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夢見少年物語  作者: イノタックス
11章 安喰の卒業、真菜の入学

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56話 2月の文学部

「お待たせー……っと」

「三上さん! ……随分かかったね」


2月最初の月曜日、文学部部室にて。

三上さんが文学部顧問の教頭先生に呼ばれていたため、僕と美月さんで2台のパソコンをそれぞれ使い、執筆をしていたのだけど。

なんか、随分遅かったような。


「呼ばれたのって、何かあったの?」

「文学部の今後の話。まあ、一概に悪いニュース……とは言えないんだけど、良いニュースとも言えないね」


そう言って、三上さんは説明してくれた。



「ありゃ……」

「まあ、そうだよね。この部には僕たち3人しかいないんだし」


美月さんと二人して、頭を抱える。

文学部が文学部ではなくなる──と言うとややこしいか。早い話、来年度に新入生が3人文学部に入らなかった場合、『部活』ではなく『同好会』になる、ということだった。

名前が変わるだけならまだ良いのだけど、部室にパソコンを常備できなくなったり、文化祭で使える予算がガクッと減ってしまうらしい。文化祭では文芸誌を作るために紙をかなり使うから、割と大変な問題なのだ。


「まあ、最低3人が入部してくれれば気にしなくてもいいんだけどね」

「でも、入部してくれなかったら……」

「その時のことも相談してきたよ」


そう言って、更に続ける三上さん。


「そうなった場合でも、文化祭までは部のままでいさせてくれるってさ。……ま、今色々考えても仕方ないし、この話は一旦おしまい! ってことで。さて、自分も書かないと」


そう言って椅子に座り、原稿用紙にボールペンを走らせる三上さん。

言葉とは裏腹に、どこか焦っているような。そんな気がした。


◆◆◆


しばらく机に向かっていた三上さんが、顔を上げて口を開いた。


「ねえ、連宮君」

「なに?」

「妹の真菜ちゃん……だっけ、もう進路は決まったの?」

「あー……」


一応、決まりそうではある。まだ確定ではないんだけど。


「滑り止めで受けた私立は受かったけど、まだ公立が残ってるからなんとも言えない……けど、公立に受かるくらいの学力はあるみたいだから、多分公立に行くと思う」

「公立って、どこを受けたの?」

「……この学校」

「へぇ……!」


僕の言葉のどこかに反応し、三上さんは目を大きく開け、驚いていた。


「連宮君と同じ高校を受けるなんて、愛されてるんだね、連宮君」

「うーん……まあ、そうなんだろうけど」

「あれ、何か不満なの?」


一応、前から感じている不満な点がある。


「三上さんたちには言ってなかったけど、真菜って『お兄ちゃんっ子』でね。もし僕の内面を知ってしまったら……と考えると、ね」

「なるほどね。まあ、学校の中でずっと一緒にいるわけじゃないから、そうバレないんじゃないの?」

「いや、それが……どうも文学部に入りたいみたいで」

「……あれまあ」


今度は苦笑いする三上さん。その反応も仕方ないと思う。

──と、僕の向かいでパソコンで執筆していた美月さんが、口を開いた。


「大丈夫だよ、知られたくなかったら私たちがフォローするし。その時が来ないとなんとも言えないけど……まあ、なるようになるよ!」

「……うん、そうだね!」


謎の説得力に影響されて、元気がでてきた。


「おっと、そろそろ時間だね。片付けて帰ろっか」

「うん、三上さん」


ファイルを保存して、パソコンの電源を落とす。


◆◆◆


帰り道。


「あと少しで卒業式だねー」

「だね、安喰先輩も卒業かぁ」


美月さんの言葉にそう返し、白い息を吐く。


「ねえ二人とも、ちょっと先の話だけど、卒業式の後って時間ある?」

「あるよ。……安喰先輩の卒業を祝う会でもする?」

「そう思ってたところ。部長として──文学部部員として、何か恩返しがしたくてさ」


なるほど、そういうことなら大賛成だ。

美月さんも賛成らしく、テンションが上がっていた。


「三人でお金を出し合って、盛大に祝おうよ! 私盛り上げるよー!」

「そうだね。連宮君と美月さんと自分で、感謝の気持ちを伝えようね」

「うん! 僕も色々してもらったからね」


小説に関するアレコレを教えてもらった恩があるし、何より──僕の、僕たちの内面を受け入れてくれたんだ。

感謝してもしきれない。だから、祝うのだ。


「色々計画しないとね。……それじゃ、自分はこっちだから。また明日、ね」

「私はこっち、またあしたー!」

「うん、また明日!」


分かれ道で、それぞれの家の方角へと進む。


「……安喰先輩、喜んでくれるかな」


そう呟き、僕も家へと急いだ。

冬はそろそろ終わり、別れの春へと向かう。

精一杯の感謝の気持ちを、安喰先輩に伝えよう。


◆◆◆


あれよあれよと日々は過ぎ。


ついに、卒業式の日がやってきた。

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