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夢見少年物語  作者: イノタックス
1章 春の出会い
8/81

8話 殻

翌日、水曜日。

今日も早めに学校に着き、根原君と好きな音楽について話していると、昨日と同じくらいの時間に、三上さんが来た。


「三上さん、おはよう!」

「おはよう、根原君。連宮君も、おはよう」

「おはよ、三上さん」


──あれ、高波さんは一緒じゃないのかな。


「連宮君、ちょっといい?」

「どうかしたの?」

「教えておきたい──というか、伝えておきたいことがあって」


伝えたいこと?

よく分からないけど、聞いてみよう。


「ん、分かった。根原君、ちょっと行ってくるね」


『気にしなくていいよー』という言葉を聞いてから、僕と三上さんは教室から出た。



「で、どうかしたの?」

「自分の両親のことで、少し、ね」


教室前の廊下で、三上さんに訊く。

三上さんの両親のこと──何か進展があったのかな。


「昨日の夜、母さんと話したんだよ。その……自分のことについて、色々とね」

「だ、大丈夫だったの?」


三上さんの両親、難色──ってほどではないにしても、すぐに理解できるような感じではなかったと思うのだけど。


「案外大丈夫だったよ。もちろん、全部を理解してくれたわけじゃない、というか──まだあまり理解してもらえてないけど、理解しようとしてくれている、ってのは話してて分かった」

「そう……それじゃあ、あまり進展はなかったの?」

「いや、そういうわけでもないよ」


少し嬉しそうに、はにかみながら、三上さんは話す。


「母さんに教えてもらったんだけど、自分の父さん、自分にかけてきた言葉が正しかったのか、ってすごく悩んでくれたらしくて。だから、少しだけだけど、進展はあったって言えるかもね」

「よかった……心配してたんだけど、三上さんの家のこと、上手くいってるみたいだね」

「うん。連宮君のおかげ、だよ」


僕のおかげ、ってどういうこと?


「父さんたちに、連宮君自身のことを話してくれたでしょ? そのことで、父さんと母さん、自分の他にも自分みたいな人がいる、ってことが分かったらしくて。だから、少し考えが変わったみたいだよ」

「ああ、そういうことね」


話してよかった、そう強く思った。


「だから、連宮君、本当にありがとう」

「気にしなくていいのに……どういたしまして」


なんとかなりそうで、よかった。


「さて、教室に戻ろうか──」

「お、みかみんとつれみー発見! おはよう、お二人さん!」


生徒用玄関の方から、高波さんが颯爽と登場。

やっぱり、少しだけ来るのが遅いような。


「おはよう、高波さん」

「おはよ、高波さん」

「2人とも……相変わらず『さん付け』だね」

「あはは……」


誰かをあだ名で呼ぶのは、友達がほとんどいなかった僕にはかなりきついのだ。


「みかみんには3年間ずっと、私のこと『あだ名で呼んで』って言ってるのに」

「女子同士があだ名で呼び合うのは、普通なのかもしれないけど、ほら、自分いろいろあるし」

「むぅ。……待って、そっか、ということは!」

「どうかしたの、高波さん?」


何かを考え付いたらしく、両手をパン、と叩いて、満面の笑みで高波さんは話す。

──僕に向かって。


「つれみーは私のこと、あだ名で呼べるんじゃない!?」

「うーん……この身体で女子のことをあだ名呼びすると、悪目立ちしそうだから、難しいかも」

「むむぅ。──あ、そうだ、根原君なら!」


そう言って、物凄い勢いで教室に入っていった高波さん。

後を追って、僕らも教室に入る。



「むむむぅ……」


根原君の机の横で、高波さんは撃沈していた。

どうやら、駄目だったようだ。


「根原君、高波さんのお願い、断ったの?」

「知り合ったばかりだし、何よりあだ名呼びなんてしたことないからね。ひとまず断ったよ」


『それだけの理由で断られたの!?』と高波さんが嘆いているけど、至って一般的な理由だと思う。


「まあ、そのうち呼ぶかもしれないから、期待しないで待っていてよ」

「オッケー分かった! 期待しまくってやるわ!」

「あれ、おかしいな……そんなこと行った憶えないんだけど」

「私にはそう聞こえたわ! ふはははは!」


なぜか高笑いしている高波さん。

無理やりにでもテンションを上げようとしているようだ。


「さて、そろそろ1時間目の用意をしなければ」

「1時間目の用意って──あ、そっか、移動だっけ」


明日からは普通の授業が始まるけど、今日はまだ特別授業がある。

今日の1時間目は、情報室で行われるんだった。

確か、『情報の授業に向けて、様々な機能を前もって知っておこう!』みたいな授業名だった気がする。


「根原君、持ち物って筆記用具だけだよね」

「うん。まだ早いけど、行っちゃおうか」


1時間目ということと、1年4組のクラスから情報室までが遠いということもあり、朝のホームルームは情報室で行うことになっている。

その方がパソコンを触れる時間が取れるから、と先生は言っていた。


「高波さんと三上さんも準備できた?」

「できたよん、みかみんもほら、早く!」

「はいはい。それじゃ、行こっか」


僕達4人は、情報室へと出発した。


◆◆◆


1日の授業が終わり、放課後は根原君と三上さん、高波さんと帰った。

文学部は水曜、土曜、日曜が休みで、軽音楽部は火曜、水曜、日曜が休みらしい。

1週間に2日間だけだけど、休みがかぶっていてよかった。


帰宅後、夕ご飯を食べて、僕の部屋で。


「♪~♪~」


僕は、上機嫌で──『殻』をまとっていた。


「……うん、やっぱりこっちの方が楽しい」


友達が3人もできて、文学部という面白い部活も見つけたし、高校生活は上手くいきそう。

こんなに明るい気持ちで、この殻をまとうのは初めてだ。


「髪の毛、伸ばそうかな……」


『殻』。

女の子が身にまとう──殻。

やっぱり、この殻は落ち着く。

自然体でいられるような、そんな感じ。


「三上さん、か」


僕とは真逆の悩みを持つ人。

僕と似た人がいるのは知っていたけど、実際に会うことになるとは思っていなかった。


「頑張れそう、かな」


うん、頑張れそう。

色々あるだろうけど、乗り越えていかなくちゃ。


「よっ……と」


ベッドに横になり、枕元で充電しているスマホを持つ。

電源を入れて、電話帳を開く。

少ししか登録していないから、すぐに見つかった。


「『根原君』、『三上さん』、『高波さん』──みんな、いい人だな」


本当、みんな、いい人たち……だ……。

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