59話 高校3年生!
始業式が終わり、5日後。
「行ってくるね、お兄ちゃん!」
「うん、行ってらっしゃい」
家の中から、高校の制服を着た真菜を見送る。お父さんとお母さんも真菜と一緒に出発する。
どこに行くか──それはもちろん、高校に。
今日は、入学式だ。
◆◆◆
午前10時、台所にて。
「……暇」
「どこか行ってくれば、お兄ちゃん?」
「今日は自宅学習の日なのだよ、妹よ」
今日は高校の入学式、だが在校生は自宅学習。
要するに、休日。
「勉強してないじゃない」
「そこは大目に見てくれ。……そう言う美月だって勉強してないじゃん」
「部屋でやってたわよ、今は飲み物を取りに来ただけ」
冷蔵庫を開けて麦茶を取り出し、コップに注ぐ。
その一連の動作をボーっと見つめつつ、無意識に独り言。
「連宮は暇かな……」
言って気付く、美月のジト目。
「……なんだよ」
「別に。……そんなに気になるなら遊びに誘えばいいのに」
「それができたら苦労しねぇよ」
「面倒くさいなぁもう」
ありゃ、本気で呆れられちゃってらぁ。
「連宮君を誘えないなら、他の人は? サッカー部の人とか」
「昨日も遅くまで練習だったし、疲れてるだろうから誘わねぇほうがいいだろ」
「根原君は? ギター仲間なんだからスタジオでも行けば」
「根原は、その……」
それも考えたのだけど。
連絡までしたのだけど。
「自宅学習だから勉強する、って言われて」
「断られた、と。……大人しく勉強してなさい」
「はい……」
仕方ない、諦めて予習でもするか。
◆◆◆
「……暇だなぁ」
春の陽気に誘われて玄関先へ出たのはいいものの、何をしようか考えていなかった。
すごくいい天気だけど、散歩に行く気分じゃない。
というか、今日は一応自宅学習の日だ。外で先生に見つかったらマズイ。
「……戻ろう」
部屋に戻ることにする。
◆
1時間ほど勉強して、飽きたので原稿用紙に小説を書いて、眠くなってきたので気分転換をする。
クローゼットを開けて、一番奥に隠してある服を一つ取り出す。
「よいしょ、っと」
家族がいつ帰ってくるか分からないから、履いているジャージの上からスカートを履く。
ピンク色の、かわいらしいスカート。もちろん手作り。
「……ふふっ」
くるりと回り、ふわりと広がるスカート。
うん、やっぱり僕は──こういう服を着たい。
スカートを履いて、上は水色のTシャツに白のカーディガン、靴は──靴も水色にしてみよう。
そんな妄想を膨らませる。楽しい。
「……あ」
外で車が止まる音。続いて玄関の鍵が開けられた音。
1階から聞こえる楽し気な真菜の声を聞きつつ、急いでスカートを脱ぎ、クローゼットへしまう。
クローゼットの扉を閉めると同時、部屋のドアがノックされた。
ドアを開けると、そこには満面の笑みの真菜が立っていた。
「ただいま、お兄ちゃん!」
「おかえり、真菜」
高校生になれたのが、本当に嬉しいみたい。
心の底からの笑顔を、真菜は見せてくれた。
◆◆◆
それから4日後の火曜日、放課後の文学部部室にて。
「三上さん、さっき言ってた賞って、どんなテーマの小説を募集してるの?」
「恋愛小説だって」
「……幅広いね」
「だよね、でも連宮君はこのテーマ、得意そう──ん?」
部室のドアがノックされた。
「三上さん、連宮君、もしかして……!」
「ああ、そうかも!」
美月さんと三上さんが、目を合わせてガッツポーズ。
ついさっきまで新入生の部活への勧誘をしていたから、新入生が来てくれたかも──と二人は思っているのだろうけど、僕はドアの窓に映るシルエットで、気付いてしまった。
「開けてくるね、美月さん、連宮君!」
「あ、うん……」
……まあ、新入生には違いないし、いいか。
「し、失礼します! 文学部の見学に来ました!」
「ありがとうございます、見て行ってください。色々説明もしますから、さ、どうぞ」
「はい、では失礼します!」
廊下で話していた三上さんと新入生が、部室へ入ってくる。
──まあ、案の定というか。
「自分が、部長の三上です。ゆっくりしていってくださいね」
「はい! あ、私は連宮真菜といいます!」
「そうですか、連宮さん──え?」
新入生──真菜と僕の顔を交互に見る三上さん。
そして『ああ!』と思い出す。
「君が真菜ちゃんか! 連宮君から話は聞いているよ」
「そうでしたか、では改めて……連宮奏太の妹、連宮真菜です! これからよろしくお願いします!」
「うん、よろしくね」
元気に挨拶を交わす二人。
『これからよろしく──』ってことは、やっぱり文学部に入部する気らしい。だから見学に来たのだろうけど。
「はじめまして、真菜ちゃん。月夜野美月です、よろしくね!」
「よろしくお願いします、月夜野先輩!」
美月さんとも元気に挨拶して、三上さんが文学部の説明を始める。
今までの静かな文学部もいいけど、こういう賑やかな部活もいいな、なんて思ったり。
◆
午後5時半、駅前にて。
「じゃ、また明日ー!」
「うん、また明日」
「また明日ねー、美月さん」
優斗君と駅前で待ち合わせしているらしいから、駅前で美月さんと別れ、三上さんと二人で帰る。
「美月さんと真菜ちゃん、すごく打ち解けてたね」
「ねー。真菜があんなに美月さんに懐くなんて思わなかったよ」
「……ある意味自然なことなのかも」
「え?」
自然な──ってどういうこと?
「所謂『女子』同士だからじゃないかな。自分は心は男だし、連宮君は身体が男だから、性別が完全に一致していた美月さんと仲良くなったのは自然なことなのかな、って」
「なるほど、確かにそうだね」
言われるまで気付かなかった。
「よかった、真菜は文学部で楽しくやっていけそうだね」
「真菜ちゃんのこと、大好きなんだね」
「そう見える?」
「うん、だって──」
僕の顔を見て、少し笑いながら。
「すごく大事そうに真菜ちゃんのことを語るんだもん、分かるよ」
「そ、そうだったの?」
「少し前に真菜ちゃんのことを話してくれた時もそうだったからね」
「あはは……バレちゃってたか」
小さく笑い合う。
そのタイミングで、いつもの分かれ道へ到着。
「それじゃ、また明日、連宮君」
「うん、また明日」
それぞれの家へと向かう。
僕も、真菜がいる家へ帰ろう。
きっと、文学部のことを色々話すのだろう。
高校最後の一年間、楽しく過ごせていけそうだ。




