表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
夢見少年物語  作者: イノタックス
13章 高校最後の夏休み

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

65/81

65話 恋バナのような

夏休み中盤、午前12時半、軽音楽部にて。


「今日の部活は以上です! 気を付けて帰ってくださいね」

『はい! お疲れさまでした!』


顧問の先生の言葉に部員全員で返事をして、各自の荷物を持って部室を出る。


「おつかれ、佳奈美」

「おつかれー、ななよん」


廊下で声をかけてくれたのは、私が組んでいるバンドのベース担当、七夜ちゃん。

当然友達、だから例によってあだ名で呼んでいる。軽音部に入りたての頃に、部活で初めて仲良くなった子なのだ。

1年生の5月ごろに、あだ名として『ななよん』と『セブンナイト』を提案したら光の速度で『ななよんにしよう、ね!?』と言われた──なんてことがあったり色々あって、今は一緒のバンドを組んでいる。不思議な縁……同じ部活だから大して不思議でもないかな?


「ななよん、どっか寄って帰る?」

「あーごめん、今日はパス。塾行かなきゃだから」

「あれ、塾行ってたの?」

「うん、夏休み入ったあたりからね」


ほほう、そうだったのか。


「受験勉強のため──って親に言われて、仕方なく、って感じだけどね」

「なるほどね。じゃあ、また今度誘うねー」

「うん、それでは~」


靴を履き、私に手を振り、生徒用玄関から出ていくななよん。


『受験勉強のため』

──そうだよねぇ。


もう、そんな時期なんだね。


◆◆◆


帰宅後、午後2時。

ななよんに影響されて、あまりやっていなかった受験勉強をしてみる。

これがまた厄介で、最初はすらすら進んでいたのだけど、宿題みたいな『やらなきゃいけない』ものじゃないからか、途中からペースがガクンと落ちてしまった。テスト勉強とかが苦手なのです、私。


「……そうだ!」


みかみんと遊ぼう。


……そんなことをしている場合じゃないのは分かってるけど、どちらにせよ、このまま一人で頑張ってもペースは落ちていくばかり。

それならば、夕方辺りまで遊んで元気を補充して、夜に勉強をしよう──と思ったのです。


ということで、レッツ電話。



この時間だし、文学部も終わってるだろうと思ったのだけど。


『ごめん、まだ学校なんだ』

「あれ、まだ部活中?」


午前からやってたのなら、随分長いような。今日は一日部活、とか?


『いや、ちょうど終わったとこ──なんだけど、これから連宮君と職員室に行かなきゃだから、今日は遊べなさそう……ごめん』

「ううん、気にしないで! ……もしかして、『同好会になる』って話?」


新入部員が一人だけだから、文学部が来年から部じゃなくて同好会になる、という話。

今年の5月ごろに、みかみんからそんな話を聞いたことがあったのだ。


『うん、その話。手続きがいくつかあるみたいだから、部長の自分が呼ばれたんだ。連宮君はサポートで来てくれるんだけど……ん、どうしたの?』

「……?」


最後の『どうしたの?』というのは、文脈からして私に投げられたものじゃない。

つれみーの声が小さく聞こえるから、部室にいるのだろうけど……。


『ごめん、ちょっと電話変わるね』

「う、うん」


誰に変わるのか分からないまま、2秒ほど黙ってみる。


『──もしもし、美月ですー』

「あ、つっきー!」


電話を変わったのは、まだ部室に残っていたのだろう、つっきーだった。


『さっき話してた通り、三上さんは行けないけど、代わりに私と真菜ちゃんで行ってもいい?』

「おぉ! もちろんだよ。場所は──」

『場所なら、前に近くを通った時に、三上さんに教えてもらったから大丈夫だよ。今から学校を出るから、20分くらいかかると思うけど』

「おっけー、待ってる!」


待ってる間だけなら、受験勉強も苦じゃない。


『うん、それじゃ、またあとで』

「はーい」


電話を切り、再び机に向かう。

20分間だけ、集中してみますよ!


