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夢見少年物語  作者: イノタックス
15章 大好きな人に

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74話 アドバイス

「で、逃げてきちゃった、と」

「はい……」


午前11時、自室のベッドに腰掛けて話す。

相手は、勉強机とセットになっている椅子に座って、ふふっ、と笑ってる水留さん。

起きたことを一通り話したら、この反応。


「笑わないでくださいぃ……」

「おっと、ごめんごめん」


いつもの優しい笑顔に戻った。


「それにしても、さっきはびっくりしたよ。帰ってくるなりすごい勢いで2階に行ったんだもん、真菜ちゃんと一緒じゃなかったし、喧嘩でもしたの? ……って」

「あ、真菜のこと忘れてた!」

「今!?」


うん、今初めて思い出した。

なんかもう、僕と、その、……優斗君、以外の人のことが頭からすっぽり抜けてた。

というか、なんで返事をしないで逃げるように帰ってきちゃったのだろう。自分でも不思議。


「混乱してたんだろうね、多分。初めての経験でしょ?」

「当たり前ですよ……まさか僕が、こっ、告白されるなんて」


15分ほど前の、神社での出来事。

思い出しただけでも、頬が熱くなる。


告白されたときは、それはもうびっくり──という感じではなかった。

なんでだろうね、驚きより嬉しさが勝ったのかも。大好きな人に言ってもらえたことが本当に嬉しくて、心の底から『幸せ!』って思えて。


「で、どうするの? 神社に戻って返事する? 真菜ちゃんが帰ってきてないから、まだ他の人は神社にいる、ってことだろうし、優斗君って子もまだ神社にいるかも──」

「返事、なんですけど」

「?」


逃げてきた理由、混乱してた──というものの他に、もう一つあるのだ。


「ちょっと迷ってて」

「迷ってる……でも、優斗君のこと、好きなんでしょ?」

「は、はい。そうなんですけど」

「……まさか、奏太ちゃん」


ぐいっと近づき、僕の顔を覗き込まれる。

かと思ったら、もう、と言いつつ離れて椅子に座り直した。

奏太ちゃんのことだから、どうせ──と、呆れながら話す水留さん。

その態度、まるで僕の考えが分かってるみたいじゃないですか。


「性別のことで相手に迷惑かけたくないから、断った方がいいんじゃないか、なんて考えてるんでしょ」


完璧に分かってるじゃないですか。

さすが水留さん、と褒めてごまかせるような空気じゃないみたいだから、正直に答える。


「はい、そう思ってます。でも、本当のことですよね?」

「そりゃあまあ、そうかもしれないけど」

「だったら僕は、告白の返事は──」

「奏太ちゃん」

「は、はい」


今度はじーっと目を見つめられた。

……目というか、さらに奥の何かを見られてるような、そんな感覚。


「理性と本能」

「はい?」


いきなり出てきた2つの単語。

え、何の話……?


「というのとは少し違うかな。建前と本心、って言った方が分かりやすいかも」

「建前と、本心……」

「『建前』は、告白を断ろうとしてる心。『本心』は……」


──告白を承諾したい心。

言われなくても分かってる。


「見る視点によっては、建前じゃないんだろうけどね」

「視点、ですか」

「ええ」


えっとね、と考えをまとめてから、説明が始まる。


「当たり前だけど、『本心』は奏太ちゃんのしたいことよね」

「ま、まぁ……」

「じゃあ、さっきの『建前』は誰が望んでいること? 優斗君は告白してきた相手だから違うよね。友達や家族? それとも、ほかの人?」

「それは……」


誰が望んでいるかは、わからない。


「世間体を気にして、断ろうとしてるんだろうけど」

「まあ、優斗君の将来に関わることですし──」

「その優斗君が、奏太ちゃんと付き合いたいーって言ってるのに?」

「あ……」


そっか、優斗君が望んでいるのは……。

まったくもう、と再び呆れつつ立ち上がり、水留さんは僕の頭をなでた。


「昔──私と遊んでた頃みたいに『内面がバレたら嫌われるかも』なんて考える必要はないんだから、もっと気楽に、ね?」

「……はい」

「よし、この話は終わり! 神社には戻らないんでしょ? だったら久しぶりにおしゃべりでもしない? 真菜ちゃんが帰ってくるまで、昔みたいに二人きりで」

「はい!」


うだうだ悩んでも仕方ない。

すぐには無理かもだけど、返事、必ず伝えよう。

僕の気持ちを、伝えよう。


◆◆◆


1週間が過ぎ、1月の第2週へ突入。

今日は始業式だけで終わり。帰る時に、優斗君に返事をしよう!



