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夢見少年物語  作者: イノタックス
14章 それぞれの、秋と冬の

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68話 文化祭1日目!

2年ぶりの、賑わい。

高校の敷地内は、活気に満ち溢れていた。


夏休みが明けて、試験勉強に費やした9月も終わり、少し落ち着いて10月に突入。

その最初の週。の、土曜日。


『チョコバナナあります! 食べていきませんかー?』

『体育館でライブ行います! ぜひ見に来てくださいー!』

『お化け屋敷やってます、おすすめですよー!』


校門近くのあちらこちらで、来場者に呼びかける声。

僕も負けじと、声を出す。


「文学部、11時から文芸誌を配布します!」

「ぜひ、いらしてくださいー!」


釣られて真菜も、大きな声で来場者に呼びかける。

今日は、2年ぶりの文化祭。

文学部の出し物、精一杯盛り上げよう!


◆◆◆


午前10時半、新たに来場する人が少なくなってきたので、呼び込みを終えて部室に戻る。


「呼び込み終わったよ、三上さん」

「戻りましたー!」

「お疲れ、連宮君、真菜ちゃん」


ビニール袋の束を運ぶ三上さんに迎えられた。

どうやら、長机の上に文芸誌の見本を並べ終えたところらしい。


「あっ、呼び込みお疲れさま、連宮君、真菜ちゃん!」

「美月先輩! こちらも、設営お疲れさまです! 何か手伝えることはありますか?」

「いや、今のところは大丈夫。人手は足りてるから。ね、お兄ちゃん♪」


部室で段ボール箱を運ぶ『お兄ちゃん』──つまり、優斗君。

既に夏休み頃にサッカー部を引退しており、暇そうだったから手伝いに呼んだ──と、美月さんは言っていた。


「ああ。あとは配るだけ、ってとこまで準備できてるぜ」

「ありがと、優斗君。手伝ってもらっちゃって」

「気にすんな、楽しいから……さ」

「……?」


優斗君のほっぺが、ほんのりと赤みを帯びていた。なんで?

……まあいいや。手伝えることはなさそうだし、少しの間、休んでおこう。


◆◆◆


午前11時、部室での文芸誌配布スタート。

──なんというか、予想外というか。


「こちらにお並び下さーい!」

「ここが最後尾です!」


──と、廊下で声を張るのは、美月さんと真菜。

そう、『並ぶくらい』、文学部の出し物は大盛況だった。

外で呼び込みをしている三上さんが、かなり頑張ってくれているのだろう。


「来ていただき、ありがとうございます! こちらが文芸誌です。どうぞ!」


僕は、袋に入った文芸誌を来場者に渡す係。

僕の後ろでは、段ボール箱から文芸誌を取り出し、それをビニール袋に入れる──という作業をしている優斗君。

素早く作業してるから頼もしいけど、ホント、手伝ってもらっちゃって申し訳ない──って、考え事してる場合じゃなかった。


「文芸誌です、どうぞ! ありがとうございます!」


いつもより多少大きな声で、来場者の対応をする。

疲れるけど、結構楽しかったり。


◆◆◆


午前1時、部室に来る人が減ってきたので、一旦部室の鍵を閉めて、少し遅めのお昼ご飯に。


「ねえ、三上さん」

「ん?」


気になっていたことが2つほどあったので、三上さんに訊いてみる。


「結構お客さん来てたけど、一体どんな呼び込みをしてたの……?」

「あ、あたしも気になってました!あたしとお兄ちゃんの呼び込みだけじゃ、あそこまで盛況しなかったと思ってたので」

「ああ、そのこと。えっと、多分……だけど」


やけにふわふわした口調で答える三上さん。

多分って……何か特別なことをした、とかじゃないのかな。


「一応、自分は普通に呼び込みしてたから、自分が何かした──みたいなことじゃないよ。ただ……」

「ただ?」

「『文学部の出し物はいつやるのでしょうか?』って訊いてきてくれた人が何人かいたんだけど、見覚えがあったんだ。ご年配の夫婦とか、二人組の女子とか」


ご年配の夫婦──あ、そういえば。


「もしかして、2年前の文化祭で文学部に来てくれた人たち?」

「そう! だからきっと、前回の文化祭ですごくたくさんの人に文芸誌を配ったから、今回も期待して来てくれた……みたいなことだと思う」


なるほど。確かに、前回もかなり賑わってたもんね。


「2年前──前回の文化祭での文学部の出し物って、そんなにすごかったんですか?」

「うん。その時の部長の橋崎先輩と、先代部長の安喰先輩のおかげで、かなり盛り上がったんだ。それと、真菜ちゃんは知らないと思うけど、2日目の出し物で五十嵐さんって人が協力してくれて──」

