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白球に駆ける  作者: らいとん
4/8

休日①

GW終盤。麻佑と弘恵は隣町のデパートに買い物へ向かった。目的地は行きつけのブティック。今日も弘恵のファッションショーが始まるのだった。

 GWも終わりがけの5月6日。私は弘恵と待ち合わせをしていた。バスに乗って街に出て、服を買いに行く。……だけなら普通の女の子のショッピングなのだが、多分、私たちはスポーツショップにも行くだろう。行こうって話はしてないけど。

「お待たせー!」

弘恵がバスを降りてきた。半そでのTシャツにデニムのショートパンツ。弘恵は大体いつもこんなファッションだ。

「結構待った?」

「まぁね。私2本前のバスで来たから」

弘恵は驚いたような顔をした。私は目的のお店に向けて歩き始め、その後ろを弘恵がついてきた。

「どしたの?珍しいね」

「美咲がうるさかったんだよ。早く家を出たくて。そしたら、ちょうどバスが来たからさ」

「あはは、美咲ちゃん相変わらず元気だね。また会いたいなぁ」

弘恵はうちに来たことがない。弘恵の家からだと、私の家は自転車でも相当頑張らないといけない距離なのだ。でも、妹の美咲とは、オウルーズの試合を見に来た時に面識があった。

「ひろは美咲好きだよね。ほんと、あげたいくらいだよ」

「えー、だって妹羨ましいもん。私なんて、お兄ちゃんと弟だよ」

弘恵は納得のいく家族構成だった。3人兄妹で、男兄弟に挟まれる形なのだ。どこか男勝りな性格なのは、絶対そのせい。

「まぁ確かに、私もお兄ちゃんとか弟が欲しいとは思わないかな……」

「でしょ?……ん?でもだったらどういう兄弟がよかったの?」

「一人っ子」

何度も考えたことがある。ひとりっ子だったら、なんて自由だったろう。

「えーっ!寂しいよそんなの!家で一人なんて、流石に耐えられないよー」

弘恵が叫ぶ。なんだかんだ、弘恵は兄弟と仲良しで、よく遊んでいると聞いている。まぁ確かに、弘恵が私みたいに一人で黙々とゲームしている姿は、あまり想像できない。

「慣れれば平気でしょ、きっと」

「いやいや、麻佑も流石にさびしいと思うよ?絶対美咲ちゃんいる方がいいって!」

「それはないと思うけどなー」

と言いつつ、弘恵の言うとおりかも、とも思った。なんだかんだ、私は美咲とよく遊んでる。あれが全くいなくなったら……うーん、寂しい、かも。

「そういえば連休は何してたの?」

横断歩道の信号待ちで、弘恵は話題を変えてきた。

「千葉のマザー牧場に行ってきたよ。家族で」

「えー、いいなぁ。私も3年生の時行ったことあるし、また行きたいよー。……あれ、でも弘恵って動物あんまり好きじゃないんじゃ?」

そう、私はあまり動物が好きじゃない。でも美咲が凄く行きたがっていたし、父親と母親も押してくるから、仕方なく行ったのだ。

「まぁね。でも割と楽しかったよ。人は多かったけど、自然多くて気持ちよかったし。動物園よりは楽しめたかな」

「あー、そっか。確かに平原!って感じだもんね、あそこ」

「ひろは?どこか行ったの?」

「うん、私は箱根の温泉に泊まりで行ったよー」

温泉、と言われて、私は素早く弘恵の顔を見た。私はどこに旅行行きたいか聞かれたら、迷いなく温泉と答える。のんびりできるし、気持ちいい。大好きなのだ。

「そっちのが全然羨ましいじゃん。……箱根とか全然行ってないよ」

「えへへー、気持ちよかったよ!正直、麻佑が羨ましがるのは知ってた!」

弘恵が得意げに笑っている。くそう、私も温泉に行きたいって両親にアピールすればよかった。

「初めてだったよ、部屋に温泉がついてたの!それも外で!」

「え、それって露天ってこと?私そんなところ行ったことないよ」

「普通大浴場だもんね。もちろんそれもあったんだけど、部屋だったら気軽に入れるからよかったよ!」

露天風呂が部屋で、一人で好きなタイミングで……想像するだけで、たまらない。今すぐ入りに行ってみたかった。

「いいなぁ……。独り占めってことだもんね」

「まぁそうだね。私はお兄ちゃんとか弟と一緒に入ったけど」

「え、そうなの?」

「うん、せっかくだしね。普通のところだと、一緒に入れないし」

私は驚いていた。私からすると、男子と一緒にお風呂に入るなんて、ありえないからだ。でも、兄妹だと違うのだろうか。お父さんと一緒に入るような感じ?

