ファンタジーショートショート:間に合わない勇者
とある城の地下に薄暗い部屋の中床にはほんのり薄く光る魔法陣がありました。そしてその光が急に強くなったかと思うと爆発でもしたのかという轟音が鳴り響きます。その部屋を守っている兵士達もあまりの衝撃に目を回していると、そこに一人の青年が立っていることにようやく気が付きました。
「勇者の召喚に成功」
この知らせに城内は、全員が全員落胆のため息を漏らしたとそうです。訳も分からず召喚された青年が王と面会すると、王は気まずそうに話し始めました。
「この世界は魔王の手で滅びる寸前であったのだ。そしてそれを何とか食い止めるため我々は勇者の召喚という手段に出たのだ。そして召喚されたのが君ということになる。」
その王の言葉に若干戸惑いながら青年は応えます。
「寸前だったとは過去形なのですか?」
「うむ。魔王はお前が召喚される前の日に多大なる犠牲を払いどうにかこうにか倒すことに成功したのだ。世界中が一つに団結すればどうにかなるもんだのぅ。ハッハッハッ・・・」
「え。じゃあ僕は一体何のために・・・」
「いや召喚を行っても待てど暮せど現れる気配は無く、忘れかけておったからの。スマン」
「スマンと言われましても。これからどうすれば?帰還の道はあるのでしょうか?」
「それもスマンとしか言いようがないの。帰還の道は無い。元々魔王を倒した暁には、余の後継者になってもらうつもりであったのだが、それももう別の者に決定して居るし。まぁこの世界の仕組みやらは勿論教えてやるし、色々勇者として召喚された為か色々加護もあるようだ。まぁ不自由な生活にはなるまいて」
そんな王の無茶苦茶な話にもめげずに青年は冒険者としての道を歩み始めるのでした。なぜ冒険者なのかと言うと。
「勇者をどこかの国は占有することを禁止したのだ。最早力を振るってもらう場所は無く、魔王との戦いで人口はかなり減ってしまったからの。人同士で戦をしている場合ではないのだ」
と言うことからでした。しかし規格外なのは戦う力だけと言う青年がつける職業ともなると冒険者位しか道が無かったのです。
勇者である青年は、冒険者としてみるみる頭角を現しました。しかし何故か彼が絡む案件は、全て殲滅戦ばかりで人を救出したり村を守ったりと言う実績がありませんでした。
それもそのはず、彼は何時も間に合わなかったのです。人を救出する任務にあたっても既に殺害された後であったり、村や砦を守る任務もたどり着くころには既に奪取された後だったからです。それでも勇者としての力はあるため敵を全て殲滅して退けるのでした。
おかげで「間に合わない英雄」だのと妙なあだ名までつけられ、誰も彼と防衛任務に就きたがらなくなってしまいました。そうしている間に彼は忽然と姿を消してしまいました。しかし誰も気に留めることはありません。世界は勇者が要らない位に平和になっていたのです。
しかしその平和も長くは続きませんでした。十数年後、突如倒したはずに魔王が、復活したのです。
「馬鹿な⁉あの時確実に首をはねたはずではなかったのか?」
狼狽える王に側近達が答えます。
「どうやら敗北濃厚と悟った魔王は、密かに体を分け力を蓄えていたようです」
その報告に王は唸ります。
「忌々しい!そういえば勇者はどうした!あの十数年前に間に合わなかったあの勇者は!」
「冒険者登録してからの足跡が見つかりませぬ。もしかすると何処かで野垂れ死んでいるやも・・・」
「また間に合わなかったとでも言うつもりか!」
激高する王のもとへ伝令が慌てて駆け込んできます。
「ご報告です!魔王が倒されました!倒したのは何とあの勇者です。勇者が相打ちと言う形で魔王を倒しました!」
それこそ城内に激震が走りました。
「なんと!もう倒されたのか。しかもそれを倒したのは勇者であると。間違いないのか!」
「はい。以前魔王を倒した場所に魔王と勇者が倒れており、付近は破壊しつくされておりました恐らくかなりの戦闘が繰り広げられていた模様です」
何故そこに勇者が居たのかそれは誰も分かりませんでしたが、王は兵を総出で調べ上げたところ勇者は、魔王の復活を察知し、それを防ぐために行動していたのでした。しかし何故か「間に合わない」為、彼はあることを思いついたのでした。
「復活する場所が分かっているのだからそこで待っていればいいのだ」
こうして勇者は復活する場所で待ち続けました。何年も何年も。そこを通りかかった旅人になぜここにいるのかと聞かれた勇者は
「こればかりは間に合わないではすまないんだ」
と語っていたそうです。
「最後の最後で間に合ってくれたか勇者よ」
王は勇者に感謝の念が堪えませんでした。