76話 2月のアレコレ
優斗君と付き合い始めた。
そのことに対する、周りの反応は如何に。
──まあ、予想通り、と言ったところ。
周りの人といっても、根原君たちのような、親しい友達にしか言っていない。
だからだろうけど、祝福一色だった。
その反応でまた涙ぐんでしまったのは、今は置いておく。
さて、告白の一件から少し経ち、1月中旬から始まったものがある。
それは──
◆◆◆
──自宅学習期間。
大学受験に向けて、最後の追い込みをする時期。
その中でも今日、2月10日は特別な日。
本命の大学の、受験日前日である。
ひたすら勉強してきたし、特に課題はない──はずなのだけど、それでも不安は残っているもので。
午後11時、夜遅くに申し訳ないかなぁと思いつつも、僕は優斗君に電話をかけていた。
『連宮? どうかしたのか?』
「ごめんね、夜遅くに。明日のことでちょっと」
『明日? ……ああ、受験だったな。不安で寝付けない、とかか?』
「うん、そんなところ」
ああ、落ち着く。
優斗君の声で、不安だった気持ちが消えていく。
「一応、勉強は結構してきたつもりだし、不安なことはないはずなんだけど……」
『不安になっても仕方ないと思うぜ。ここでの結果が、これからの4年間に直接繋がるんだからさ。……まあ、大学受験しない俺が言うのも変なんだけど、あまり気負わない方がいいと思うぜ?』
「うん、そうする」
『ああ。リラックスしていけよ』
──その後、少し会話して電話を終えた。
好きな人の声を聞く──それだけで、リラックスできた気がする。
明日に備えて、もう寝よう。
明日、頑張ろう。
◆◆◆
受験は本命・滑り止め共に、良い手ごたえを感じられるくらいにはできた、と思う。
そんなこんなで、受験のために特にドタバタしていた2月10日~13日が終わり、今日は2月14日。
バレンタインデーである。
「ごめんね、急に押しかけちゃって」
「気にしないで、さ、入って入って。今お兄ちゃん呼んでくるね」
「うん、お願い」
午後3時。小さな紙袋を手に持ち、やってきたのは月夜野家。
チョコを渡そうと思ったのだけど、『渡したいものがあるから僕の家に来て』というのは少し違うと思い、優斗君に『家に行くね』とだけメールして、直接月夜野家に来た。
今日は優斗君たちの親は仕事らしく、出迎えてくれたのは美月さんだった。
「お邪魔します……!」
意を決して、月夜野家にお邪魔する。
以前来た時とは違い、今はその、こ、恋人……に会いに来たわけだから、相当緊張している。
ヤバいもん、心臓がバクバクしてるのが自分でも分かるもん。
リビングで待つこと2分。
「お待たせ、連宮」
「優斗君! ごめんね、急に」
「いや、大丈夫だよ。それで、その……」
「あ、うん! ちょっと渡したいものがあって!」
優斗君、僕が何の用で来たのか分かってる様子。
まあ、2月14日に恋人が来たんだもん、分かるに決まってるよね。
「どうぞ!」
「お、おう、ありがとな」
お互い照れつつ、チョコの受け渡し、無事完了。
「開けてもいいか?」
「ど、どうぞ」
丁寧に包装紙をはがして、小さな箱を空ける。
「おお……」
「あの、簡単なものでごめんね? それが限界で……」
買ってそのままのチョコではなく、溶かしてナッツを混ぜ、型抜きをしたもの。
星形、動物の形、……ハート形。一応、それなりに上手く作れたと思う。
「食べても?」
「もちろん」
「んむっ、……ん、美味い!」
「ホント!?」
よ、よかったぁ……。
味見はしたけど、優斗君のお口に合うかは分からなかったから、ようやく安心できた。
「ありがとな、連宮。マジで嬉しいよ」
「う、うん。えへへ……」
ふふっ、喜んでくれた。頬が緩んで仕方ない。
◆◆◆
10分後、連宮と一緒に、連宮家の方向へ歩く。
家まで送るつもりだったのだが。
「ここで大丈夫だよ」
「そうか? ……分かった。今日は本当にありがとな、連宮」
「ううん、僕も喜んでもらえて嬉しかったよ。それじゃ、またね」
「ああ、またな」
軽快なステップで家へと向かう連宮の背中を少しの間見届け、俺も帰るため振り返る。
──と、そこには。
「顔がにやけてますぜ、お兄ちゃん」
「おわっ!? って、美月か……おどかすなよ」
後ろをついてきてたらしい、美月がいた。
「全く……帰るぞ、美月」
「ふふふ、お兄ちゃん」
「な、なんだよ」
なぜか嬉しそうに笑う美月。一体なんだって──
「幸せ者だね、お兄ちゃん」
「……ああ、そうだな」
「ん、やけに素直だね?」
「今日くらいはな」
そういう日なんだよ。
「ふーん……」
「だから、何だって」
まだ嬉しそうに笑っている。
何が面白くて、そんな表情に?
「よかったね、お兄ちゃん!」
「……っ! ああ、そうだな!」
驚いた。こいつ、俺が幸せそうなのを心の底から喜んでるんだ。
──ああ、そうか。
◆◆
辛そうだった美月のために、躍起になって色々と調べたのも。
引きこもりがちだった美月を、連宮に会わせるため、強引に文化祭へ連れて行ったのも。
『この学校に、転入してみないか?』
あの時の決断も、間違っていなかった。
何一つ、間違っていなかったんだ。
◆◆
「お兄ちゃん、今度はどうしたの?」
「ん?」
「急に穏やかな顔になっちゃって」
……ああ、そうだな。
「連宮には頭が上がらないなぁ、と思ってさ」
「当たり前じゃん! だって連宮君だよ?」
「ふはっ、なんだよその理論」
「えぇー、お兄ちゃんにも分かるでしょ?」
「分かるけどさ、くふ、ふはっ……」
からかいつつ、からかわれつつ、歩く。
まだ肌寒い日が続く。
早く、家に帰ろう。