「恥ずかしくないの?お兄ちゃんとか、二個上でしょ?」

私は珍しく、興味津々といった感じで質問した。

「え?全然。麻佑だって、美咲ちゃんと一緒に入ったりするでしょ?」

弘恵は臆面もなく言い放つ。

「いやそれは入るけど、でも美咲は妹だもん。男兄弟は違くない?」

「えーどうなんだろう。あんまり意識したことないや。家でも、下着姿だったりするし」

「へぇー……そんなもんなんだ」

私にはなかなか理解できない話だった。男女の兄妹とは大体そんなものなのか、弘恵が特殊なのか。どちらか判断がつかなかったが、唯一つ、雪子に比べると、弘恵は幾分私側である、ということには確信をもてた。


私たちは行きつけの服屋に向かった。8階建てデパートの6階、子供服フロアにそのお店はある。今時の女の子向けのお店で、凄くお洒落な服がたくさんある。正直、私はファッションとかにあまりこだわりがないし、あまりお洒落なものを着ようとは思わない。でも、最近弘恵がファッションにはまっていて、よく行こうというのだ。その弘恵も、見ているだけで、滅多に買うことはないのだが。

「んー欲しいのがいっぱいあるなぁ。夏に向けて買いたいけど、お小遣いがなー……」

弘恵が呟きながら、色々な服を見ている。基本的に私は弘恵について回るだけだ。たまに可愛いなと思う服もあるけど、値段を見るととても買う気にはならない。

「麻佑っていつも自分で服買ってるの?」

弘恵がTシャツを手に取りながら、私に話しかけてきた。

「んー、めったにないかな。大体お母さんが買ってくる。一緒に行くこともあるけど」

私は近くのワンピースに目をやりながら答えた。

「そっかー。どこで買ってる?」

「大体しまむらだよ」

「あーやっぱり!私もそうなんだよー。一回、ここに連れて来てって行ってるんだけどさー」

多分それは無理だろう。ここの服1枚で、しまむらの服が2枚は買える。ワンピースとかなら、3枚は買えるかもしれない。

「あ、これとこれ合いそう。ちょっと、試着してくるね!」

そう言うと、弘恵は白とオレンジのタンクトップに、ベージュのキュロットを持って、試着室に向かった。私は黒で上品なワンピースが気になり、手に取って合わせてみていた。これからの季節、黒は暑いかなと思いつつ、好きな色だったので、かなりしっくりきた。ワンピースは一枚で済むし、楽だから好きだった。実際、私はTシャツとスカートの組み合わせの次くらいには、ワンピースを着ることが多かった。

「ねーねー、麻佑ちょっときてー!」

弘恵が試着室から呼んでいる。私は手に持っていたワンピースを元の場所に戻すと、試着室へ向かって行った。すると、弘恵が試着室のカーテンを開けた。

「どう?よくない?」

弘恵はさっき手に取った服を、上下両方着ていた。確かに似合っている。オレンジ色が活発な弘恵にマッチしているし、キュロットも、ちょっとゆるい感じが合っている。

「いいじゃん。弘恵結構こういうファッション似合うよね」

「でしょでしょ?あんまりキュロットって履かないんだけど、こんなに似合うなんて自分でもびっくり」

「そういえばハーフパンツばっかりだよね。スカートとかキュロットとか履かないの?」

言っておいてなんだが、あまりスカートを履いている弘恵はイメージできなかった。でもそれは、弘恵がハーフパンツばかり履いているからで、実は似合うかもしれない。……いや、ないな。