◆◆◆


既に終えた夏休みの宿題の中から、間違えた箇所だけを抽出して徹底的に頭に叩き込む。

受験のためと思うと気が遠くなるから、まずは夏休み明けのテストに向けた、そんな勉強を始めて20分が経過。


『ピンポーン』


お、来たみたい。



「お邪魔しまーす」

「お、お邪魔します!」

「はーい、私のお部屋へようこそー! 適当に座ってくださいなー」


私、つっきー、真菜ちゃんの順で部屋に入る。

あらかじめ、クッションをいくつか置いといたから、それに座ってもらう。


「飲み物持ってくるね、ちょっと待っててー」

「はーい」

「は、はい!」


……緊張してるのかな、真菜ちゃん。

まあ、2年も先輩の家に招かれたら、誰だって緊張するよね、そりゃあ。


「まーなちゃんっ」

「は、はい!?」


ドアに一番近い──つまり下座のクッションに座った真菜ちゃんの後ろから、ばっ、と近づき、その肩に手を置いて、話しかけてみる。


「先輩の家だからーって固くならなくて大丈夫だよ。ほーら、リラックス、リラックスー♪」

「あ……」


こういうのは、回りくどい言い方よりもストレートに。

少しは緊張、ほぐれたかな?


「……ありがとうございます、高波先輩。えへへ……」


おおう、可愛い。

部活でもそうだったけど、後輩ってなんでこんなに可愛く見えるのだろう、不思議。


「じゃ、今度こそ飲み物持ってきますねーっと」


ドアを開け、廊下へ出て、1階の台所へ向かう。



「駅前のあのお店、セール中なの!?」


テレビを点け、適当な番組をBGM代わりに流しつつ、進路とか趣味のことをだらだらと喋っていただけなのだけど。……耳寄りな情報を入手できた!

駅前の小物屋さん、セール中らしいのだ。


「そうなんです! 先週、美月先輩と三上先輩、それとお兄ちゃんと一緒に行ったんですけど、『夏休みセール!』っていうポスターが貼ってあったんです!」

「最大2割引きって書いてあったよ。今日は定休日だから行けないけど、今度みんなで行かない?」


2割引き……2割引きですと!?


「行く! 絶対行く! 部活の予定確認して後で連絡する!」

「興奮してるね、高波さん」

「そりゃあもう! あのお店で、ずっと気になってたのがあったからね……。ガラス製の、ちっちゃな動物のストラップなんだけど、もう可愛くって……あっ」

「? ……ああ、再放送の時間だったのね」


話の途中だったけど、テレビから流れた効果音で、そっちに意識が向いた。

つっきーの言った通り、『再放送』の時間。

数年前に流行った、漫画原作の恋愛ドラマが、何度目かの再放送をしているのだ。

今回は──吹雪の中、山小屋で暖を取っている男女のカップルのシーンからのスタートだった。


「懐かしいなぁ、中学の頃に毎週見てたよ」

「私も、小学生の頃に見てました! いいですよね、このシーン……!」

「お、分かってるね真菜ちゃん♪ 『愛し合う2人』って感じで、最高だよね……!」


つっきーと真菜ちゃんが盛り上がっているので、私も会話に入ろうと思ったのだけど、どうにもテレビから目が離せない。

山小屋で、寄り添い一つの毛布に包まって、ストーブの灯を眺めるカップル。

荘厳さからか、幸せそうだからか。見惚れながら──無意識に、呟いていた。


「恋愛かぁ」

「……高波さん?」


その一言を、つっきーは聞き逃さなかったようで。


「気になる人とかいるの?」


なんて具合に、訊いてきた。

──気になる人、ねぇ。少しだけ考えてみたけど。


「今はまだ、いないかなぁ」

「え、そうなんですか?」


そう驚いたのは、真菜ちゃん。驚くポイント、あったかな?

