75話 大好きな人に
走ってここまで来たのはいいけれど。
『聞いて、くれますか?』
聞いてくれるだろうか。
十日以上も待たせてしまったけど、僕の話、聞いてくれるだろうか。
まだ、待っててくれただろうか。
乱れた息を整えつつ、優斗君の言葉を待つ。
「……ああ」
僕の目を正面から見つめて、優斗君は口を開く。
「聞くよ。聞かせてくれ」
まだ、間に合うみたい。
◆
「えっと、その……告白の返事について、です」
「だ、だろうな」
なんか、ぎこちない。
「返事の前に、優斗君に訊きたいことがあるんだけど」
「え、何を?」
最初に返事をすれば、もっとスムーズに会話できるんだろうけど。
でも、このことを訊いてからじゃないと、返事しちゃダメな気がする。
「僕の……僕のどこを好きになったのか、いつから好きだったのか、知りたいな、って思って」
「どこを、いつから……か」
「あ、言える範囲でいいんだけど……」
「全部言うよ。告白したのは俺だ、ちゃんと全部話す」
えーっと、と少し考えて、ぽつりぽつりと話し出した。
「いつから、ってのは……多分だけど、2年の秋ごろかな」
「2年の秋……」
「体育祭の時にはもう、好きになってた」
ということは、僕がみんなと月夜野家に行った時にはもう、僕のことを好きだったのか。
……そんな素振り、全然なかったから気付かなかった。
「好きになったところは……お前の存在そのものっつーか、なんつーか……」
「存在?」
「ああ。上手く言えねぇけど、お前がいてくれると幸せになれる……っつーか……その……」
言いながら、顔全体が真っ赤になっていく。
どんどん声が小さくなって、顔は下を向いていって、もうほとんど何も聞こえない。
「ゆ、優斗君?」
「……ああもう! 思ったまま言うぞ!」
「は、はい!」
吹っ切れたみたい。
「『どこを』ってのは──具体的には言い表せない。お前の内面に惹かれたのか、外見に惹かれたのか……ってのも、やっぱ分かんねぇ」
「は、はぁ……」
「だけどよ、これだけは言えるぜ」
下がっていた視線を上げて、再び、僕をまっすぐに見つめて。
「俺は、お前の全部が好きだ。お前の全部を、受け入れたい!」
「……!」
「上から目線っぽくて悪いが、これが、俺の今思ってることの全部だ!」
「……」
「え、あれ、連宮?」
──『受け入れたい』。
その言葉で、その想いで、僕は。
「……ひぐっ」
「え゛っ!? わ、悪い! やっぱ上から目線過ぎたよな、『受け入れたい』なんて……すまん! なんて詫びたらいいか──」
「ひぐっ……違う、よ」
「え?」
違うよ、優斗君。
逆なんだ。僕は、その言葉で──
「『受け入れたい』って言ってくれて、すっごく嬉しかったんだ。こんな僕でも、居場所があるんだ──って。僕のことを、そんな風に思ってくれる人がいるんだ──って、嬉しくって」
泣いてしまったんだ。
自分の性別で悩んだ日々も。
いじめられて、辛かった日々も。
それでも諦めきれずに、一生懸命、頑張った日々も。
何もかもが、報われたような気がして。
「本当に、嬉しくて……」
涙が止まらない。
告白の返事をしないといけないのに、上手く喋れそうにない。
「……そっか」
ふわっ、と。
優しく、抱きしめられた。
「ゆうと、くん?」
「頑張ったな」
「……!」
「気が済むまで泣いとけ。返事はその後でいいからさ」
「うぅ……そんなこと言われたらぁ……ひぐっ、ううっ……」
泣き止めそうにない。
今は、優斗君に甘えよう。
◆◆◆
「落ち着いたか?」
「……うん」
恥ずかしいところを見せてしまった。
──よし。
「じゃあ、その……告白の返事、します」
「ああ」
ぎこちなかった空気は、既に消えていた。
言葉が、自然と溢れ出る。
「告白してくれて、すごく嬉しかったです。……僕も、優斗君のことが大好きです。──付き合いましょう」
「……ああ!」
また、抱きしめられた。
今度はふわっとした感じじゃなく、ちょっと強めに。
「ありがとな、連宮」
「ふふっ、こちらこそ。……ね、優斗君。嫌じゃなければ、なんだけど……」
「ん? ……ああ、嫌なわけない」
差し出した唇に、優斗君の唇が重なっ──
『キーンコーンカーンコーン』
「……あ、予鈴が……」
「あ、ああ、そうだな。……えっと……」
「……ふふっ」
「くくっ……」
二人で、笑い合う。
なんて間の抜けた、初々しさ。
「キスはまた今度、な」
「うん。……えへへ」
「じゃあ……教室に戻るか。急ぐぞ、連宮」
「うん!」
生徒用玄関に向かって、二人で走りだす。
「ねえ、優斗君!」
「なんだ?」
走りながら、息は乱れながら、それでも伝わるように、はっきりと。
「僕も、優斗君がいてくれると、幸せだよ!」
「……そっか!」
ああ、優斗君が笑ってくれた。
僕だって、すっごく、すっごーく幸せなんだよ。
この気持ち、少しでも伝わってたら、嬉しいな。
◆◆◆
辺りに人はいないから、もしも、の話になるけれど。
走っている僕らを見たら、どんな関係だと思うのだろう。
友達だろうか。ただの友達ではなく、親友に見えるだろうか。
それとも──好き合う二人に、見えるだろうか。
そんな風に見てもらえるように、自然とそう見えるように。
そこから、そんな努力から始めよう。
ここから、二人で。




