表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
夢見少年物語  作者: イノタックス
13章 高校最後の夏休み

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

67/81

67話 夏休みの終わりに

「ふぅ」


バスを降り、ショッピングセンター入口へ向かう。

現在、夏休み終盤の水曜日、午前11時。


「涼しいぃ……」


自動ドアを抜け、クーラーの効いた空気を全身で受ける。

エスカレーターで3階に上がり、楽器屋へ。


「……ま、まぁ」


いるわけないと思いつつも、ずっと頭に浮かんでいる人の姿を探す。

去年はここで会った、だから今日も会える──なんて謎理論。

あり得ないのは分かってるけど、会って、心の整理をしたいのだ。


「──え」


いた。ピック売り場に。

……いやぁ、まさか本当にいてくれるとは。

偶然も偶然、奇跡のような遭遇。


平常を装って、声をかける。


「偶然だね、ねはらっち♪」

「高波さん? おー、偶然だね!」


──その笑顔だけで、少しだけ、整理ができた。



「大丈夫だった?」

「へ?」


楽器屋での買い物を終えて。

エスカレーター横のベンチに座って時間を確認していると、隣に座っているねはらっちが訊いてきた。

……大丈夫って、何が?


「風邪で祭りに行けなかったんでしょ? 連宮君から聞いたんだ。高波さんが体調を崩すなんて珍しいから、ちょっと心配で」

「あ、うん……ありがと、心配してくれて。えっと──」


続けようとして、気付く。

──ねはらっち、嘘が見抜けるんだった。

風邪に関しては、言わない方がいいよね。


「今はもう、健康そのものだから!」

「うん、そうみたいだね。あ、お昼は予定あるの?」

「ないよー。ね、一緒に食べよ? また、あのパスタが食べたくって!」


よし、話題を切り替えることができた。

──お昼、一緒に食べれる。やった!


「お、いいね。じゃあ、混まないうちに行こうか」

「うん!」


話題は変わっても、罪悪感は残ったまま。

だって──風邪なんて、ホントはひいてないんだもん。


◆◆


つれみーにお祭りに誘われたとき、『どう断ろうか』って電話口で色々考えた。

もちろん、つれみーと喧嘩してる──なんてことはない。

ただ、行けない理由があったのだ。


(こんな状態で、ねはらっちに会うなんてできない)


そう考えて、断ることにした。

今以上に心の整理ができてなくて、会ったら逃げ出してしまいそうだったから。

──で。


『風邪気味だから行けそうにないの、ごめんね?』


そう、つれみーに嘘を吐いた。

結局、ねはらっちは家族とお祭りに行ったらしい(つれみーから電話で聞いた)から、無駄な行動だったのだけど。


◆◆◆


「おいしかったね」

「うん、おいしかった!」


パスタを食べ終え、お店を出るころには心の整理もかなりできていた。

本人と話すのが、一番よかったみたい。


「さて、俺は帰るとするよ。高波さんは?」

「私もー。もう予定ないから、バスで帰る。ねはらっちもバス?」

「そうだよ。じゃあ、一緒に帰ろっか」

「うん!」


ホントはこの後、1階の書店に行って、何か本を買うつもりだったけど。

ねはらっちと帰りたいから、嘘を吐いた。ば、バレてないよね……?


◆◆◆


帰りのバスに乗り、空いていたので2人で並んで座る。私は窓側に。

一息ついたところで、ねはらっちが口を開いた。


「ホントは、何か予定あったんでしょ?」

「う……」


やっぱりバレてた。

言い訳しても仕方ないし、正直に言うことにする。


「ねはらっちと一緒に帰りたかったから。……ごめんね?」

「いやいや、怒ってるわけじゃないよ。さっきの嘘は『騙そうとしてる嘘』じゃなかったし」

「……ん、そうね」


『一緒に帰りたかったから』──その言葉への反応は、なし。

ま、いっか。


その後は、10分ほど、私もねはらっちも口を開くことはなかった。



バスに乗ってから、15分ほどが過ぎた頃。

無意識に、ねはらっちの横顔を見ていた。


「……」


なんとなく、本当になんとなく、ねはらっちの顔を見ていた。

眺めていた、と言った方が適切かも。

──それだけなのに、いつかの真菜ちゃんの言葉を思い出した。


『告白されたら、どうしますか?』


……正直、何度も考えた。お祭りの日も含めて、何度も想像した。

それでも。


『ねはらっちが私に告白する──そんな展開は、絶対にないわ』


あの日の言葉。

撤回するつもりはない。今だって、そう思ってるんだから。


「……高波さん、どうかしたの?」


ありゃ、気付かれちゃった。

視線をねはらっちの顔から、窓の外へと移す。


「んーん、なんでもなーい」


一瞬見えたねはらっちの瞳は、不思議そうに私を見ていた。

嘘を嘘を見抜けるねはらっちには、私の視線の意味、わかってたりするかも。

──私自身ですらわからない、私の視線の意味。


『そんな展開は、絶対にないわ』


でも、とねはらっちに向き直って。


「私、告白するかも」

「高波さん、好きな人いたの?」


さも嬉し気に、友達の恋バナを聞くようなテンションで。

ならば、私も正直に答えよう。


「さあね、わっかんない!」

「……?」


再び、視線を窓の外へ。

いつか──そう遠くない日。


『私から告白する』──そんな日が、来るのかもね。

そんな光景を思い浮かべて。



ねはらっちにバレないように、過ぎ去る景色に微笑んだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