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夢見少年物語  作者: イノタックス
15章 大好きな人に

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73話 元旦は、忙しなく

「……まっくら」


ではない。にしても、まだ暗い。

ピピピピ、ピピピピ──と起床の時間を知らせる音で目を覚ましたけど、まだ暗い。

カーテンを開けると、ほんのりと明るくなりつつある空。


「……ろくじぃ?」


枕元の時計は、午前6時15分を指していた。

随分早い時間に目覚ましをセットしたなぁ、なんて思考を巡らせつつ、今日何かあったっけ……と起き上がる。

寝ぼけ眼をこすりつつ、部屋の電気を点けると同時、思い出した。


「あ、そっか」


今日は、元旦だ。



早く起きたおかげで、ベランダから初日の出が見られた。昨日の僕、ナイス。

着替えを終え、午前7時。既に1階から物音がしている。お母さんたちはもう起きてるみたい。


階段を降り、台所へ。


「おはよ、お母さん」

「あら、おはよ、奏太。それと、あけましておめでとうございます」

「うん、あけましておめでとうございます。何か手伝うことはある?」


台所のテーブルには、おせちやお刺身が置かれていた。

今は昨日作っておいたお雑煮を温めているみたい。手伝えることがあれば、手伝おう。


「それじゃあ、そこの料理とお皿とかを居間に運んでおいてもらえる? あ、居間のテーブルはまだ拭いてないから──」

「分かった、拭いとくよ」

「お願いね、奏太」


台拭きを手に取り、水で濡らし、絞って居間に持っていく。



「えっと、真菜のお箸はここに……うん?」


食器を並べていると、玄関のチャイムが聞こえてきた。

お母さんは手が塞がってるみたいだから、僕が見に行く。


玄関のドアを開けると、そこには。


「あ! あけましておめでとうございます、奏太ちゃん♪」

「水留さん! あけましておめでとうございます!」


1年ぶりに会う、水留さんがいた。



午前8時半。

居間でお父さんと真菜も加えた5人で新年の挨拶を交わして、料理を食べつつ、新年の抱負とかを話す。

特に水留さんとは1年ぶりで、お互いに話したいことがいっぱいあったから、思う存分話した。


で、1時間と10分後、午前9時40分。初詣に行くため、僕と真菜は家を出発した。

10分ほど歩き、去年も一昨年も来た神社に到着。

集合時間10分前だけど、僕たち以外の5人──三上さん、高波さん、根原君、美月さん、優斗君──は既に神社前にいた。


「あ、おはよーつれみー! 真菜ちゃん!」

「おはよ、高波さん」

「おはようございます、高波先輩!」


新年も元気そうな高波さんに迎えられ、合流。


「よーし、つれみーと真菜ちゃんも来たし、新年の挨拶と参りましょう!」

「そうだね。それじゃあ……」


みんなで一斉に、声を揃えて。


『あけまして、おめでとうございます!』



挨拶の後、お参りの列に並んで少しずつ前へと進み、拝殿前へ到着。

僕と真菜が(7人の中では)最初にお参りをする。

お賽銭を入れて、2回礼、2回拍手、で──


(お願い事は……)


決まっているから、心の中で唱える。


(……あの人に秘密を言えるように、力を貸してください)


一礼を終えて、社務所へ続く道へ歩き出してから、ふと思う。


(受験突破とか、そんな感じのことを願った方が……)


よかったんじゃないか、と。

まあ、そっちは自分でなんとかしよう。お願い事が逆の方が良かったような気がひたすらしてるけど、学業のお守りを買えばなんとかなる……と信じたい。信じよう。神様お願い。



そんなこんなで、学業成就と健康祈願のお守りを買い、社務所を後にする。

お参りを終え、後から社務所に来た5人のうち、高波さんと根原君がかなり親密になっていたのに驚いた。名前で呼び合ってるし。

『付き合い始めた』という簡単な連絡は根原君から来たけど、実際に目にするまで信じられなかった──というのが本音。でもまあ、あんなに仲良さそうに話してるし、心配することは何もなさそう。


