80話 卒業
校庭の桜が咲き始め、花びらが真っ青な空を彩る中。
『卒業証書、授与』
卒業式は、厳かに行われた。
◆
『──』
「はい」
式では、クラスごとに五十音順で名前を呼ばれる。
返事をした後、起立。
次は優斗君、その次は僕の番。
『月夜野優斗』
「はい」
名前を読まれて、優斗君が立ち上がった。
2秒ほど間を開けて、僕の名前が読まれる。
『連宮奏太』
「はい」
あと数年でお別れする(予定の)名前に対して、最大限の誠意で返事をする。
全員の名前が読まれて、卒業生代表が壇上で卒業証書を受け取る。
在校生代表の送辞の後、卒業生代表が再び壇上に上がり、答辞を読み始めた。
『答辞。厳しい寒さを抜け、すぐそこに春が来ようとしている今日この頃──』
◆◆
感慨深い──のだろうか。なんて言えばいいんだ、この感覚は。
3年間、色々ありすぎてまだ実感が湧いてこねぇ。
特に、1年の途中からは。
隣に座る、連宮と関わるようになってからは。
最初に二人きりで話したのは、夏休み明けの初日。
夏休み中に終わらなかった課題を見せてくれ、なんて具合に頼んだのだったか。
今になって思えば、なんて情けない姿を晒したんだ俺は、とか思ったりもするけど、あれも大切な思い出だ。一生憶えているだろう。
2年からは、更に色々あった。
美月が転入してきて、秋には連宮たちが家に来て、冬は連宮たちと初詣に行って。
3年だと、夏休みから色々あったな。特に連宮とのことは。
……美月のことでもそうだけど。
本当に、連宮に会えてよかった。
俺の3年間の集大成は、そんな想いだった。
◆◆
みんなにとっては3年間、私にとっては2年間。
この学校で過ごした日々という意味でも、『私らしく』過ごせた、という意味でも。
色々あった──ホントに色々あった2年間だった。
お兄ちゃんから『転入してみないか』って言われたときは、私にしては珍しく、あまり迷わずに答えを出せた。
多分、お兄ちゃんが体験してる学校生活に、憧れてたから……なのかな。
お兄ちゃんも、お父さんもお母さんも色々動いてくれて、この学校に転入できるのが決まった時は、それはもう嬉しかった。
と同時に。
すごく、不安だったのを憶えている。
最初にクラスでやった自己紹介の時も、いつも通り──『悪い意味で』いつも通りに自己紹介してしまったのも、不安があったからなんだろう。
後から聞いた話だと、根原君は、私が『嘘』を吐いていたのに気づいてたのだとか。さすが嘘が分かる根原君。高波さんにもバレていたっぽいし、そんなに変だったのかな、あの頃の私。
あの後、文学部で連宮君と会って、本当の私を出せる場所が増えて。
今まで色々あったけど。
この学校に転入して、本当によかった。
◆◆
卒業かー!
さみしいよーー!!
……と心の中で叫ぶ。
この学校で、みかみん以外にも、すごく仲のいい友達ができた。
つれみーとねはらっちと、ゆーととつっきー。
ねはらっちに関しては、友達を越えて恋人になって、今では『悟君』呼びである。
ふふん、自慢!
──楽しかった日々に、スタート地点があったのだとしたら。
それは間違いなく、つれみーと初めて会ったあの日なのだろう。
みかみんの家に行って、つれみーの姿を見て、私の中の何かが動き始めてから。
みかみんとつれみーと3人で、入院している悟君のお見舞いに行ったり。
悟君を意識し始めて、想いを伝えるために頑張ってみたり。
楽しかった!!
今までで一番、ワクワクして面白くて、とにかく楽しかった。
この気持ちを胸に、大学行っても頑張るよー!
