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夢見少年物語  作者: イノタックス
12章 伝える

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61話 友達として

その夜。


「どうだ奏太、父さん自慢のオムライスは?」

「うん、すごくおいしい」

「そうかそうか、父さんはこれしか料理ができないからな、うまくできてよかったよ!」


夕食時、台所のテーブルを3人で囲む。

──『3人』で。


「それにしても不思議よね、チャーハンは作れないのにオムライスは作れるなんて」

「これはパラパラにしなくてもいい料理だからな、こっちの方が楽なんだよ」

「……ね、ねえ」

「ん、どうした?」


えー、っと。

言おうと思った言葉は、お父さんとお母さんを前にすると、やっぱり出てこない。


「──真菜の具合は、どう?」

「そうねぇ、熱はないけど、疲れちゃってるみたい。高校生活を頑張りすぎちゃったのかもね。でも、寝てればすぐによくなると思うわ」

「そう……よかった」


少しだけ安心して、またオムライスをスプーンで掬い、口に入れる。



食べ終えて、お風呂に入って、自室のベッドに横になる。

電気は点いたままだから、天井を見ると少し眩しい。

だからだろうか。


「……あ」


少しだけ、涙がこぼれた。

放っておいたら、堰を切って流れ出してしまいそう。

だけど。


「……ううん」


頬を伝う涙を拭い、気持ちを改める。

きっと、知ってしまった真菜の方が、辛いはず。

美月さんの言ってたように、混乱しているはず。


「このままじゃ、ダメ……だよね」


早いうちに、じゃない。

準備できたら、気持ちの整理ができたら──そんなんじゃ、ダメなんだ。


最善かなんて考えない。

僕は、『僕』になりたいんだから。


◆◆◆


翌日土曜日、午前9時。


「ごちそうさまでした。食器、置いとくね」

「うん、洗っておくわね。ねえ奏太、今日は天気いいし、どこかにドライブに行かない? 真菜は出かけてるみたいだから、3人で、だけど」

「え、出かけてるって……真菜、体調は大丈夫なの?」

「少し辛そうだったけど、『先輩が誘ってくれたから』って言って出てったわ」


──もしかして、美月さん?

そういうことなら、真菜のことは美月さんに任せて、僕は僕でやれることをしよう。


「ドライブ行きたいけど……お母さんとお父さんに話したいことがあるんだ。ドライブはその後でもいい?」

「話したいこと? ええ、もちろんよ。お父さん呼んでくるわね」


そう言って、庭で草むしりをしているお父さんを呼びに行くお母さん。

僕も廊下まで歩いていき、お母さんが玄関から外に出たのを確認して、気付かれないように深呼吸。──してもまだ、心臓がバクバクしている。


「大丈夫、きっと──大丈夫」


そう呟きながら台所に入り、いつも僕が座る場所に着席。

僕は、『僕』を伝えるんだ。


◆◆◆


午前9時半、自分の部屋にて。


「ごめんね高波さん、根原君。休日の朝から呼び出しちゃって」

「気にしないでみかみん、今日の部活は午後からだし、何も用事はなかったからさ」

「俺も予定はなかったから、大丈夫だよ。……何かあったのかい?」

「実は──」



「そうなのね、つれみーの妹──真菜ちゃんに、ねぇ」

「うん、バレた──って言い方はちょっと違うか、『伝わっちゃった』から、連宮君、結構悩んでて」

「真菜ちゃんは大丈夫なの?」


やっぱり、そこも心配になるよね。


「大丈夫……とは言えないかな、混乱しちゃってたみたい。今は美月さんが誘い出して、一緒にデパートに行ってるそうだから、今日相談したかったのは真菜ちゃんのことじゃなくて──」

「連宮君が親に伝えるかも、ってこと?」


さすが根原君、分かってた。


「連宮君のことだから、すぐに行動すると思うんだ。でも、万が一伝わらなかったら──なんてことを、自分も考えちゃってさ。サポートした方がいいんだろうけど、サポート必要なのかな……って思ったりもして」

「で、俺たちに相談した、ってわけね、なるほど」


連宮君が自分にしてくれたように、自分も連宮君のことを助けたい。

でも、そもそも、サポートが必要なのだろうか。

あんなに頑張っている連宮君のことを手助けしたら、邪魔に思われないだろうか。


「大丈夫だよ、みかみん」

「え?」


高波さんが、自分の傍まで寄ってきて、頭をなでてくれた。


「みかみんは優しいから『邪魔じゃないかな』って思っちゃうんだろうけど……つれみーもきっと、そう思いながらみかみんのことを助けたんじゃないかな」

「そう、なのかな」

「多分ね。だから、みかみんがやりたいように、サポートしたいなら、サポートした方がいいと思うよ。後悔だけはしないようにね」

「……うん、ありがと高波さん!」


『後悔だけはしないように』──確かにそうだね、やっぱり高波さんは凄いな。

立ち上がり、ドアを開けて廊下に出る。


「ちょっと行ってくる、すぐに戻るから」

「はーい、『のんびり』待ってるよ」

「……っ、うん!」


階段を下りて、玄関で靴を履き、外に飛び出す。

会いに行って、サポートできるなら、しなければ。



「伝えたら、さ」

「ん?」


みかみんが家を飛び出して行ってから、数分後。

近況報告のような雑談の後に、思っていたことを呟く。


「つれみーが内面のことを両親に伝えたら、どうなるんだろうね」

「うーん……」


既に私の中に答えはあるから、これはあくまで『確認』なんだけど。

それでも一応、ねはらっちに訊いておきたかったのだ。


「まあ、動きやすくはなるでしょ」

「……過ごしやすく、じゃなくて?」


過ごしやすくなる、ってのが一番大きいと思うんだけど。

それも間違いじゃないけど、と前置きをして、ねはらっちは続ける。


「連宮君にとって、最も大事なことが何か、分かる?」

「そりゃあ、つれみーがつれみーの家で安心して暮らせるように──」

「ちょっと違うんじゃないかな」


……え、違うの?

あくまで俺の意見だけどね、と再び前置きをして。


「連宮君にとって最も大事なことは、身体を心に近づけること──『本当の連宮君になる』ということだと思うんだ」

「──なるほど」


私としたことが、何たる不覚。確かにねはらっちの言う通りだ。


「さっきも言ったけど、高波さんの意見も間違ってはいない。『過程で必要なこと』と『最も大事なこと』みたいな微妙な違いだからね。だから俺たちは、『過程で必要なこと』である『連宮君が安心して暮らせる』場所を守るべきだと思うんだ」

「がっつり介入するつもりなの?」


今回のことに関しては、みかみんやつっきーに任せた方がいいと思うんだけど。


「まさか、そんなことはしないよ。連宮君が自分の力で進めないと、本当の意味で居場所を確保できたとは言えないからね」


いつものように微笑んで、そう話す。

窓の外の青空へと視線を移し、ねはらっちはこう締めた。


「『何があっても友達でいる』──それだけでいいと思うよ」

「結局いつも通りじゃない」


──でも、それが一番かも。


「上手くいくといいね」

「だね。……つれみー、頑張れ」


つれみーたちを思いつつ、そう、呟いた。

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