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白球に駆ける  作者: らいとん
2/8

学校①

体を動かすのが好きではない麻佑は、昼休みも室内にいることが多い。今日もクラスで仲良しの雪子と共に、図書室に向かう。

 キーンコーンカーンコーン、キーンコーンカーンコーン。

校内にベルが響き渡る。

「はい、それじゃあ授業終わり。給食の準備をしよう。今日の給食当番は3班」

佐藤先生が指示を出す。私はようやく退屈な社会の時間が終わって、軽く伸びをした。今日は火曜日。放課後には、練習がある。給食を食べたらお昼休みは図書室で本でも読んでゆっくりしよう。そんなことを考えていると、雪子が私の席に来た。

「ねー、麻佑。来週の土曜日空いてない?久しぶりに私の家で遊ぼうよ」

雪子は私の幼馴染で、幼稚園からの友達だ。雪子も私と同じくあまり外で遊ぶのは好きじゃないから、遊ぶのは大体どちらかの家であることが多い。

「あーごめん。その日は試合だ。お母さんに言われたの?」

「そっかぁ、残念。うん、久しぶりに麻佑ちゃん家に呼んだら?って」

確かに久しぶりだ。高学年になって練習日が増えたから放課後遊びに行くことはほとんどなくなってしまった。休みの日も、今回みたいに試合があって遊べないことが多い。

「ごめんね。ゆっきーのお母さんにも謝っておいて。そだ、その次の土曜はどう?」

「えーっと、私は大丈夫だけど、一応帰ったらお母さんに聞いてみるね!」

「うん、よろしく」

私たちの中での暗黙の了解で、お互い突然遊びに行くことはほとんどなかった。こんな感じで、予め親に許可を取ってから、遊ぶに行くようにしていた。別にそれを強制されているわけではなかったけど、突然行くのはなんだか申し訳ない気がしていて、何よりずっと前からそうだから、別に窮屈だとか、そんな思いはなかった。

「私給食食べたら図書室行こうと思ってるんだけど、ゆっきーは?」

「あ、じゃあ私も一緒に行こうかな。先週、読みかけてた本があるから。あ、でも先行ってていいよ。私食べるの遅いから」

「うん、分かった。あ、給食の準備できたみたい」

気がつくと、3班が給食を持ってきて、配膳を始めていた。私たちは並んで、それぞれのメニューをよそってもらう。ご飯を貰おうとしたところで、配膳をしている崇紘が話しかけてきた。

「おっ、まゆゆか。よし、多めにしてやる」

崇紘がいじわるそうに呟きながら、ご飯を盛り始めた。クラスの男子は最近、私をまゆゆと呼んでくる。正直あまり気に入っていない。

「いらないよ。たかちゃん、余計なことやめて」

崇紘は手を止めることなく盛り続けている。

「お、なんだダイエットか?そういえばなんかお腹が……」

私は崇紘の言葉を遮った。

「違うって。元々私があんまり食べないの知ってるでしょ。ほら、もうそれでいいから」

そう言うと、まだ盛る気満々の崇紘から、半ば強引にご飯の皿を奪い取った。

「おっと!何すんだまったく……」

何かぶつぶつ言っていたが、私は気にせず列を前に進んだ。崇紘はオウルーズで会う時は全然ちょっかいを出してこないのに、学校では何かと私に突っかけてくる。まぁ流石にチームでの練習中に無視はできないし、そういう意味では丁度いいけど。


 給食を食べ終えた私は、ちらっと雪子の方を見た。案の定まだ食べている。私は図書室に行くため席を立ち、ヒラヒラと手を雪子の方に振った。それに気づいた雪子は、箸を持っていない左手で、軽く手を振りかえしてくれた。

