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夢見少年物語  作者: イノタックス
13章 高校最後の夏休み

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66話 夏祭り

「わあ……!」


夏休みの三分の二を経過して迎えた、土曜日、午後6時半。


「すごい!」

「……そうか?」


駅を東口から西口へ抜けたら、雰囲気がガラッと変わった。

普段の西口の雰囲気とは、違う賑わい方。

人の流れに乗って少し歩くと、人混みが見えてきた。


「屋台がいっぱい!」

「そんな珍しいか……?」


不思議そうに首をかしげる、僕の右隣を歩く優斗君。


「うん! だって──」


夕方の街中に、溢れんばかりの人たち、その笑顔。

この時期にここに来るのは、子供の時以来だから。


「夏祭りに来るの、すっごく久しぶりだから!」

「そっか。……じゃ、目一杯楽しまないとな」

「うん!」


面白そうな屋台がいっぱい。おいしそうなにおいもする。

まずは食べ物かな。焼きそば、から揚げ、かき氷──定番のメニューもいいけど、さっきから甘い匂いもしてるし、そっちも楽しみ。


久しぶりの夏祭り、精一杯楽しもう!


◆◆◆


昨日、優斗君からの電話でお祭りに誘われて、今、実際に来たわけだけど。

なぜかドキドキする。ワクワクとは違う感じ……本当に久しぶりのお祭りだからかな?


「……なあ、連宮」

「ん、なに?」


一番賑わっている、お祭りの中心には行かずに『どの屋台がいいかな』なんて考えていると、Tシャツにジーパンという、いつも通りのラフな格好の優斗君が訊いてきた。


「俺と2人きりって、嫌じゃねぇ……か?」

「へ?」


嫌だなんてこと、微塵も思ってないんだけど……急にどうしたのかな。

正直に、答えることにする。


「嫌じゃないよ、すっごく楽しいよ!」

「……そっか。それならいいんだけどよ」


どこか安心したように笑う、優斗君。本当にどうしたのかな。


「わりぃ、さっきのは気にしないでくれ。何から食う?」

「僕、かき氷がいい!」

「お、いいな。早速並ぶとするか」


そう言って、お祭りの中心から少し離れた──人混みから少し外れた場所にある、かき氷の屋台に向かう優斗君。

僕もその後についていく。──その途中、ある考えが僕の頭に浮かんだ。


(もしかして優斗君、人混みを避けてる?)


お祭りの中心(街中の中心の方)に行けば、もっと色々あると思ったから、そんな疑問が出てきたのだけど。

僕は人混みがそこまで得意じゃない──というか苦手だから、いいけれど。


……もしかして、僕のため?

人混みが苦手なんじゃないか、って思ってくれたのかな。


(さすがにない……よね)


うん、あり得ない。

人混みが苦手だなんて、僕の内面を知る友達──根原君たちにしか言ってないから、優斗君は知らないはず。

あ、美月さん経由で知ったってことも……まあ、今考えることじゃないかな。


疑問を消して、急いで優斗君の後を追う。


◆◆◆


かき氷の後に、焼きそばとラムネを買って、花火が見やすい位置にある橋へ向かう。

──が、花火まであと15分くらいしかないからか、橋の上は人で埋まっていた。

歩道だけじゃなく、交通規制で車が通れなくなっているため、車道まで埋まっている。


「下のグラウンドならまだ埋まってないし、そっち行く……ってのでいいか?」

「うん!」


普段はサッカーや野球に使用しているのだろう橋の下のグラウンドも、今日は花火を見る人たちのために解放されていた。

なので、橋の傍の階段を下りてグラウンドへ立つ。

グラウンドの中でも、人がたくさんいる場所とは少し離れた、ちょっと端っこの方へ移動。持ってきた小さなレジャーシートを敷いて、僕が右に、優斗君が左に座る。


「おお、よく見えそうだな」

「だねー。花火まで……あと10分くらいだね」


携帯で時間を確認。もう少しで花火が始まる、ワクワク。


「連宮、疲れてないか?」

「ううん、大丈夫」

「そっか、ならいいけどよ」


──うん、やっぱり優斗君、優しい。



2人だけでお祭りに来たのには、ちゃんと理由がある。

いつも通り、根原君たちも誘ったのだけど。


『ごめん、祭りには家族と行くことになってるんだ』


とのこと。三上さんも同じ理由で一緒には来れなかった。

──聞いた時、少し安心した。2人とも、家族と仲良くやれてるみたいだから。

花火も家族と見るみたいだから、今日は合流したりはしない。


高波さんも誘ったのだけど、『風邪気味だから行けない』ということで、家で大人しくしているらしい。

高波さんが体調を崩すなんて珍しいし、かなり心配だったからお見舞いに行っていいか訊いたのだけど。


『風邪移しちゃうとまずいから、お見舞いは大丈夫だよー』


──とのこと。こっちが心配しすぎても仕方ないから、体調が早く良くなるよう願うだけにする。

真菜は『クラスの友達とお祭りに行く』と言っていたため、誘ってはいない。


あとは、美月さん──に関しては、昨日の電話で優斗君から説明されている。


「美月さん、クラスの人と仲良くなれたって聞いて、ほっとしたよ」

「……ああ、俺も安心した。あの美月が、クラスの奴と祭りに来るまでになれるとは……な」


すごく嬉しそうな優斗君。

美月さんは、クラスの人とお祭りに来ているらしい。


「明るくなったもんね、美月さん」

「ああ。……ありがとな、連宮」

「へ?」


いきなり感謝された。なんで……?