「五十嵐先輩……も、もしかして、五十嵐浩一郎さんですか!?」

「そ、そうだけど……知ってたの?」


──そうだ、真菜は五十嵐さんの大ファンだった。


「文化祭のことは知らなかったですけど、五十嵐さんのことなら! あたし、五十嵐さんのファンなんです! 去年初めてお会いして。サインもいただいて」

「真菜ちゃんもサインもらったんだね! 自分も前回の文化祭でサインしてもらったよ。サービス精神旺盛だよね、五十嵐さんって」

「そうなんです! 嫌な顔一つしないでサインしてくれて、更に好きになっちゃいました!」

「分かる! 五十嵐さんって──」


──五十嵐さん大好き同盟(仮)の会話が止まらない。

会話を切るようで悪いけど、もう一つの気になってたことを訊いてみる。


「ね、三上さん。なんで盛況だったのかは分かったんだけど、その……あんなにお客さんが来たのに、文芸誌の冊数が余裕あるのはなんで……? さっきの答えの感じだと、三上さん自身はこんなにお客さんが来てくれるなんて思ってなかったみたいだからさ」

「そっちは私も気になってた。準備の段階から、すごくいっぱい文芸誌を用意するんだなーっては思ってたけど、訊く機会がなくって」

「ああ、そのことね」


『そのことなら、ちゃんと理由があるよ』と言い、スマホの画面を開き、僕と美月さんに見せてくる。

画面に映っていたのは、電話の履歴。ずらーっとよく知る名前──『橋崎先輩』と『安喰先輩』の文字が並んでいた。


「先代部長と先々代部長に、色々アドバイスをもらったんだ。その中の一つが、『考えている冊数の2倍用意すること』ってアドバイスでさ。理由を訊いても『とにかく用意しなさいねー!』としか言われなかったから、今の今まで理由は分からなかったけど……」

「お客さんがたくさん来るから、文芸誌もたくさん用意しておくように、ってことだったんだね」


さすが橋崎先輩、そこまで予想してたんだ。

アドバイスの細かい説明をしないあたり、橋崎先輩らしいなあ、と思ったり。


「……ふぅ、ごちそうさまでした。この後2時から、また文芸誌の配布があるから、それまで各自ゆっくりしててね。優斗君も、友達と用事があれば──」

「いや、俺はここにいるよ。その……居心地がいいからさ」


また、ほっぺが赤くなってるような。

体調が悪い感じじゃなさそうだけど、どうしたのかな。


「そう? じゃあ、そういうことで。自分は飲み物買ってくるね」

「あ、あたしも行きます! 部長一人にお任せするわけにはいかないので!」


椅子から立ち上がり、素早く自分の財布を持ち、三上さんの横へ。


「ありがと、真菜ちゃん。じゃあ、ちょっと出てくるね。来客があったら──」

「こっちでなんとかするよ」

「お願いね。じゃあ、行こうか」

「はい!」


楽し気に、廊下へ出ていく三上さんと真菜。

いつの間に、あんなに仲良くなっていたのだろう。嬉しいような、悲し……くはないな、不思議と。

三上さんが親しく話せる人が増えて、他人事だけど……すごく嬉しく感じた。



二人が飲み物を買いに行ってから、2分後。

コンコンコン、と部室のドアがノックされた。

お客さんかと思い、文芸誌をセットしつつドアを開けると、そこには。


「よう、奏太」

「来たわよ、奏太♪」

「お、お父さん、お母さん!?」


僕の両親が、そこに立っていた。



「びっくりしたよ、お父さんたちが来てくれるなんて」

「驚かせようと思って、黙ってたんだ。いやぁ、いい学校だな」

「そうね。生徒さんたち、みんなすごく元気ね」


二人は、既に色々見て回った後なのだとか。

最後に文学部で文芸誌をもらって帰ろうと思っていた──らしいのだけど、あいにく文学部は休憩中。でも一応顔は出しておこう、ということで部室のドアをノックした、とのこと。

今は二人を連れて、校門入ってすぐ、校庭横の屋台ゾーンへ。ジュースを買いに来た真菜と三上さんを探しているけど、見つからない。すれ違っちゃったのかな?


「真菜たちいないみたいだから、部室で待ってる?」

「邪魔じゃないか?」

「大丈夫だよ。僕の友達を紹介したいの!」

「ふふっ、そういうことなら、少しだけお邪魔しちゃおうかしら」


で、部室へ戻ることに。


◆◆◆


「ねえ、お兄ちゃん」

「……なんだ?」


連宮がその両親を連れて、部室を出ていってからすぐ。

随分と神妙な面持ちで、美月が話しかけてきた。


「そろそろ、伝えないと。……だよ?」

「ああ、分かってるよ」


いつもの、『あのこと』。

分かってる。……一応、分かってる。


「受験シーズンやら卒業に向けてやらで、忙しくなる」


もう、そんな時期だ。

高校生活が、終わる。

それはつまり、あいつとも──。


「……伝えねぇと、なんだけどなぁ」

「前も言ったけど、応援してるんだからね、お兄ちゃんのこと」

「ああ。頑張ってみるよ」


美月の、本心からの言葉。

俺も、本心と向き合わねぇと、な。


◆◆◆


その後。

やっぱり部室に戻ってきてた真菜たちの元へお父さんたちを連れて行き、7人でおしゃべりをした。

午後2時前に、文芸誌を受け取ったお父さんたちは満足げに帰っていった。


──僕の内面を教えた後も、こうして『普通に』仲良くできるなんて、思ってなかった。

伝えてよかったな、と改めて思えた。

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