鬼猿リメイク〈シゲル・オブ・ザ・ダーク〉
それは極々普通だった青年の物語。
青年の名は石橋茂。平々凡々の普通の学生だった。
学校の帰り道、良く見る別高の不良が屯しているのを見かけ、関わらぬよう早足で通り過ぎようとした瞬間、
『おい、そのこテメェ、なに俺達の前歩いてんだ? あぁ?』
「いえ……あの、家に帰るのに、通らなくちゃならなくて……駅がそこなので……」
『あぁ? 良く聞こえねぇよ! ハッキリ喋れや! 殺すぞ?』
「えぇと……あの、駅がすぐそこなのでこの道を通るんです」
『チッ、なんかテメェの態度きにんねぇわ。ちょっと面貸せや』
茂は強引に連れていかれ、行き着いた先は薄暗い路地裏だった。
そこには、他の仲間と思われる不良が、何処かの生徒を殴り付けているのがわかった。
『アハハ! まだソイツ使ってんのかよ!』
『あぁ、コイツ俺の服を血で汚しやがったんだ。……チッ、気にいんねぇ!』
等と言い、ボロボロの学生を殴る不良達を見て、咄嗟に茂は言った。
「その人を殴るのを止めろ!」
『はぁ? なんだテメェ? おい、ソイツちょっと貸せや』
『いいけど、壊すなよ? 俺だって殴りてぇんだから』
大柄な男は、茂を何度も何度も殴り付ける。茂はたまらず吐血する。
『殺すなよ?』
意識が遠退く中、誰かが茂の名前を呼んでいるのがわかった――この声は、誰だ。
頭の中で、誰かが囁いてくる。
(茂、茂! しっかりしろ! 茂)
誰かはわからなかった――だが、茂に『怒り』という名の勇気を与えた。
その時、何事も無かったように茂は立ち上がり、不良を睨み付けた。
瞬間、茂の目は充血したかのように真っ赤に染まり、表情は怒りに満ちた鬼――その者だった。
茂は足元に落ちていた鉄パイプを拾い上げ、「皆殺しだ」と呟き、不良に襲いかかった。
路地裏に重々しい音が幾度となく響き渡る
喧嘩、と言うには一方的過ぎる。何度も殴り反り血で赤く染まった拳を何度も何度も降り下ろした
一回殴る毎に、茂は別人になっていってしまうんじゃないだろうか、というほどに。
これが、茂の覚醒であった。
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茂は猿のお面を被り、『鬼猿』と名乗った、茂の強みは圧倒的な運動神経と、異様な切れ味に長い刀身を持つ刀を自由自在に扱うこと。
茂は暴力集団、不良、密売者などの穀潰し共に一方的な攻撃を仕掛けるようになった。
茂のやり方は一撃必殺。殺られる前に、殺れ。
鬼猿の噂は、裏社会へと瞬く間に広がっていった。
いつものように、茂は暴力団を襲っていた。暴力団は全員始末したはずだったが――後ろから何かが飛んで来るのが分かった。
茂は避けきれずに、手持ちの刀でソレを叩き切る。飛んできた何かは砕けた。辺りには沢山の氷の結晶が無造に出現しており、それに酸素が薄い。
茂は辺りを見回した。するとそこには――氷属性である、ムツキが立っていた。
「ムツキイイイイイイ!」
「シゲルウウウウウウ!」
茂は泣いていた。なぜなら、かつての親友がムツキだからである。
激戦が始まった。茂は縦に刀を降り下ろす。ムツキはそれを鎌で止めた。そして二人は、尋常ではない速さで武器を繰り出す。
そのあと、死んだ。