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夢見少年物語  作者: イノタックス
15章 大好きな人に

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77話 卒業式前日

「いよいよ明日だね、お兄ちゃん」

「うん、明日……なんだね」


2月28日、正午過ぎ。

卒業式練習を終えて、僕と真菜は帰路についていた。


「……? どうかしたの? なんか元気なさそう」

「いや、元気だけど……まだ実感が湧かなくて」

「明日卒業するってことに?」

「うん」


昨日も卒業式練習はあった。

その時から思っていたことなのだけど、どうも『卒業する』という実感が湧いてこない。

それに付随した『学校生活が楽しかった』とか『卒業するのが悲しい』という感覚も、それほど。


「先輩たちもこんな感じだったのかなぁ」


学校生活は楽しかった。

卒業するのは、やっぱり悲しい──というか、寂しい。

でもなぜか、そこまで強くは思わない。


「変な感覚なんだよ」

「ふーん……ま、元気ならいいんだけどね。あ、お父さん! ただいまー!」


自宅の駐車場で車を洗っているお父さんを発見し、駆け寄る真菜。


「おかえり、真菜。奏太も、おかえり」

「うん、ただいま。手伝うことある?」

「いや、奏太はゆっくりしてな。明日は大事な卒業式なんだから」

「んー……うん、わかった」


言われた通り、自室でのんびりすることにする。


◆◆◆


ご飯を食べ終え、ベッドでゴロゴロすること2時間、午前3時。


「うーん……」


ふと思い立ち、クローゼットの一番奥に隠してあった女物の服をごっそり取り出し、ベッドの上に広げて眺め始める。


「これ……かな。いやこっちも」


どこかへ出かけるわけじゃない。

ただ、記録しておこうと思ったのだ。


「高校生の僕、か」


今日までの、高校生としての僕を。

度々助けてもらった、この服たちと一緒に。



「うん、こんな感じかな」


大体決まった。

袖口がエンジェルスリーブのピンクのシャツと、藍色のフレアスカート。

女性より少し筋肉質な足を隠すため、黒のタイツも忘れずに。


「こんな感じ、かな」


勉強机の上にスマホを立てて、一度撮ってみる。



「えっと、これは……」


違うな。

いやだって、この写真の雰囲気って、完全に──


「証明写真みたいな顔だね、お兄ちゃん」


ですもんね。

──って、え?


「真菜!?」

「あれ、気付いてなかった? ノックしたとき、返事聞こえたんだけど……」

「そ、そういえば……」


夢中になってたから、無意識で返事しちゃったのかも。


「あ、ご、ごめん! こんな格好見せちゃって……」

「え? ……ああ、そういうことね。結構似合ってたから、いい意味で衝撃的だったけど……変だとは思わないよ?」

「あ、ありがと……」


この姿を褒められると、結構嬉しい。


「私が撮ってあげる、お兄ちゃん」

「え?」

「お兄ちゃん、きっと光の加減しか気にしないで撮ってたでしょ。そうじゃなくて──」


パシャリ。


「こんな感じで」

「おぉ……」


すごい、自分でも可愛く見える。


「角度も大事なんだから。よーし、撮影会を始めるよ!」

「え? ……えぇー!?」

「まずはここに立って! で、右手はこう!」

「は、はい!」


言われるがまま、ポーズを決めて撮られる。

──楽しいと思う自分もいたり。



結局、撮影会(?)は2時間ほど続いた。

僕だけじゃなく、真菜も一緒に撮った。

『楽しそうだから』と飛び入り参加してきたお母さんも、一緒に撮った。

お父さんも、タイマー付きのカメラを持ちだしてきて、全員で撮った。


家族写真を、本当の僕の姿で、撮った。


本当の姿で、撮れた。


◆◆◆


夕ご飯を食べ終えて、お風呂に入って、部屋の電気を消してベッドに横になり、布団をかける。


「……」


いざ、寝よう──としても寝れないもので。

昼間のことを思い出す。


「楽しそうだったなぁ」


真菜も、お母さんも、お父さんも。

すっごく、楽しそうだった。


この時間になって、ようやくわかったことがある。

僕よりも、お父さんたちの方がそわそわしていたのだ。

まるで自分のことかのように、卒業式を楽しみにしていたのだ。


「……ふふっ」


嬉しい。

本当の僕を、当たり前のように受け入れてくれていた。



スマホの画面を開いて、昼間に撮った写真をもう一度見る。


「……ああ」


なんて、楽しそうな顔で笑っているのだろう。

真菜も、お母さんも、お父さんも。


僕自身も。


「……おやすみ」


スマホの電源を消して、暗闇に包まれる。

今なら、ゆっくり眠れそうだ。

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