 廊下に出ると、給食を食べ終えた男子グループがいた。どうやら今日は何をして遊ぼうか話しているようだ。輪の中には崇紘もいる。

「おいまゆゆ。俺らこれからサッカーやるんだ。一緒にやろうぜ」

男子グループの1人、俊輔が話しかけてきた。俊輔はクラスのボス的存在で、常に男子の中心にいる。運動神経もよく、バスケのクラブに入っているらしい。ただ、最近やたら女子にちょっかいをかけてくるので、女子グループからは明らかに嫌われ始めている。

「やらない。気分じゃないし」

私はそっけなく答えると、図書室に向かって歩き始めた。

「お前いつなら気分なんだよ」

俊輔が若干語気を強めて言ってきたが、私は無視して歩き続けた。まぁ確かに、私が彼らと一緒に遊ぶ気分の日はないかもしれない。

「ああいうやつなんだって」

後から崇紘がなだめているのが聞こえた。崇紘と私は学校で仲良く話すことはない。むしろ、言葉を交わせば互いに皮肉を言いあうことの方が多い。だけど、こうやって他の男子に私が責められそうになると、さり気なく庇ってくれていた。まぁ、後で練習の時にぐちぐち言われたりもするんだけど。別に私は気にしてないから、庇ってくれたりしなくてもいいんだけどな、などと考えながら、私は階段を降り始めた。

「あ……」

折り返しになっている階段の下側に、同じクラスの孝佑がいた。彼は上を見上げていて、ちょうど私と目があったのだ。私も彼もすぐに目をそらし、すれ違うときに軽く会釈をした。普段はクラスの子とすれ違っても会釈なんてしないんだけど。何となくつられてしまった。孝佑は大人しく、休み時間も教室で遊ぶような男子だ。俊輔たちの活発な男子グループと違って、大人しい男子たちはあまり女子に話しかけてこない。そして、高学年になると、女子から男子に話しかけに行くことはほとんどなかった。だから、孝佑みたいな大人しい男子とは、同じクラスでもほとんど話したことがないのだった。


 図書室にいって先週から読んでいた小説を読んでいると、雪子が少し急ぎ気味にやってきた。

「お待たせ。何読んでるの?」

「ん、小説。ミステリーかな」

私は本に目を落としたまま、答えた。

「そっか、麻佑ちゃんそういうの好きだもんね。私は何読もうかなぁ」

そういうと雪子は私が座っていた席の近くにある本棚に目を向け始めた。私は構わず小説を読み進める。

「あ、そういえば教室出ていくとき俊ちゃんに話しかけられてなかった?」

どうやら、雪子は私に手を振った後、教室を出ていくところまで目で追っていたようだ。彼に話しかけられたのは私にとってどうでもいいことだったから、雪子に話を振られても何のことかすぐに呑み込めず、少し間があいた。

「……あーうん。かけられた」

「なんだったの?」

「サッカーしよって。断ったけど」

雪子と話している間も、私は小説を読むのをやめなかった。

「麻佑ちゃん運動神経いいもんね。……よいしょっと。でも今日の服じゃちょっと無理だよね」

雪子は何か本を持って、私の隣に座ってきた。私はようやく小説から目を切り、雪子を見た。

「服?何か関係あるの?」

私の今日の服はキリンとクマがデザインされた半袖のTシャツに、青いチェックのスカートだ。別段動きにくい要素はない。だから本当に不思議に思って私は聞いたのだが、質問された雪子はもっと不思議そうな顔をした。

「え、だってほら、スカートじゃない」

「でも別にタイトじゃないし、ロングでもないし、動くの問題ないよ」

私は座ったまま、軽くスカートを手ではためかせてみせた。

「いやいや。サッカーやったら、見えちゃうかもしれなくない?」

なるほど。ようやく私にも合点がいった。確かに雪子は結構気にする子だった。朝会とかで床に座る時とか、周囲に気を配り、かなり気を付けている。私は全然気にせず座ってるから、何回か見えてたよって言われたこともある。流石に指摘されると恥ずかしいから、現在進行形ならともかく、過去形なら秘密にしといてよ、って内心では思っていた。