さて、僕と真菜は一足先に、神社前に戻っていよう。

──と思ったのだけど、真菜は後方の美月さんの元へ走っていってしまった。懐いてるなぁ……。


◆◆◆


……うん、真菜ちゃんは私のとこに呼べたし、お兄ちゃんとは自然な──はぐれた感じで離れられた。

三上さんは高波さんと根原君に声をかけられたみたい。

それじゃ、行動開始、と三上さんと目で合図を取り、私と真菜ちゃんが先頭で、屋台が出ている広場──神社前とは若干離れた場所に、5人で向かう。


「み、美月先輩? お兄ちゃんと優斗先輩は……」

「用事があるんだって」

「は、はぁ……」


適当なことを言って、はぐらかしておく。後でちゃんと説明しておこう。

後方では、根原君が苦笑していた。高波さんと根原君、真菜ちゃん──の3人の中では、彼だけが事情を察しているみたい。


一応、お兄ちゃんには連絡しておこう。


◆◆◆


「あれ?」

「どうかしたの、優斗君?」

「いや、他の──美月たちがいねぇな、と思って」

「あれ、ホントだ。はぐれちゃったのかな」


人数的に考えると、はぐれたのは俺たちの方な気が。

そう口にしようとしたとき、ズボンの左ポケットの中で携帯が震えた。

メッセージだ。誰から──え、美月から?


『お兄ちゃんへ。

 ふたりきりにするために、私たちは神社前じゃないところに来てるよ!

 

 伝えたいこと、あるんでしょ?

 だったら、ちゃんと勇気を出して伝えなきゃ。

 頑張って、お兄ちゃん!』


「あ、あいつ……」


強引な手を使ってきやがった。

──でもまあ、なんだ。俺のことを考えて、こうしてくれたんだろうし。


(後でお礼しておかないとな。……ん?)


またメッセージが来た。


『追伸

 焼きそばとわたあめおいしい!』


「えぇ……」


ずっこけそうになった。応援してくれてんのか、からかってきてんのか。分かんなくなってきた。


「優斗君?」

「ああいや、なんでもねぇ。美月たちは別のところに行ってるみたいだ。焼きそばがおいしい……みたいなメッセージが来たから、屋台のある広場に行ってるんだと思うぜ。俺たちも──」

「……ねぇ、優斗君。ちょっとだけ話をしても、いい?」

「え? あ、ああ……じゃあ、他の人の邪魔にならねぇとこに行くか」


人混みの中で立ち止まって話すのはなんだから、あまり人がいない、林の方へ向かう。


◆◆◆


「で、話って……」

「あ、あのさ、優斗君」


うぅ、神様にお願いするくらい叶えたいことだけど、いくらなんでも早すぎない!?

美月さんたちがいないのはちょうどいいけど、優斗君と二人きり……秘密を打ち明けるとかとは別に、し、心臓の鼓動が……。


「連宮?」

「あ、いや、なんでも……。その、聞いてほしい話があるの」

「お、おう」


勇気を出そう。

ここを越えなきゃ、僕は前に進めないんだから。


「僕は、その……」


僕が『僕』になるために。

一拍置いて、しっかり伝える。



「女になりたいって、思ってるの」




「そう、か」


『そういう話』だと知って、どんな風に思っているんだろう。

表情からは読み取れない。

今考えても仕方ないから、とにかく話を続ける。


「家族には伝えてあって、親しい友達の中だと優斗君以外には話してあるんだ。だから、優斗君にもちゃんと話しておこうと思って。それに──」


『大好きな人だから』──ううん、この言葉は伝えちゃダメ。

伝えたら、優斗君にも大変な思いをさせることになるから。


「──優斗君だけに話してないのは、嫌だったから」


この言葉も、嘘じゃないからいいよね。


「うん。そうか」

「ごめんね。変なこと聞かせちゃって。でも、これからも友達でいてくれると──」

「──俺も」

「え?」


僕の言葉に食い気味に、優斗君が話し始める。


「俺も、お前に話してなかったことがある」

「う、うん……?」


拳をぐっと握り、目を瞑って一度頷き、目を開ける。

僕の目をまっすぐ見つめて、口を開く。

発せられた言葉は、ともすれば貪欲、利己的と捉えられそうで。

それでいて──



「お前が好きだ、連宮。……俺と、付き合ってくれ」



──純粋で、僕の心を溶かしていった。

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