「いやースース―してなんか落ち着かないんだよね。そういう麻佑はスカートばっかりだよね」

「うん、だって楽だもん。落ち着かないのとか慣れだよ。ていうか、キュロットはそこまでスース―しなくない?」

「ん、スカートよりはね。慣れなのかなぁ」

「慣れ慣れ。試しにスカートも履いてみたら?」

そういうと、私は近くにあった赤いチェックのスカートを手に取り、弘恵に渡した。

「こういうの似合わないと思うけど、一回履いてみるかぁ」

そういうと、弘恵はそのままキュロットに手をかけ、おろし始めた。白いショーツがチラリと見えた。私は慌ててカーテンを閉めた。

「ちょっと、ちゃんと閉めてから着替えてよ」

私はちょっと怒り気味に、試着室の中の弘恵に声をかける。

「え?ごめんごめん。麻佑が立ってるから大丈夫かなって」

「大丈夫なわけないでしょ。全然見えるよ」

パサッ。カーテンの下から、ベージュのキュロットが見える。どうやら脱ぎ終わったようだ。

「いやー、結構気にするんだね麻佑って」

能天気に弘恵が続ける。

「別に、普通でしょ。むしろ気にしてない方だよ。クラスの友達に言われたし」

私は雪子のことを思い出しながら話した。雪子に比べれば、私なんて全然気にしない方だ。

「そうなの?でも、麻佑ってよくスカートだし、やっぱり結構気を遣ってるんじゃないの?」

「いや別に。だって普通にしてれば見えないでしょ」

そう私がいった瞬間、試着室のカーテンが開いた。弘恵が今度は赤いチェックのスカートを履いている。

「うーん……やっぱり、イマイチじゃない?」

弘恵が首を傾げている。確かに、私もピンとはきていない。でも、それは見慣れていないだけかもしれなかった。

「そんなことないよ。弘恵がそう思い込んでるだけだって」

「そうかなぁ。……っていうかダメだやっぱり。落ち着かないや」

そういうと、弘恵はすぐにカーテンを閉めてしまった。次の瞬間には、もうカーテンの下から赤いチェックのスカートが見えた。

「そういえばさ。最近男子がスカートの中を見ようとして来てるって、友達が言ってたよ」

弘恵が着替えながら話しかけてきた。

「見に来るって、スカートめくりとかするってこと?流石にうちの学校にそんな男子いないけど」

私は再び周りの服に目をやりながら、答えた。

「いやいや、そんな男子はうちにもいないよ。なんか、階段の下からとか見てくるんだって」

「階段の下?……あー、昇ってる時に、その下からってこと?」

私が試着室の方に振り向くと、カーテンの下から白とオレンジのTシャツも見えていた。どうやら、弘恵は上の着替えをしているようだ。

「そうそう。後は、折り返しの逆側からとか」

「ふーん。……そんな男子も、うちにはいないと思うけどな」

そう言い終わると、シャッとカーテンが開いた。弘恵が来た時の服装に戻り、手に試着したTシャツとスカート、キュロットを抱えている。

「お待たせ!……いやーわかんないよ?さり気なく見上げられてたら、気づかないし」

弘恵はいたずらそうに笑い、試着した服を戻しに向かった。

「何それ。そんなの分からないじゃん」

私は弘恵の後をついて行く。

「そうそう、分からないんだよ。だから怖いよねーって話」

弘恵は、最後のキュロットを元の場所に戻し終えて、こっちに向きかえった。

「さ、次のお店いこっか!麻佑は何か見たいのとかないの?」

「うーん、特にないかな。あんまりお金もないし。今日はとことん弘恵に付き合うよ」

実際のところ、お金がないわけではない。買いたいゲームのために、溜めているのだった。

「言ったなー?そしたら、次は7階だ!」

弘恵はにやりと笑って、そう言った。私もすぐに察し、にやりと笑い返した。

「そうなると思った」

「あれ?嫌だった?」

「……全然。むしろ、ここより私は楽しめそう」

「あははっ!そうこなくちゃ!よし、いこっ!」

そういうと私たちは、一つ上、7階に向かった。今度は弘恵の後ろではなく、並んで、むしろ私が少し先行する形で、歩いていた。7階、スポーツフロア。ここに私たち行きつけの、野球用品専門店があった。私たちはもう何度も来たこのお店に、お昼の時間を軽く過ぎるくらいまで居座るのだった。

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