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夢見少年物語  作者: イノタックス
12章 伝える

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62話 難しく、もどかしく

「奏太、伝えたいことってのは、なんだ?」


台所のテーブルに3人で座り、両親と向かい合う。

お父さんの問いかけに再びバクバクし始めた心臓を必死に落ち着かせて、お父さんとお母さんをしっかりと見て、答える。


「僕の、こと」

「奏太のこと? えっと、もうちょっと詳しく教えてくれる?」

「うん、そのつもり」


大丈夫、きっと──大丈夫。


「僕、は──」


伝える。



「女の子になりたい、……です」




「……えっと、奏太? それはどういう──」

「──小さい頃から」


お父さんの言葉を遮るように、話を続ける。


「小さい頃から、ずっと『僕は男じゃない』って思ってたんだ、最初は違和感だけだったけど、保育園の年長組の頃にはもう、はっきりそう思ってた。小学校でそのことが同級生に知られちゃって、いじめられたりもした。でも──思いは変わらなかった」


嫌な思い出も、僕の一部。

全部、伝えよう。


「中学ではいじめられないように、必死に自分を押し殺してた。父さんたちに『友達と遊んできた』って教えてたけど、あれは全部うそだったんだ。頑張って『普通』に生きようとしてたんだ」


焦っているわけじゃないのに、早口になっていく。

あの頃を思い出して、辛くなったのかも。


「ま、待ってくれ奏太、それじゃあ──」

「高校でも隠し通そうって決めてたんだ」


また言葉を遮って、話を続けていく。

言うのを一度でもやめてしまったら、続きを話せなくなりそうだったから。

勢いで、続ける。


「高校1年の、最初の自己紹介だって『至って普通の人』を演じたんだ」


一人だけには、それが嘘なのだと伝わってしまったけど。


「でも、似たような境遇の人とか、僕の内面を理解してくれる人に出会えて、隠さなくてもいい時間ができたんだ。文学部のメンバーだって、僕のことを理解してくれてるんだ」


お父さんとお母さんは不安気に、それでも黙って聴いてくれている。


「──でも、真菜に知られちゃった」

「……真菜に?」

「学校で、聞かれちゃったんだ」


真菜の謝っている姿を思い出して、心がキュッと痛くなる。


「そんなことがあったから──お父さんたちに僕のことを伝えようって、思ったんだ。隠し通せそうにないし、それに──」


本当の、思いを告げる。


「これ以上、隠したくなかったから。お父さんたちには、僕の──本当の『僕』を伝えたかったから。僕は──」


今まで思っていた全部を、一言にして、最後に伝える。


「……女の子に、なりたいから」



「……奏太」

「はい」


叱られるだろうか。

隠していたことを? それとも──今言ったことが許せなくて?


「女になる、ってのは──手術を受けるつもりなのか」

「え──うん、大学を卒業したら、通院しながら働いてお金を貯めて、外国で手術を受けて、戸籍も女性に変更して──」


色々調べて、考えていた『これから』のことを話す。

よかった、分かってもらえたみたい──?


「大変なことだぞ、それは」

「……っ!」


強い口調で、お父さんが告げる。

やっぱり、理解はしてもらえないのかな。


「あなた、そんな言い方は……」

「ああそうだな、こうじゃない。違うんだ、否定するつもりはない。……そこは分かってくれ」

「う、うん」


お父さんもお母さんも、否定するつもりはないみたい。

でも、少し混乱している──のかな。


「……いきなり言われて、正直戸惑ってる。応援するべきなんだろうが、……悪い」

「ごめんね奏太、私もちょっと混乱しちゃってて」

「ううん、いきなりだもん、仕方ないよ、うん……」


──こうなっちゃうのか。

やっぱり、と言うべきか。少しは予想していたことだけど、それでも──辛い。


「仕方ないよ、そう……仕方ない」


当事者じゃないのに理解してくれる──根原君や高波さんのような人の方が、珍しいんだろう。

そう、こうなるのは仕方ない。


諦めたくない。

でも、僕はこれ以上、この空気に耐えられない──。


『ピンポーン』

「……え?」


玄関のチャイムが鳴る。

それと同時に『すみませーん』と、何度も聞いた、あの人の声。

僕と似ている、あの人の声。


「っ!」

「そ、奏太?」


立ち上がり、玄関へ走って向かう。



玄関のドアを開けると、そこには──。


「突然ごめんね、連宮君。……連宮君、どうかしたの?」

「あ、いや、その……」


三上さんが、心配げに僕に訊いてくる。

なんと言ったらいいのだろう、そもそも──伝えてしまっていいのだろうか。

三上さんの迷惑には、ならないだろうか。


「えっと、君は──」

「あ、はじめまして、三上愛香といいます! ……連宮君、もしかしてナイスタイミングだった?」

「……うん、僕のことを伝えてたところ」


すごく優しい声で訊いてくるから、泣きそうになってしまった。


「なるほどね。……では、ちゃんと自己紹介させてもらいますね」


僕の両親をしっかりと見て、背筋を伸ばして、自信満々に。



「連宮君の友達の、三上愛香です。──男になりたいと、強く思っています!」



その両目は、輝いていた。


◆◆◆


午前10時、駅前のファミレスにて。

席に着いてから30分、全く喋っていない真菜ちゃんに、優しく訊いてみる。


「ねえ、真菜ちゃん」

「はい」

「何か不安なこと、あるの?」

「……はい」


すごく辛そうに、答えてくれた。


「どんなことが、不安なの?」

「その、……お兄ちゃんについて、です」


──ま、そうよね。そうだろうと思って、私は真菜ちゃんを呼んだわけだし。


「あたしが盗み聞きしちゃったから、お兄ちゃんを困らせちゃったかな、って……」

「大丈夫よ、きっと」

「でも、でも……!」


真菜ちゃん、今にも泣き出しそう。お兄ちゃん──連宮君のこと、本当に大好きなんだね。

でも、本当に大丈夫。だって──。


「連宮君はきっと、お父さんやお母さん、それと──真菜ちゃんにも、ずっと言いたかったんだと思うよ」

「でも、急がせちゃったんじゃ……」

「大丈夫。──そうだ、いいこと思いついた」


かなり混乱気味の真菜ちゃんも、これを言えばきっと、連宮君の話題から離れて落ち着くかも。

嫌われるかも──なんてのはもう、考えないようにする。


「私ね、生まれたとき──おちんちんがついてたんだ」

「……ふぇ!?」


ありゃ、もっと混乱させちゃったかな?

ちゃんと説明しておこう。私も、少し特殊だってことを。


私や連宮君のような人は、意外といるんだよ、ってことを。

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