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夢見少年物語  作者: イノタックス
1章 春の出会い
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6話 部活選び

引き続き、火曜日──の、昼休み。

お弁当を食べ終わった僕は、高波さんに誘われて、三上さんと一緒に軽音楽部を見学しに来た。

──来た、のだけど。


「うわぁ……なんか、凄そうだな」

「そうだね……三上さん、先に入ったら?」


タメ口なのは──まあ、あまり気にしなくて大丈夫。

高波さんに『みかみんとつれみーは友達なんだから、敬語じゃなくてタメ口じゃなくちゃ!』と強く言われたからだ。


「いやいや、連宮君が先に、どうぞ」

「いやいやいや、僕は後でいいよ」

「いやいやいやいや」

「いやいやいやいやいや」


お互いに、本気で譲り合う。

仕方ないだろう。だってここは、部室棟──部室が十数個もあって、上級生がたくさんいるところなのだから。

しかも、校庭にある運動部の部室棟と違って、文化部の部室棟は校舎裏の少し薄暗いところにある。もう、とにかく不気味なのだ。


「……何やってるんですか、あなたたち?」

「ふぉ!?」


軽音楽部の部室に入るかどうか、散々迷った末の譲り合いをしていると、後ろから声をかけられた。

振り返ると、そこには女子生徒が立っていた。


「あれ、校章が黄色──ってことは、あなたたち1年生?」

「は、はい、そうです」


目の前の女子生徒が襟に付けている校章の色は、緑色。

ということは、確か……2年生だ。


「もしかして、見学しに来たの?」

「はい、仮入部した友達に誘われまして」


三上さん、先輩を前にしても全然緊張していない。

僕は、カチコチに緊張してしまっているのに。


「仮入部……? ってああ、高波ちゃんのことか! すっかり溶け込んでたから忘れてたよ!」

「そ、そんなに上手なんですか、高波さんって」


溶け込むほど、って。


「2年には少しだけ及ばないけど、かなり上手だよ。──っと、話してる場合じゃなかった。スコアを取りに来たんだった」


そう言って、鍵を使って部室を開けて、先輩は中に入った。


「あの、軽音楽部ってどこで練習しているんですか?」


三上さんが先輩に訊く。

高波さんからは『見学しに来て!』としか言われていないのだ。


「普段は音楽室を使わせてもらってるよ。今日もそこでやってるから──っと、あったあった。見学に来てみる?」

「はい!」


楽譜を手にして、部室の鍵を閉めた先輩の後をついて行く。



「音が聞こえてきましたね。僕たちなんで気付かなかったんだろう……」

「音楽室は結構奥にあるからね、気付かなくても無理はないかも。ってか、あたしも最初は気付かなかったし」


エレキギターと、ドラムと、低い音は……エレキベースかな、それらの音が聞こえてきた。

扉をノックしてから、先輩が音楽室に入る。


「失礼しまーす、部長、見学の子を連れてきましたよ」


続いて三上さん、最後に僕も入る。


「失礼します。あ、高波さん」

「失礼します……」


本当だ、高波さんがドラムセットを叩いていた。

高波さんは僕らに気付くと、叩くのをやめ、僕らのところまでケーブルを避けて歩いてきた。


「みかみん、つれみー、来てくれたんだね!」

「誘われたし、一応、ね。結構叩けるんだね」

「あ、やっぱりさっきのは高波さんが叩いてたんだ……」


すごいなぁ、高波さん。


「来てもらって悪いんだけど……今日は早めに終わるんだって。だから、教室で待っててくれる?」

「うん、分かったよ」


そう言って、高波さんはドラムセットへと戻っていった。


「ってことだし、帰ろうか、連宮君」

「うん、そうだね」


……この昼休み、何もしていない気がする。

まあ、高波さんの演奏を聞けたんだから、いいことにしよう。


◆◆◆


「お待たせ、2人とも!」

「おかえり、高波さん」


僕の机の傍で三上さんと話していると、高波さんが帰ってきた。