◆◆
この3年間で、自分の居場所ができた。
学校でもそうだけど、確かなのは、家の方。
一人称が『自分』でも、怒られなくなった。
普段スカートを履かなくても、指摘されなくなった。
何より、両親との仲が良くなった。
中学で高波さんに、高校で連宮君や根原君たちと出会って。
──最初は、そういう人たちからの影響だけど。
自分を持てた。
自分と、向き合えた。
色々あった。これからも、きっと色々なことが起きるだろう。
でも、もう自分は大丈夫。
自分なら、大丈夫。
自身を持って、これから先を生きていこう。
◆◆
友達ができた。それも、何人も。
俺の価値観を知っても、なお親しくしてくれた人が、たくさんいる。
気付けたのは、きっと連宮君のおかげ。
連宮君と友達になったあの日から、俺自身も何かが変わったのだろう。
周囲の人への態度などが、きっと。
……そういえば。
俺が入院して、連宮君たち3人がお見舞いに来てくれた、次の日。
佳奈美が、真っ先に一人だけで病室に来て、母さんと話をしてくれたらしい。
俺は寝ていて分からなかったから、後になって母さんから聞いた話によると、随分と真っ直ぐな目をしていたらしい。母さん曰く『芯が通っている人』。
その佳奈美と、今は付き合っている。
──正直、実感が未だにあまりないのだけど。
幸せという感覚は、確かに感じている。
良い3年間だった。
ここから先も、頑張れそうだ。
◆◆
根原君と出会って、友達になって。
三上さんと出会って、内面を表に出せて。
高波さんと出会って、仲良くなって。
優斗君と出会って、手助けしてもらったりして。
美月さんと出会って、今度は僕が手助けしたりして。
まとめることができないほどに、楽しいことだらけの高校生活。
将来、過去に戻りたくなることもあるだろう。そんな過去の開始地点が、高校生活初日の、根原君と出会ったあの瞬間。
今でも憶えている、最初の印象は『強い人』『自分という存在を持っている人』。
僕も、そんな存在になれたのだろうか。
強くなって、僕だけの何かを、持てたのだろうか。
今はまだ、分からないけれど。
この3年間を思い返した時、きっと答えが出せるだろう。
思い返そうとする時まで、真っ直ぐに生き続けよう。
◆◆
◆
答辞の終盤に読み上げられた、僕らが体験した文化祭や体育祭の話で色々こみ上げてきてしまい、案の定号泣。
その後の合唱も、歌えてたか歌えてなかったか、正直記憶が曖昧だけど。
『卒業生退場』
卒業式定番の曲で退場する時に見た、真菜の泣きそうな顔ははっきりと覚えていた。
◆◆◆
退場し、校庭に集まる卒業生。その少し後に、在校生も校庭へ。
「お兄ちゃん、皆さん!」
「真菜?」
いつものメンバー6人で話していると、後ろから真菜の声。
振り返ると、若干泣きそうな顔の真菜。
「ご卒業、おめでとうございます! あたし、先輩たちと過ごした日々、絶対忘れませんから!」
「! ……ありがと、真菜」
「真菜ちゃん、ありがとね」
僕と三上さんに続き、他の4人も真菜と話す。
──さて、ここからが本番だ。
「よし、行くよ悟君!」
「うん、佳奈美」
「2人とも頑張って。応援してるよ」
三上さんに応援された高波さんと根原君は、それぞれの親の元へ。
「行こうか、連宮」
「うん、優斗君」
「気張らずにね、2人とも」
「頑張ってね、お兄ちゃん!」
美月さんと真菜の声援を受け、僕と優斗君もそれぞれの親の元へ。最初は優斗君の両親の所に行く。
◆◆◆
特筆すべきことがないくらいに、それぞれの親への挨拶は上手くいった。
その後、駅前のファミレスにみんなとその親とで集まって、食事をした。
高波さんと『離れてても友達だよ』なんて話したり、三上さんと『お互い頑張ろうね』なんて鼓舞し合ったり。
楽しい時間は、あっという間に過ぎてしまい。
「それじゃ、僕はこっちだから」
「うん。ねえ、連宮君」
「なに?」
「『また会おうね』」
──それはきっと、決まり文句ではない。
学校終わりに言う『またね』とは違う、──『約束』。
「うん、根原君。『また会おうね』」
「……元気でね、連宮君!」
それだけ言って、根原君は自分の家へと走っていった。
僕も帰ろう。
短大に行く準備とか、引っ越すための片づけとか、やらなければいけないことがたくさんある。
だけれども。
家に向かう足取りは、軽快なものだった。