──そう思ってた。

そう決心したはずなのだけど。


「はぁ……」


既に、金曜日のお昼休み。言えないまま、今週が終わろうとしていた。


「大変そうだね、連宮君」


お弁当を食べ終え、自分の机で突っ伏していると、頭上から聞き慣れた声。


「三上さん……真菜から聞いたよ? 美月さんと協力して、僕と優斗君が二人きりになるように仕向けたって」

「うっ……その節は本当に申し訳なく……いやホントごめんなさい」

「え、いや、そんな謝らなくても……」


素直に謝られて、こっちが変に申し訳なくなっちゃった。


「怒ってる……よね?」

「いや、全然。怒るのは真菜がやってくれたみたいだし」

「それも知ってるのか……。うん、自分と美月さん、めちゃくちゃ怒られたよ。というか、叱られた」


話によると、激高に近い感じで叱ったらしい。急かせたら駄目、みたいなことを言ったとのこと。

真菜が激高……あの真菜が。全く想像できない。


「反省したよ、本当に」

「もう気にしてないってのに。……あ、じゃあ相談してもいい? それでチャラってことで」

「相談?」

「うん。その……告白の、返事のタイミングについて」

「あぁ……タイミング、ねぇ。気にしない方がいいと思うけど」


気にしない方がいい……ってどういうこと?

大事なことだと思うんだけど。


「それを考えてたから、今の今まで返事できなかったんでしょ?」

「う、そうだけど……」

「だったら、難しいことは置いといて、したいようにすればいいと思うよ。まだ返事したくないならしなければいい。返事したいなら──すぐにするべきだよ」

「う、うん! じゃあ……あれ?」


声をかけようと思い、優斗君の席を見てみたのだけど、誰もいない。


「ありゃ、優斗君、どっか行ってるのかな」

「みたいだね。残念……でも、すぐに返事することにする。ありがと、三上さん」

「いえいえ」


……まだお昼休みは30分以上あるのに、優斗君、どこに行ったのかな。

そういえば、お昼休みが始まってすぐに、教室からいなくなってた気がする。

一体、どこに……?


◆◆◆


「はぁ……」


教室に、居づらい。



いや、だって、仕方ないだろう。告白した相手が同じ教室にいるのって、かなり気まずいのだ。

告白したら逃げられて、返事をもらえず、学校が始まってもろくに会話できていない状況。──うーん、絶望的?

ってうわ、あと20分で昼休み終わっちまう、そろそろ戻るか……?


「やぁ」

「……根原か。こんなところに何の用だ?」

「そっちこそ。わざわざ校舎から遠いサッカー場まで来て、昼食かい?」

「たまにはサッカー場まで来てみようかなーと」


言ってから気付く。

そういえばこいつって……。


「俺が嘘を見抜けるの、知ってるでしょ?」

「そういやそうでしたねぇ。……別に、構わないだろ?」

「構わないけど、気にはなったよ。逃げるみたいに早足でこっちに向かってたから。らしくないじゃないか」


……反論の一つでもしようか。

めんどいからいいや。


「……本当に、君らしくないね」


ため息と苦笑を同時にされた。

つまり、呆れられた。


「わりぃ、心配かけちまったな」

「気にしないで。……連宮君から返事、まだもらえてないんでしょ」

「うっ……」


的確に痛いところを突いてくる。

笑うつもりじゃなく、これも心配で言ってきてんだろうけど。


「俺のせいで、あいつ悩んでるよな。……なあ根原、俺どうすればいいんだ?」

「ガチの相談だね」

「頼む、知恵を貸してくれ。協力してくれ。この通りだ!」

「はいはい。……そうだなぁ、ちょっと待ってね」


携帯を取り出し、少し操作してから自分の耳にあてがう根原。

どこにかけてるんだろうか。


「あ、連宮君? 根原だけど。お探しの優斗君ならサッカー場にいたよ。……そう、ベンチがあるあたりのとこ。それじゃあね~」

「は!?」


え、ちょ、おま、嘘だろ!?


「はい、協力終わり。連宮君に訊かれてたからね、『優斗君がどこにいるか知らない?』って。じゃ、あとは若いお二人に任せて~みたいな?」

「いやいやいや、急すぎねぇか!?」

「遅すぎるの間違いでしょ。告白してから何日経ってると思ってるのさ」

「そりゃあそうだけど……っておい、どこに」

「言ったでしょ?」


歩き出した根原は足を止め、振り向いて。


「若いお二人──当人たちに任せるんだ。頑張ってね、『当人その1』。それじゃあねー」

「え、マジで……?」


最後の問いには答えず、根原は校舎へ向かっていった。

マジか……いやホント、マジか……。



5分後。慣れ親しんだサッカー場を眺めて心を落ち着かせていると、たったった、と後ろから足音。

すぐ近くまで来て、音は止んだ。

腹を決めて、振り向くとそこには──案の定、あいつの姿があった。


「はぁ、はぁ……あの、優斗君!」

「お、おう」


今まで見たことがないような気迫に、戸惑った。

何かを決断したような、そんな気迫。



「大事な話があります。……聞いて、くれますか?」

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