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夢見少年物語  作者: イノタックス
12章 伝える

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63話 決着

再び、連宮家台所で両親と向かい合い、テーブルを挟んで座る。

さっきまでの僕だったら、もう耐えられなくて逃げ出していただろう。

でも、今は違う。


「で、男になりたい──ってのは、その……」

「言葉通りです。正確には『本当の自分になりたい』って感じですけど」


僕の隣には、三上さんがいる。

それだけで、ここまで安心できるなんて。


「大体は、連宮君と同じだと思いますよ。子供のころから男になりたくて、この身体がとにかく嫌で、……友達を作るのをあきらめて。連宮君と違うのは、身体的にも精神的にも性別が逆だってことと、中学で自分を理解してくれる友達ができたこと、それと──」


何かを思い出すように2秒ほど目を閉じて、ゆっくり開いて。


「2年前──高校1年の春に、家族に自分の内面を話したことがある、ってところです」

「君も、ご家族に……?」

「はい。最初は理解してくれませんでしたが、今は理解してくれていて、仲良くやれてます」


あれはもう、2年も前の出来事なんだ。

凄いなぁ、僕より2年も早く、家族に内面を伝えたんだよね。凄いなぁ、僕なんかより──。


「……連宮君が助けてくれたから、親は理解し始めてくれたんです」

「奏太が?」

「はい。連宮君がいなかったら、自分を押し殺して、家族に理解してもらうのを諦めてました。でも──連宮君が言ってくれたんです、『そんなことをしては駄目ですよ』って。その日初めて会った人に、理解してもらえた上で叱ってもらえて。──すごく、嬉しかったんです」


──そんな風に思っていたなんて、知らなかった。

確かに、感謝は何度もされた。でも──そこまで嬉しく思っていたなんて。


「だから、今度は自分が助ける番です。連宮君のご両親が理解してくれるまで、何度だって説明します。連宮君が学校ではどんな人で、どんなに優しくて、凄くて、……どんなに頼れる人か、ってのを、全部伝えます。だから──」


頭を下げて、三上さんは続ける。


「連宮君の内面と、正面から向き合ってはもらえませんか? 最初から全部を理解してもらえなくても、少しずつでも──本当の連宮君を、見てあげてください!」



三上さんに続き、僕も頭を下げる。

何か言おうと思ったのだけど、言葉を発したら泣いてしまいそうで、できなかった。

きっと、三上さんの優しさに触れたからだろう。


「──頭を上げてください、三上さん。奏太も」

「はい」

「……うん」


頭を上げて、怯えながらも視線を両親に向ける。

ここで、結論が言い渡されるんだ。また怖くなってきたし、逃げ出したい──けど、ぐっと堪える。

僕は、両親の考えを聞かなければいけない。『僕』を伝えたんだから、僕もちゃんと聞こう、両親の──家族の思いを。


「ねえ、奏太」

「……はい」

「さっきお父さんが言ったように、きっと大変なこと、いっぱいあると思うわ。一人で乗り越えなくちゃいけない場面だってあると思う。それでも──」


優しく、真っ直ぐな言葉で。


「頑張れる?」

「っ! うん、頑張れるよ。本当の僕になりたいから」

「そう。……なら、私は応援するわ。あなたは?」

「……そう、だな」


あ、お父さん、少し笑った。


「今すぐに全部を理解するのは、やっぱり難しい、でも、少しずつ、分かるようにしていく。だから──少しだけ、待っていてくれ」

「……! うん、ありがとう、お父さん、お母さん! ……ひぐっ」


ああ、駄目だ、やっぱり……泣いちゃった。

でも、──すごく嬉しいから、仕方ないよね。


「連宮君、よかったね」

「うん、……ありがとね、三上さん」



その後。

泣き止むまで僕の傍にいてくれた三上さんに連れられて、三上家で根原君と高波さんと合流。

僕の内面を親に話せた──ということを話したら、二人ともすごく、本当にすごく喜んでくれた。

ここまで嬉しくて、楽しい気持ちになれた日は、今までの人生の中で初めてだ。


きっと、本当の『僕』を、しっかりさらけ出せたからだろう。


◆◆◆


その夜。


「真菜、起きてる? 入っても──」

『ど、どうぞ!』

「……?」


僕の部屋の隣にある、真菜の部屋の前にて。

真菜が帰ってきてからまだあまり話せてないから、今こうして真菜に会いに来たのだけど……真菜、なんか焦ってる?