『なんでそのリアクション……?』と訊く前に、続けて真菜ちゃんが言葉を発した。


「あたしてっきり、高波先輩は根原先輩のことが好きなんだとばっかり……」

「……そうねぇ」


すぐには否定せず、少し考えてみる。

ねはらっちは──かっこいい。それは否定しない。容姿的な意味でも、内面的な意味でも。

でも、と。


「付き合いたい、みたいな恋愛的な意味での『好き』って感情はないかな」

「……その、こういうことを訊いていいのか分からないんですけど」


と前置きし、更に訊いてくる。なんでしょうか。


「告白されたら、どうしますか?」

「ねはらっちから?」

「はい」

「そうねぇ」


再び、少し考えてみる。

──考えてはみたのだけど、結局いつも通りの考えしか出てこなかった。


「ねはらっちが私に告白する──そんな展開は、絶対にないわ。それは私が一番分かってる」


去年の夏休み、ショッピングセンターからの帰りのバスでした会話を思い出し、話す。


「でも、万が一告白されたら……ってのも考えたわ」

「は、はい」


こっちに関しても(誰にも話したことはないけど)いつも通りの私の考え方。


「すぐに付き合うわ」



数秒の静寂。その後に、質問者が口を開く。


「それは……来るもの拒まず、っていうことなんでしょうか」

「うーん、違うかな」


別に、告白されたら誰でも付き合う、なんてつもりはない。


「友達の中で、一番尊敬している人、だからなの」

「尊敬……ですか」

「うん」


尊敬。

私が友達全員に向ける、大事な感情。

その中でも、私が一番尊敬しているのが、ねはらっちなのだ。


「友達に優劣をつけてる──っていうことじゃないんだけどね。ただ、『なりたい自分に近い人』なんだ、ねはらっちって」

「憧れの人、ってことですか?」

「うん、そう。つっきーもみかみんも、つれみーも、ゆーとも……友達は全員、凄いと思ってるし、憧れてもいるよ。でも『この人と友達でいたい』じゃなくて『この人みたいになりたい!』って思ったのは、ねはらっちだけなんだ」


私自身よく分かっていないから、多分、なのだけど。

前に患っていた病気のことを除けば、所謂『普通の人』で、それでもつれみーとみかみんと真摯に向き合ってる──そんなところが、私と同じで。

でも、私と違っていたところもあって。つれみーたちと『至って自然に』『他の人と全く同じように』関わっているところが、本当に凄くて。


「正直に言うとさ、今は違うけど、私はみかみんと友達になった頃、みかみんのことを『他とは少し違う人』だと思って接してたんだ。もちろん『いい意味で』そう思ってたんだけど……ねはらっちは、みかみんたちの内面を理解した上で、他の人と──私とかと話すときと全く同じ態度で、みかみんたちと接していたんだ」


『人によって態度を変えない』──そうしているつもりだったのに、みかみんに対してはできていなかった。

それに気付かせてくれたのが、ねはらっちなのだ。


「私は、私よりねはらっちの方が『正しい』って思ってる。だから、そんな人から告白されたら、断るなんて考え、どっかに行っちゃうかな、って思って」

「なるほど……」


付き合って、その関係が続くかどうかは別の話だけど。

それでも、これが今の私の本心なのだ。


「……ありがとうございます、とても大事なことを教えて下さって」

「参考にはならないと思うけどね」

「いえ、そういう考え方もあるんだ、って心に留めておきます」

「ふふっ、どうぞご自由に」


真菜ちゃん、色々を納得したような、清々しい顔になった。


「なんか、恥ずかしい話を聞かせちゃったね、ごめんねつっきー」

「ううん、すごくいい話だったと思うよ。高波さんの考え方が知れたからね」

「もう、真菜ちゃんもそうだったけど、大げさだって……」


言いながら、それでも嬉しくて、にやけちゃっていた。


◆◆◆


その後。


つっきーと真菜ちゃんの恋愛観も少しだけ聞いたり、家でのつれみーのことを真菜ちゃんから、ゆーとのことをつっきーから聞いたりしていたらいつの間にか午後5時になっていたので、つっきーと真菜ちゃんは帰っていった。


一応『夜に勉強をしよう』と自分で立てた計画を実行し、夕ご飯とお風呂以外の時間のほとんどを勉強に費やしてみた。

すっごく疲れた。明日は勉強はほどほどにしよう。


──で、午後11時。さすがに眠いので、電気を消してベッドに横になる。


『憧れの人、ってことですか?』


真菜ちゃんの言葉が、なぜかふと、頭をよぎった。

憧れの人──自分で言っておいて何なのだけど。


「憧れの人って、つまり──」


……ここからは、言葉にはしないでおく。


「よーし、寝よう!」


薄い掛布団をかけて、眠りにつく。


『憧れの人って、つまり──』


その先を、考えながら。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