表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
夢見少年物語  作者: イノタックス
13章 高校最後の夏休み

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

64/81

64話 それぞれの進路

6月が終わり、季節は本格的に夏へ移る。

夏休み前のテストの勉強であたふたしたけど、苦手科目を根原君に教わって、なんとか乗り切った。

そんなことがあった7月上旬を越え、中旬。待ちに待った夏休み!


部活に出たり、宿題をしたり、ショッピングセンターに行ってCDを買ったり。

あれこれやって、1週間が過ぎた。今日は何をしているかというと。


「あ、そこ惜しいね。こっちの数字がヒントだよ」

「……ああ、そういうことか! てゆーことはつまり、正解は『ア』か……根原、すげぇ頭いいんだな」

「否定はしないよ。さ、次の問題へ行こう」


──と、根原君と優斗君。優斗君、すっごく頑張ってる。


「なるほど、つまりここが、問題文の示している文章ってことなのね」

「うん、答えはそれで……あ、そこは元の文章では漢字じゃなくて平仮名だよ」

「おっと危ない。……テストだと減点ね、気をつけないと」

「うん。元の文章のままで書かないといけないからね」


──と、三上さんと美月さん。三上さんが得意な現代文を、美月さんに教えている。


「そうそう、そこをよく見ててね。点Pがこっちに移動したら、線APはどうなる?」

「……より傾く」

「うぅ……ん、なかなか独創的な答えだね。数学的、というかここでの正解は『長くなる』なのです。ということは、ここの面積は?」

「増える! なるほど……そう考えればいいんですね!」


──と、高波さんと真菜。真菜、高校の数学が結構難しい……って言ってたから、数学が得意な高波さんに教わっている。


そう、今日は僕の家の居間で、勉強会を行っているのだ。


◆◆◆


それぞれの課題に2時間ほど取り組み、午後3時、休憩に入る。


「ありがとよ、根原、連宮! お前らのおかげで夏休みの間に宿題が終わりそうだ……!」


優斗君、心の底から感謝している様子。この2時間だけでも宿題1つ終わったみたい。

ふと、1年の夏休み明けに『宿題を見せて』って頼まれたことを思い出した。懐かしいな、もうすぐ2年たつんだね。


「ホントに勉強苦手だよね、お兄ちゃんって」

「苦手っつーか、嫌いっつーか……早く高校卒業したいぜ」

「あと8か月の辛抱だよ、お兄ちゃん♪」

「あぁ、長いぃ……」


──今の会話で、気になった部分があった。

『早く高校卒業したい』……あ、もしかして。


「優斗君って、高校卒業したら働く予定なの?」

「ん、そうだぜ、工場かどっかで働くつもり」

「へえ、そうなんだ」


最後に呟いたのは、根原君。


「勉強が苦手……って言ったけど、君の学力ならある程度の大学には行けると思うよ? 頑張ればそれなりの大学にも……」

「さっきも言ったけど、俺は勉強は『苦手』じゃなくて『嫌い』なんだよ。それに、大学に行ってまで学びたいことがねぇんだ。後々の収入には響くかもしれねぇけど、高校卒業後も勉強で苦しむのは御免だからな、背に腹は代えられない、ってやつよ」

「最後の慣用句が適切なのかは置いといて。……いいと思うよ、その思い切り」

「誉め言葉として受け取っておくぜ。思い切りってほど、凄い決断じゃねぇと思うけどな」


そう言って、カラっと笑う優斗君。

そうか、進路……か。


「あの、みなさんはもう、進路って決まってるんですか?」


と、真菜からの疑問。

僕もちゃんと聞いたことないから、みんなの進路、結構気になる。


「私は、県内の大学に行く予定だよ」


最初に口を開いたのは、美月さん。


「駅からスクールバスが出てるから、通学も楽だろうからそこに行こうと思ったんだ。三上さんも、ね」

「三上さんもそこを受けるの?」

「うん、自分も美月さんと同じ大学に行くつもり」


そうだったんだ、全然知らなかった。


「こっちで就職するつもりだから、県内の大学の方がいいかな、って思ってね」

「あ、僕も同じ! 県内に就職したいから、僕も県内の大学にするんだ」

「4年制?」

「ううん、2年制、短大。今のところは、だから変えるかもしれないけどね」


学びたいこと、それとやりたいこと──『手術』のタイミングを自分なりに考えて、短大にしたのだ。


「根原君は?」

「俺は……実はまだ候補がいくつかあるんだ。この夏にオープンキャンパスに行って、どの大学を第一志望で受けるか決めるけど、いずれにしても県外の大学だね」


そういえば、とまだ進路を話していない高波さんに、根原君が聞く。


「高波さんは、卒業後はどうするの?」

「──……」

「高波さん?」

「……ん、ああ、進路ね、えっと──」


進路のことを考えていたのかな? 高波さん、少しボーっとしていた。

我に返り、『うーん』と少し唸った後、口を開く。


「……県外の大学?」


なぜか疑問形だった。


◆◆◆


それから3時間後、午後6時。勉強会は終わり、みんなが帰ってから10分後。


「ねえ、お兄ちゃん」

「ん?」


居間で勉強道具とかを片付けていたら、台所から顔を覗かせた、真菜に声をかけられた。


「高波先輩って、さ」

「うん」

「根原先輩のこと、好きなの?」

「うぅ……ん?」


何気なく投げかけられた疑問に、思わず肯定を返してしまいそうになった。

え、高波さんが、根原君のことを?


「好き、ってのは……恋愛的に、ってことだよね?」

「うん、そう」

「うーん……」


よく考えてみたけど、そういうことはないと思う。


「恋愛的な意味で好き、ってことはないと思うよ。……まあ、僕の予想では、だけど」

「そうなの?」

「うん。……何かあったの?」

「いや、なんて言ったらいいのかな……視線、だと思うんだけど」


視線……高波さんのだろうか。

あ、もしかして。


「ボーっとしてたときの?」

「うん! 高波先輩、根原先輩に見惚れてたような、そんな気がしたの」

「そう……なの?」


──だとしたら、不思議なことが一つ。

そのことに気付いたのが、真菜だけだということ。

三上さんや美月さんたちは、気付いた素振りを見せていなかった。もちろん、僕も。


「お兄ちゃんたちは高波先輩との付き合いが長いから、分からなかった……とかかも!」

「はぁ。……まあ、実際に高波さんがどう思ってるかは分からないから、僕からは訊かないでおくよ」

「うん、わかった。あ、お盆持ってくるから、そっちのお皿は台所のテーブルに持ってってー。まとめて食洗器にかけるから」

「わかったよ、真菜」


お菓子が入っていたお皿を2枚重ねて持ち、台所のテーブルの上に置いておく。

──高波さんが、根原君を、か。

実際のところが分からないから、なんとも言えないけど。


あり得ない話じゃないのかも、なんて思ったりもした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