夕食の時も、昨日と変わらず僕を避けていたような気がするし。……なんて考えていても仕方ない、面と向かって『本当の僕』を説明しないと。


「入るね。……真菜、あのさ」

「ごめんなさい、お兄ちゃん!」

「……へ?」


顔を合わせるなり、謝られた。

あれ、まだ真菜の中で整理ができてなかったのかな、それならなおさら説明しないといけないんだけど……。


「……美月先輩から」

「ん?」

「美月先輩から、色々聞いたの。美月先輩の身体のこととか、どんな大変なことがあったのか、とか。……お兄ちゃんが美月先輩のことを助けた、っていうのも聞いた」

「は、はぁ」


助けた──最初に会った時のことかな。

僕は『助けた』なんて大層なことをしたとは思ってないけど、そういう風に感じていたんだ、美月さん。

──というか。


「美月さんの身体のことって」

「半陰陽、って言ってた。生まれた時に、その、男性器がついてた──って。今はだいぶ落ち着いてるけど、少し前は心の性別がすごく揺れてた、とも言ってた」


そこまで説明したのか、美月さん。

きっと、勇気を出して言ってくれたのだろう。

後でお礼を言っておかないと。──多分、僕と真菜のため、なんだろうし。


「……お兄ちゃんみたいな人が、他にもいる、っていうのも聞いた。当たり前のことなんだろうけど、あたし、そこまで考えてなくて──お兄ちゃんに迷惑かけちゃった。……ごめんなさい」

「──……」


どうやら、僕が思っていたよりも色々なことを教えてもらったようだ。

本当に、美月さんには感謝しかない。


「大丈夫だよ、謝らなくて」

「で、でも」

「僕も、……僕から伝えるべきだったんだから。ずっと勇気が出なくて、家族に、真菜たちに嫌われたくないってずっと怖気づいて、伝えなかったんだから。でも──」


ちゃんと、真菜に説明しよう。

正面から、僕の気持ちを伝えよう。


「昨日のことがあったから、僕の内面のことを家族に伝えよう、って思えたんだ。このままずっと言わなかったら、絶対に後悔する、って思ってさ。感謝こそすれ、怒ってなんかないんだよ」

「そ、そうなの?」

「うん。だから、今まで通りに接してくれると、嬉しいよ」

「……うん、わかった」


言って、穏やかに笑う真菜。

──やっと、真菜の笑顔が見れた。


◆◆◆


その後も、真菜の部屋で色々話した。

大人になったら女性になろうと思っている──とか、そのために手術を受けるつもり、とか。

僕の全部を伝えた。


僕の呼び方についても、話した。

真菜は『お姉ちゃんって呼んだ方がいいのかな』って言ってたけど、それは僕が遠慮した。

家の中でならまだしも、外で僕のことを『お姉ちゃん』と呼んだら、僕だけでなく真菜まで変な目で見られるだろうから、という理由で。

僕が女性になったらそんな風に呼んでね、というお願いに、真菜は元気に『うん!』と返してくれた。


これからも大変なことはあるだろう。

でも、きっと大丈夫。

家族の理解があるだけで、こんなにも心強いなんて。


◆◆◆


翌日、放課後の文学部部室にて。

三上さんは職員室で、部活についての話し合い中。真菜はまだホームルームが終わっていないらしい(迎えに行った美月さんからの情報)。

なので、部室には僕と美月さんしかいない。


「そうなんだ、よかったね、連宮君!」

「うん、ありがとね、美月さん」


ちょうど二人きりだから、美月さんに昨日のこと──家族に内面のことを話せた、ってのを伝えたら、すごく喜んでくれた。


「私は何もやってないよ、頑張ったのは連宮君でしょ? もっと自分を誇りなよ!」

「ううん、美月さんが真菜に色々教えてくれたから、真菜も理解してくれたんだ。……本当にありがとね、美月さん」

「あはは……じゃあ、遠慮せず感謝されておくね。……やっと、大きな壁を乗り越えた、って感じ?」

「そうだね、まさにそんな気持ち」


正直、結構安心している。

まだ問題が残っているとはいえ、一番の難題が片付いたから。


「ここから、だね」

「うん。ここから、これから。……頑張るよ、僕」

「全力で応援するよ。手伝えることがあれば、どんどん言ってね」

「ありがと、……よーし、今日もいっぱい執筆するぞー!」


『ここから』、そして『これから』。

ここが、僕が『本当の僕』になるための、スタート地点なのだ。

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