「美月の秘密、知ってるだろ?」

「……うん」


少し戸惑ったけど、僕が秘密を知っていることは既知らしいし、頷いておく。


「精神的な性別が揺れやすい──身体こそ普通の女子と変わんねぇけど、昔はかなり苦労してたんだ。昔ってか、俺らの通う高校に転入するまでは、だな」


美月さんの、転入するまでの話。

あまり詳しく聞いたことはない。当たり前だけど、辛い過去のことを訊くなんて失礼が過ぎるから、触れずにいたのだ。


「いじめられてた──みたいなのはねぇんだけどさ」


昔を懐かしむように、一言一言を大事そうに発していく。

発せられたのは、僕の知らない美月さんの姿。


自己主張をしなかったため、年度の初めに友達ができても、すぐに離れていったり。

遊びに誘われることはあっても、自分から誰かを誘うことはなかったり。

転入直前は、今では想像もつかないくらい、常に落ち込んでいたり。


重ねるのは失礼かもしれないけど。

──高校入学直前の、僕のよう。


「だから、さ」


昔話を締めくくるように。


「転入させて、お前と会わせることができて、マジでよかったよ。美月が明るくなれたのは、間違いなくお前のおかげだ。あんなに、学校のことを楽しく話す美月を、俺は……見たことがなかったからさ」


顔を俯かせ、心の底からの安堵を口にした。

そんな優斗君に、なんて声をかければいいのか迷っていると、数秒後に優斗君が言葉を続けた。


「本当に……ありがとう、連宮」

「──うん」


震える声で伝えられた感謝に、そう一言だけ、返すことにした。


◆◆◆


それから5分後。

予定通り午後7時半に始まった花火は、およそ40分の間、夜空を照らし続けた。

朝顔のような青色、夏の木々の緑色、ひまわりのような黄色、他にも色鮮やかな花火、それらをただ静かに見ていた。

僕も優斗君も、何も言わなかった。──彩られた夜空に、見惚れていた。


スターマインで、花火大会の終わりを知る。

もうすぐ、花火が終わる。

後は駅を通り、東口から少し歩いて、優斗君と解散する。

楽しい時間が、今日という日が終わるだけ。ただそれだけ。──なのに。


なんで、こんなに寂しいのだろう。


否が応でも、終わるものは終わる。

一番大きな花火が打ち上げられ、数瞬あとに遅れて『ドーン』という音。

花火を見ていた人たちが一斉に拍手をして、それぞれ帰り支度を始める。


「……よいしょ、っと」


立ち上がり、んー、と伸びをして、レジャーシートを畳もうと下を見た。

──なぜかまだ、優斗君は座ったまま。


「優斗君?」

「──……あ、ああ」

「どうかしたの?」

「いや……余韻を楽しんでた」


──なんというか、すごく優斗君らしい。

わりぃな、と立ち上がり、シートの上に置かれたゴミをまとめてくれた。

僕もゴミがないのを確認して、レジャーシートを畳んで、ビニール袋に入れてから、カバンに入れる。


「うし、帰るか」

「うん」


──やっぱり、寂しい。

優斗君と街中へ向かいながらも、その感情は消えなかった。


◆◆◆


駅の東口から少し歩いて、それぞれの家へと続く分かれ道へ到着。


「それじゃ、また今度ね。今日は楽しかったよ──」

「──連宮」

「……?」


まだ歩き出してはいないけど、呼び止めるような声で、僕を呼ぶ。


「なに?」

「……いや、やっぱいいや。頭ん中がまとまってなくてさ、わりぃ、なんでもねぇよ」

「本当に?」

「……え?」


何かに怯えているような、でも──逃げたくないと、思っているような。

何かを──


「僕に何か、伝えたいの?」


自然と、そんな言葉がこぼれていた。

我ながら、変な言葉。でも、訂正しようとは思わなかった。


「……お前には、勝てる気がしねぇや」


はにかんで、そう呟く優斗君。

何のことだかわからず、何も返せずにいたけど、すぐに優斗君が続けてくれた。


「ああ、気にすんな、こっちの話だ。……祭り、俺と2人きりで楽しかったか?」

「うん。すっごく楽しかった!」

「そっか。……よし、まとまった」


『伝えたいこと』がまとまったみたい。

僕の目を見て、優斗君が口を開く。


「──俺も楽しかった。マジで、今までで一番楽しかった」

「よかった、そう思ってもらえて」


厳かで、静寂に包まれていて。

街灯の明かりも、住宅街からの光も、通り過ぎる車のライトも。

何もかも消えて、僕らしかいない──そう思えて。


「また、お前と来たい」

「うん、僕も」


道行く人には、僕らはどう見えているのだろう。

友達だろうか。それとも兄弟だろうか。それとも──。

好き合う2人に見えたら、それはとても、素敵なことだな、と。


嬉しいことだな、と。


「今日はありがとな。また何かあったら誘うよ」

「うん、またね」

「ああ、またな」


今日一番の笑顔を見せて、振り向いて走っていく優斗君。

──すっごく嬉しかった。寂しいって感情が消えちゃったくらい、すっごく、すっごく嬉しかった。


僕も帰ろう。



僕の家の方へ向いて、歩き始めて数秒後。


「──え?」


当たり前の疑問が、僕の頭に浮かんでくる。

──さっき僕は、何を思った?


『好き合う2人に見えたら、それはとても』


──素敵なことだな、と。確かにそう思った。

身体的には男同士とか、そういうのは一旦除いて、とにかく──そう見えたら素敵だろうと、そう思った。


更にその後、僕は、何を思った?


『好き合う2人に見えたら、それはとても、』




『嬉しいことだな、と。』




……え?

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