「少ししか見れなかったと思うけど、どう? 軽音楽部、入る気になったりした?」

「悩み中。楽器が必要だからな……」

「高波さん、楽器っていくらくらいなの?」

「うーむ」


唸り、少し考えた後に、高波さんは自分の鞄からドラムスティックを取り出す。


「私みたいに、ドラムをやる、って感じならこういうスティックだけで大丈夫だから、3千円くらいで済むと思うけど……」

「ドラムを買ったりはしないの?」

「連宮君、いい質問だ!」


ドラムスティックを鞄に戻し、親指と人差し指を立てた右手で僕を指し、続ける。


「本当は、ドラムも欲しいんだけどね。生のドラムは高いし、何より──普通の家で叩いたら、近所迷惑になっちゃうからね」

「なるほど……自分の家もそうだけど、普通の家には防音室はないからなぁ」


確かに、初めて生で聞いたけど、防音室が必要な音量だった。


「電子ドラム、っていうやつもあるんだけど、私は生のドラムの方が好きなんだよね。電子ドラムも、ちゃんとしたやつは10万円くらいかかっちゃうし」

「そ、そんなにかかるの!?」


二桁までいくとは思っていなかった。

『物によるけどねー』と、高波さんは説明を続ける。


「ギターなら、アコギもエレキも何万円かで手に入るから、お勧めだよ。ベースはギターより少し高くなっちゃうけど、ギターほど難しくはないって聞くから、そっちもいいかも。私はどっちも苦手だけどね!」

「やっぱり、何万円かかかっちゃうか……」

「三上さん、どうかしたの?」


値段を聞いてから、三上さんは難しい顔をしていた。


「連宮君は昨日知ったでしょ? 自分はあまり父さんと母さんと親密じゃないから、その値段の買い物はやっぱりきついと思って。連宮君は、どう?」

「僕も、両親とそこまで親密なわけじゃないから、厳しいかな。ごめんね、高波さん」


せっかく誘ってくれたのに、と伝えると、高波さんは慌てて返した。


「ううん、気にしないで! 2人とも、それぞれのことで大変だろうし、無理はしなくていいからね!」

「うん、ありがとう」

「ありがとね、高波さん」


高波さん、いい人だな。


「盛り上がってるね、連宮君」

「あ、根原君」


図書室に行っていた根原君が、僕の隣の席に戻ってきた。


「何を話してたの?」

「軽音楽部のこと──というか、楽器のことについて話してたんだよ」

「軽音楽部! それがあったか!」


根原君、一人で納得している。


「どうかしたの?」

「いやぁ、どの部活に入るか、すごく迷ってたんだよ。言われて気付いたけど、そう言えばこの学校には軽音楽部があったね!」

「この規模の学校なら、基本的にある部活だと思うけど……」

「確かに!」


──根原君、すごくテンションが上がっている。


「根原君、って言うんだね。私は高波佳奈美、よろしくね!」

「よろしく、高波さん」


──お互い、敬語じゃなくてタメ口だ。

そのコミュ力が羨ましい。


「こっちはみかみん!こっちもよろしくね!」

「その紹介じゃ、ほとんど分からないと思うよ……。自分は三上愛香と言います、よろしくお願いします、根原君」

「よろしくね、三上さん。ああ、俺にもタメ口で大丈夫だよ」

「そうですか? ……分かりま──じゃなかった、分かったよ、根原君」


三上さん、新しい友達ができたからか、とても嬉しそう。


「……三上さんって、連宮君と似ているね」

「そう? ……って、え!?」


普通の反応の後に、とても驚いている三上さん。僕も驚いているところだ。

だって、『僕と似ている』って──僕と三上さんの秘密が似ていることを、察したみたいじゃないか。


「ね、ねえ、根原君、軽音楽部に興味があるみたいだけど、何か楽器やってるの?」


高波さんが、話を()らしてくれた。助かった……。


「うん、ギターをやってるよ」

「どれくらい? まだ始めたばっかり?」

「えっと……まだ3年くらいかな」

「そ、そんなにやってるんだ……」


全然想像していなかったから、思わず声が出てしまった。

……本当、人は見かけによらないなぁ。

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