02. 救世主は双子の少女
死ぬ覚悟とか、8歳の子供に持てるはずがなく、只諦めと絶望で受け入れようとした死は、一向にやってこなかった。
その代わりにやってきたのは、巨大なモノが崩れる音だった。
どうしたのだろうと、翔は目を開ける。
その目に映ったのは、先程まで自分を恐怖のどん底に陥れていた砂の竜が、二つの何かに怯え暴れている光景だった。
「…へ?」
思わず、翔は声を出す。久しぶりに出した声は酷く枯れていて、乾いた喉が痛みを訴えた。
状況をしっかり見ようと、何度も瞬きをして視界を良好にすると、砂の竜の周りを素早く動いている二つの何かが、二人の子供だということを認識できた。
翔よりも幼いであろう二人は、御揃いの赤と白が入った着物を着ている。肩まである髪は、重力に従って上や下に流れるが、ぼさぼさになることはない。翔の位置からでは、顔がよく見えないが、赤と白で別々に違う髪の色でなんとなく区別はつく。
二人の少女は、砂の竜の周りを飛んでいる。自分達より何百倍と大きい砂の竜に怯えることなく、着々と砂を削っていく。
砂の竜は抵抗し少女達に危害を加えようとするが、攻撃は全て避けられ、今や砂の塊となってしまった。
無害に等しいそれを目の前に、翔は唖然として声を発することも動くこともできない。
今の翔にできることは、二人の少女の動きを眺めている事だけだった。
「やなぎ、あとはおねがいするわね。わたしはそこにいるひとをみてくるわ」
「はい、ねえさま。ねえさまのおいいつけどおりに」
砂の塊が無抵抗になったのを確認したのか、二人は翔の前に降り立って少し言葉を交わすと、赤い髪の少女はこちらへ、白い髪の少女は塊の方へと向かっていった。
すぐ近くまで来た赤髪の少女を見る。先程まで見えなかった少女の顔は、とても愛らしかった。雪の様に白い肌は、柔らかそうな頬のところだけ紅潮している。前髪が左目を隠しており、右目だけしか見えない。その右目はきらきらと輝く金色で、大きくて今にも零れ落ちそうだった。仄かに色づいた唇は上品に弧を描いている。
「だいじょうぶ?」
「え、あ…うん」
「そう、よかった。もうあんしんしてね。おれいは、やなぎがふういんしてくれるから」
にっこりと小首を傾げて微笑む少女に、翔は知らず顔を赤くして目をそらす。
ぎこちなく視線を彷徨わせていると、後ろのほうで塊に向かって弓矢を構えるもう一人の少女が見えた。少女がなにかを唱えると、弓矢が発光し、少女を包む。
「え、ちょっ、あの子、見えなくなったけど!?」
驚いて赤髪の少女を振り返れば、少女は変わらず微笑んでそうね、と頷く。
「やなぎがあやかしのちからをつかったからね。まえよりひかりはつよくなったけど、まだまだだわ」
「あやかし…?妖怪のこと?」
「いいえ、ちがうわ。あやかしははなにつかさどるものだもの」
「花に、司る…?」
意味が分からず首を傾げる翔に、少女も何が分からないのか分からない、とでも言うように小首を傾げる。
「ええ。あやかしはさいしょ、はなにつかさどっていて、きにいったひとをみつけたら、こんどはそのひとにつかさどって、のうりょくをあたえてくれるのよ。ちなみにわたしは雪椿を。やなぎは雪柳をつかさどっているわ」
すごいでしょう、といわんばかりに腰に手を当て胸を張る少女だが、翔はやはり意味が分からず混乱するばかり。更に深く聞こうとすると、後ろからこちらへ向かってくる足音が聞こえた。
「ねえさま。おれいのふういん、かんりょういたしました。これから、いかがなさいますか」
後ろを振り向くと同時に、やなぎと呼ばれていた白髪の少女が、赤髪の少女に向かって淡々と話す。
白髪の少女は、赤髪の少女とそっくりな顔をしており、右目を前髪で隠している。左目は、血の様に赤い色をしていた。頬は同じく紅潮しているが、唇は真一文字に引かれており、表情がない。
「あら、おつかれさま、やなぎ。じょうできだったわ」
「ありがとうございます」
慈しみに溢れた表情で赤髪の少女は微笑むと、自分と同じ高さにある頭を優しく撫でる。白髪の少女はされるがままになりながら、少し照れたように顔を赤くさせた。
そんな仲睦まじい様子を見ながら翔は、つい思ったことを口に出す。
曰く、
「いや、君見てなかったじゃん」
と。
白髪の少女が封印?をしていた時、赤髪の少女は自分と話しており見ていなかった筈だが。
しかし、その言葉を双子は大きく首を振ることによって否定した。
「いいえ、わたしはちゃあんとみてたわ。わたし、あなたよりみえるはんいがひろいもの」
「ねえさまはみたとおっしゃっているから、それはあなたのかんちがい。ねえさまはいつでも、やなぎのことをみてくださっている」
「ああ、そう……」
二人からの反論に、翔は呆れたように口を噤んだ。
双子はまだしたっ足らずなので口調を平仮名で書いています。
読みにくくてすみません…!!




