70話 秘めた想いに気付いたら
文化祭に来てくれた先輩たち、との会話もそこそこに、僕は文化祭を回ることとなった。
──なぜか、優斗君と二人で。
「今年もいろんな出し物が出し物があるねー」
「だな、なんか気になるの、あるか?」
「うーん、どうだろ」
美月さんと真菜は、二人で文化祭を回っている。
三上さんは、部長として先輩たちに現状の報告を行っている。
──ということで、余った二人で回ることにしたのだ。
「おー、お化け屋敷あるじゃねぇか、入る……か……」
「……むぅ」
じー、っと優斗君を睨む。
「……ごめんって」
「ふんっ」
僕がお化け屋敷苦手なの、2年前の文化祭で知ってるくせに。
もう知らない、と言わんばかりに歩くスピードを早める。
──が、追い付かれてしまう。さすが元サッカー部。
「ご、ごめんって……悪かったよ……」
「あ、いや、えっと」
すっごく申し訳なさそうに言ってきた。
さっきのは本気で怒ってるわけじゃなくて、怒ってるふり。
一応、ちゃんとフォローしておこう。
「冗談だよ、怒ってるふり、だよ。……でも、お化け屋敷は行かないよ?」
「あ、ああ、そうだったのか……そうだな、別のところに行くか」
ん、分かってくれたみたい。
「お、鉄道研究同好会の……入ってもいいか?」
今年もあった、鉄道研究同好会の出し物。
わざわざ訊かなくてもいいのにな、と思いつつ、返事はちゃんとしておく。
「もちろん。僕も行くよ」
「そっか」
「うん!」
楽しみなのか、少しだけ早足の優斗君の後についていく。
◆◆◆
「今年も面白かったな、いい角度の写真ばっかだったぜ」
「模型もたくさんあって、面白かった!」
「そうだな。じゃあ次は……」
会話の途中途中に、軽い違和感。
優斗君に、ではない。僕に違和感。今日の僕、何か変。
「どうかしたか?」
「え、ううん、なんでもないよ。……そうだ、体育館で軽音楽部のライブやるみたいだから、見てみない?」
「おお、いいなぁ。行ってみるか」
体育館の方へ歩き出す。
◆
今日だけじゃない、最近の──夏が終わったあたりから、何か変だ。
何かが心につっかえてるような、苦しさ、みたいな感覚。
つらい──まではいかないけど、不安がずっとまとわりついてくる。
「ライブ、高波は出るのか?」
何か変、なんてぼかしてみたけど、原因は分かってる。
夏祭りの、花火を見た帰りに思ったこと。
『好き合う2人に見えたら、それはとても、』
──嬉しいことだな、と。
思ったのはいいのだけど、その言葉の真意が、自分でも分かりかねていた。
「ううん、出ないみたい。もう引退してるから」
「そっか。まあ、そんな時期だもんな」
素敵なことだ、というのなら分かる。静まり返って、清らかささえ感じる程の空間だったから。
でも、『嬉しい』というのは……ダメだ、やっぱりわからない。
こんな感情、生まれて初めてなのだ。
この気持ちの名前は、一体?
◆
体育館では、すでにライブが始まっていた。
ガールズバンドが演奏していたのは、人気ロックバンドの曲。
今年ヒットした曲だからか、かなり盛り上がっていた。
「かっこいいね」
「だな」
大サビだったみたいで、1分ほどでその曲は終わった。
次に流れたのは、一昔前に流行ったラブソング。
『あなたとずっと一緒にいたい』『二人で手を取り合って』──ありふれた歌詞。だからこそ、流行ったのだろうけど。
そうやって歌詞をなぞりながら聴いていると、あるフレーズで、気付いた。
『あなたが好きなんだ』
──ありふれた、ありふれ過ぎた言葉。
でも、その言葉で、僕の中の何かは『弾けた』。
◆◆
ありふれ過ぎてて、でも僕にはわからなかった。
──けど、ようやくわかった。
『好き合う2人に見えたら、それはとても、』
きっと、……ううん、予感じゃなくて、確信。
『嬉しいことだな、と。』
僕はあの日から、この人のことが──
◆◆◆
「今年も大盛況でよかったよ。みんな、お疲れさま。──三上さん、頑張ったね」
前部長からの激励の言葉に、三上さんの目が少し潤んだ。
いつも平気そうだったけど、この1年間、相当大変だったのだろう。
駅前のファミレスでの打ち上げ。
少し広めのテーブルを、先輩3人、後輩の僕たち5人で囲んでいる。
最初は来るのを渋っていた優斗君にも来てもらった。部のメンバーじゃないのに手伝ってもらって、お礼をせずに帰すわけにはいかない──という三上さんの言葉で折れて、来てくれたのだ。
「あのバンドの新譜、よかったよな!」
「ですよね五十嵐さん! あのイントロ、最高っすよね!」
──と盛り上がっているのは、五十嵐先輩と優斗君。今日初めて会ったはずなのだけど、ずっと前から知ってる人同士みたい。
二人ともギターやってるし、よく聴く音楽のジャンルも被ってるみたいだから、いつの間にか仲良くなっていた。
「楽しそうね、五十嵐先輩」
「ですね」
「……ふーん、なるほどね」
「?」
何かに気付いたように、ふふっ、と笑う橋崎先輩。
楽しそうに話す優斗君を見ていただけ、なのだけど……どうかしたのかな。
「連宮君」
「は、はい」
顔を近づけて、小声で訊いてきた。
い、一体何を……
「君、好きな人ができたのね」
──それはとても、嬉しそうな表情で。
なんで分かったのか、とか、なんでそこまで嬉しそうなのか、みたいなのも思ったけど。
「はい、……はい、できました」
今はその言葉だけ、返すことにした。




