臨し続ける!!」


紫の火球が、グリフォスめがけて発射される。

まるで隕石のようだった。

火球は紫の尾を引いて、速度を上げながら地表に接近していく。


「くそっ!!」


グリフォスが慌てて飛び上がると同時に、火球が地面に着弾した。

津波のような衝撃が周囲を襲い、激しい光が一帯を包む。

その直後に土煙が地を這うように広がり、一切の視界を奪った。


「ぐわぁっ!!」


衝撃波によって、グリフォスの体が吹き飛ばされる。

もし今の技が人口密集地に撃たれれば、何千もの人間が一瞬のうちに跡形もなく消しとばされるだろう。

着弾した場所を中心に地面が抉れ、巨大なクレーターを形成していた。

その大きさが、火球の威力を物語っている。


「あの野郎…なりふり構わずか」


その時、グリフォスの体を、一気に力が抜けるような感覚が襲った。

思わず意識が飛びそうになるが、すんでのところで踏み止まる。

それほどダメージを受けたわけでもない。

おそらく、最後の力の影響だろう。

最後の力は本来、長時間使用できる技ではない。

だがゾルダーは強力すぎた。

あまり時間をかければ、ゾルダーを倒せないまま自分だけが死ぬという最悪の結果となってしまう。

それだけは避けねばならない。

その考えで、グリフォスは自分を奮い立たせた。

ゾルダーは、その鋭い瞳でこちらを睨みつけている。


「…どうした?やけに辛そうだな。最後の力の影響か?」


ゾルダーがわざとらしく心配したように言う。そして、勝ち誇ったような笑みを浮かべた。


「そう心配するな。すぐに楽にしてやる」

「ハァ…ハァ…クソ野郎」


グリフォスにはもう、言葉を返す余裕はなかった。

ゾルダー、再び紫の炎を燃やし始める。

グリフォスは最後の力を振り絞り、自身の口を青く輝かせた。







装置の周囲では、自衛隊とギデオン軍が激しい戦いを演じている。

メフィアとセイバーはその戦果をかいくぐり、オリジン・ストーンを求めて装置に接近していく。


「先に行け。雑魚どもは任せろ」


そう言うとエアルとセイバーは、迫り来るギデオン軍と相対した。

エアルが飛び上がって敵の翼を斬り落とし、セイバーがそこに火球を放つ。

手馴れたものだった。

やはり彼らも経験を積んでいるのだろう。

峰人とセーネを乗せたメフィアは、周囲のドラゴンと戦いながらまっすぐに装置の中心部を目指す。


「セーネいいわね?何としても峰人を守って。彼が鍵よ」

「分かってますよそんなこと!」


刹那、メフィアの翼に、ドラゴンの火球が直撃してしまう。

灰色の煙を描きながら、ゆっくりと高度が下がっていく。


「くっ!!」


態勢を立て倒そうとするが、翼を羽ばたかせても上昇しない。


「2人とも!降りて!」

「何だとぉ!?」

「いいから早く!!」


メフィアの指示で、峰人とセーネは仕方なくそこから飛び降りる。

2人の体は、幾何学的な形をしたものの上に投げ出された。丁度そこは、あの装置の上だった。


「ふぅ…なるほどな」


装置自体はかなり複雑な形をしているが、目的の場所は視認できた。

装置の中心部に太い柱があり、2体のドラゴンがそこを懸命に修復している。

柱からは、僅かだが緑色の光が漏れていた。


「あれがストーンで合ってるな?」

「ええ、間違いありません」


セーネに確認を取ると、峰人はそこへ一直線に駆け出した。

あそこに到達できれば、ゾルダーを倒すことができる。

ここが希望への道だ。


「そうはさせるかガキども!!」


1体のドラゴンが、2人に飛びかかろうとする。

しかし、突如背後に火球が直撃し、それは阻止されてしまう。

装置の上に投げ出されたギデオン軍のドラゴンの前に、緑色のドラゴンが立ち塞がった。


「貴様…レジスタンスだな?」


そのドラゴンと対峙するメフィアの目には、闘志が燃え盛っている。


「これ以上思い通りにいくとは思わないことね」


2体のドラゴンが、装置の上で壮絶な決闘を始めた。

それを尻目に、峰人とセーネは前へ前へと進んでいく。

しかし、数の上ではギデオン軍が圧倒的に有利だった。

また別のドラゴンが、2人の上に現れる。

ドラゴンは口に炎を宿して、形成された火球を2人の上に浴びせた。


「峰人危ない!!」


いち早く気づいたセーネが、峰人の体を前に突き飛ばす。

火球は丁度2人を分かつように、足場を破壊した。

幾何学的な形をした石が、そこら中からミシミシという音を立て始める。


「馬鹿野郎!装置をぶっ壊す気か!!」

「あっ…すまねぇ」


上から、ギデオン軍同士の会話が聞こえた。

峰人は、対岸に立つセーネを見つめていた。

2人の間の足場は完全に崩れ去り、飛び越えられる幅ではない。しばらく呆然としていたが、セーネの方が口を開いた。


「装置の隙間を通って移動してください。彼らは無闇にこの装置を破壊することが出来ないようですから」


この装置の複雑な形が幸いして、人間1人が通れそうなトンネル状の隙間がそこら中にあった。

ここならドラゴンは追ってこれない。

セーネと別れて狭いトンネルを、1人でゆっくりと進んでいく。

足元にはところどころ隙間があり、地上の様子が見える。

ここから落ちたら、まず助からないだろう。

その隙間から、時々強めの風が流れ込んでくる。

その度に足がすくむが、そんなことも言ってられない。

上からは、カチャカチャというドラゴンの歩く音が聞こえる。

一旦止まって呼吸を整え、覚悟を決めてストーンのところまで早足で移動していく。

まるで迷路のようだったが、何とか目的地まで到達できそうだ。


しばらく歩いたが、目的地まであとどの程度かわからない。

一旦トンネルを出てみることにした。

一番手近な隙間から、上半身を外に出す。


「うわっ!!?」


思わず声をあげてしまった。

確かに、この場所は目的地の目の前であった。

しかし、装置を修理しているドラゴン達とも鉢合わせる結果となってしまった。ドラゴン達が、ゆっくりとこちらに振り返る。


「何だ…?このガキは」

「何だろうと構わん」


片方のドラゴンが鉤爪を振り上げる。

峰人は最初にドラゴンに遭遇した時のことを思い出す。

あの時も、鉤爪で串刺しにされて殺されかけた。

だが今は、竜騎士の力がある。

峰人は竜剣を発現させ、その鉤爪に向かって思い切り刃をぶつけた。

衝撃で四方に火花が飛び散る。


「貴様…竜騎士か?」

「そうだ。よろしくな」


笑みを浮かべて強がって見せたが、正直言って危機的状況だ。

一旦逃げるしかないか?


そんなことを考えていると、突然2体のドラゴンを爆風が襲った。

ドラゴン達は態勢を崩し、ドシンとその場に倒れこむ。

峰人が驚いていると、その上空を2機のF-15戦闘機が通り過ぎていった。

思わぬ援護に笑みを浮かべながら、その太い柱に向けて竜剣を振るった。

柱が破壊されると、その中から峰人の身長ほどもありそうな巨大なオリジン・ストーンが、緑色の輝きと共に顔を覗かせた。

















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