「大丈夫でしょ。あんまりスカートでサッカーやったことないけど、そんな激しく動くわけじゃないし」

実際、サッカーは授業以外であまりやらないから、どうなるかほとんど想像できなかった。授業でサッカーやっているときに、これスカートなら見えてたな、とか気にすることなんてないし。

「転んだりしたら見えちゃうかもしれないよ。麻佑ちゃん、重ねてないでしょ?」

「うん」

重ねる、とは重ね履きのことだ。前回私の家で遊んだ時、あれはまだ4年生だったけど、じゃれて雪子のスカートの中が見えたことがある。ブルマみたいなものを、重ね履きしていた。その時に私が「なんでそんなの履いてるの?」と聞いたら、雪子は「寒いから」と答えていた。でもきっと、当時からパンツを見られたら恥ずかしいという意識があったんだろう。今日は雪子も私と同じくらいの丈のベージュのスカートを履いているが、重ね履きをしているに違いない。

「麻佑ちゃんただでさえ隙が多いから、履いた方がいいと思うけどなぁ」

「あれ暑そうだし嫌」

「そんなに暑くないよ。今だけかもだけど……」

そう。これから夏になったら暑いに決まっている。……と私は思っていた。実際は、履いたことがないし分からないけど。でもどうやら、雪子も夏に重ね履きをしたことはないようだ。

「でもそれなら、なんでサッカー行かなかったの?」

雪子が元の話に戻してきた。

「いや私元々体動かすの好きじゃないし。だからよくゆっきーとお昼はまったりしてるんじゃない」

私は再び小説に目を戻した。

「うん、知ってるけど、不思議だなーって。私は運動が苦手だから、好きじゃないけど、麻佑ちゃんは運動神経いいじゃない。野球もしてるし」

雪子も自分が持ってきた本を広げながら、話を続けた。

「別にできるから好きなわけじゃないよ。ほら、本だって、誰でも読むことは出来るけど、読書好きな人と嫌いな人がいるでしょ。同じ同じ」

私は半ば適当に流して、小説を読み進める。

「え?うーん、なんか違う気がするけど……。俊ちゃんが、あいつは運動できるから、授業とかで試合しても楽しいって言ってたよ」

「へぇー。ゆっきー、俊ちゃんと話したりするんだ?」

私は軽く雪子に目をやった。俊輔は女子にちょっかいをかけるだけでまともな会話をしないと思っていたから、雪子と喋っていることが意外だったのだ。

「え?そんなによくは喋らないけどね……。でも、たまに下校が一緒になった時とか」

雪子は本に目を落としたまま答えた。今度は雪子が、私の方を見なかった。

「あぁ、二人とも藤見の方だもんね。大丈夫?ちょっかい出されたりしてない?」

「ううん、大丈夫。二人でいるときは、結構俊ちゃん大人しいから。確かに他の友達いるとちょっとだけど……」

「へぇー、そうなんだ」

俊輔が二人だと大人しいというのは意外だった。そういえば、私はほとんど俊輔と二人きりになることないし、知らなくて当然といえば当然だ。まぁ、崇紘が学校とクラブとで私への接し方が違うようなものかな、と私は勝手に解釈した。

 それから暫く、私たちは本を読むのに集中した。休み時間が終わる5分前、「そろそろ戻ろっか」と雪子が言ったので、私たちは立ち上がり、それぞれ本を元の本棚に戻した。私が自分の本を戻し振り向くと、雪子が本棚の高いところに本を戻そうとしていた。私はしゃがんでいて、雪子は背伸びしていたから、角度的にたまたまスカートの中が見えてしまった。私の読み通り、たしかに紺色のブルマを重ね履きしていた。でも、同時に、ブルマからちょこっとピンク色のショーツが顔を出しているのも見えてしまった。私はしっかり重ね履きをしている雪子の抜け目のなさに感心する一方、ひょっこり顔を出しているピンク色に、どこか安心感を覚えるのだった。

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