55話 元旦、初詣、おみくじ!
「……朝、だー」
カーテンの隙間から差し込む陽の光に起こされ、そんな意味のない確認の言葉を発する。
起き上がり、
「寒っ」
……やっぱり起き上がらず、再び敷布団と掛布団の中に潜り込む。
いやいやだって、本当に寒いんだもん。この冬一番の寒さなんじゃないのかな。
寒さのおかげで目は覚めたけど、寒さのせいで起きたくなくなった。
「……ふぁあう」
布団に残る体温を感じつつ、少し間抜けにあくびを一つ。
今日は冬休みの真ん中辺り、確か部活もなかったよね。二度寝といこうかな……なんて考えて目を瞑ろうとした、その時。
『奏太ちゃん、起きてる?』
──まだ寝ぼけているのだろうか。夏に会った水留さんの優しい声が、ドアの向こう、廊下から聞こえた。
ひょっとして、夢の中? ……そんなわけないよね。でもなんで水留さんが──ってそういえば!
「お正月だ!」
飛び起きて、枕元の時計で時間を確認する。
現在、午前8時。神社へ集合する時間まであと2時間。──二度寝してたら遅れてた、危ない危ない。
『……おーい、奏太ちゃん、寝てるのー?』
「あ、起きてるよー!」
ドアの外の水留さんに返事をして、ベッドを出て立ち上がる。
そのままドアのもとへ行き、ドアノブを回してドアを開ける。
「おはよ、奏太ちゃん」
「おはようございます、水留さん! あと、おひさしぶりです!」
半年ぶりに見る水留さんの顔は、半年前と変わらず、穏やかな優しさをまとっていた。
嬉しくてつい、はにかんでしまう。
「ふふ、ひさしぶりね。お雑煮の用意ができたから、着替えていらっしゃい……って伝えるように言われたから、伝えに来たわ」
「わかりました、着替えて行きます」
「それと──」
まだ何かあるのだろうか。
水留さんはニヤリと笑い、僕の目を見て、
「あけましておめでとうございます、奏太ちゃん」
「あ、あけましておめでとうございます。……あの、どうかしたんですか?」
「……ちょっと、ね」
年始恒例の挨拶をした後、水留さんはなぜか、酷く感慨深そうにしていた。
それほどのものだろうか。いやまあ、年始の挨拶は大抵今日くらいしかしないから、大事なものには違いないけれど。
「毎年お正月に思ってたの、──奏太ちゃんに会って、こうやって年始の挨拶をしたいな、って」
「あ……」
そっか、僕はずっと、水留さんを避けていたんだもんね。
避け続けて水留さんのことを忘れてしまってからも、水留さんは僕のことを心配してくれていたんだ。
「ありがとうございます、水留さん」
「え……?」
なら、お礼くらいは言っておかなければ。
「ずっと避けていた僕のことを、ずっと心配してくれていて。……これからは毎年会いましょう、水留さん!」
「──っ! ……そうね、毎年会いに来るわ、楽しみにしててね♪」
「はい! えへへ……」
「ふふっ、それじゃ、下で待ってるわね」
とても嬉しそうな笑顔で、階段を下りて行った。
さて、早く着替えて居間に行かなければ。
◆◆◆
「あけおめ、お兄ちゃん!」
「……まだ8時半じゃねぇか……寝る」
「ああもう、布団に潜りこまないでよー!」
ノックの返事を待たずに部屋に入ってきた妹を無視して、掛布団をしっかりかけて目を瞑る。
目覚ましは午前9時にセットした、つまりあと30分は寝られる計算。すやすや。
「お兄ちゃんにいじめられたーって泣くけどいい?」
「分かった起きる起きるからそれだけはするなよ!?」
掛布団を跳ね上げ、上半身を腹筋を使い勢いよく起こす。
俺にいじめられたーって美月が泣くと、自動的に俺が親から怒られるんだから、マジでやめてくださいホントに。
「元旦なんだし、早めに起きようよお兄ちゃん。ほら、着替えてリビングに来てね、もう準備できてるんだから!」
「はいはい、着替えて行くよ。……あの、着替えるから一旦出てくれるか? ……美月?」
「──お兄ちゃん、まじめな話があります」
未だかつて見たことのない真剣な表情で、口を開く美月。
まじめな話って、一体──。
「今日は、初詣に行きます」
「……はあ」
「文学部メンバーも来ます」
「まあ、そうだよな」
文学部メンバーの(美月以外の)二人と高波と根原の4人と神社で会う予定だが、それがどうかしたんだろうか。
「連宮君も来ます」
「……お前の言わんとしていることは分かった、寝る」
「泣くよ?」
「起きます」
脅された。いや、だって……なぁ。
「あのな、そんなに急ぐことじゃないと思うんだ。大体あいつの気持ちが……」
「連宮君も同じ気持ちだとしたら?」
「……マジか?」
連宮が、俺のことを?
ないない、あいつに限ってそんなことは──でも、万が一、そんなことがあったら……。
「マジなのか……?」
「ふっふっふ……」
「み、美月?」
「勘です」
思わずベッドからずり落ちる。
「あのなぁ美月」
「じゃ、リビングで待ってるね!」
「おい待て! ……ああ、行っちまった」
ぴゅーっと廊下へ走っていった。真面目なのか違うのか分からん。
ため息を吐きつつフローリングの床に立ち、着替えようとタンスを開け、適当なTシャツとパーカー、ジーンズを取り出す。
「ね、お兄ちゃん」
「……ノックをしてくれ」
まだ脱いでなかったからよかったが。
ドアを開けて、さっきの真剣み溢れる表情はどこへやら、といったにやけた表情で。
「久しぶりに連宮君と会えるね!」
「……はい」
なんかもう面倒くさくなったので、それだけ口にした。
まさか俺、今日ずっといじられるの……?
◆◆◆
居間で家族にも年始の挨拶をしたり、おせちとお雑煮を堪能したり、今年の抱負を宣言し合ったり。
僕は短大を受けるつもりなので、『受験勉強を頑張る』と言っておいた。
本当は『家族に僕の内面を知ってもらう』だけど、きっかけがないと……と自分に言い訳をして、結局言わなかった。早く言いたいけど言いたくないというかなんというか。僕にはまだ難しい。
午前9時40分になったので、財布やスマホを入れた小さなカバンを肩にかけて、家を出発。
目的地は、家から徒歩10分の神社。なんとなく去年のことを思い出し、小さく吹き出す。
確か去年の初詣では、根原君と三上さんにいじられすぎて涙目になった高波さんに、二人が大焦りで謝ってたっけ。で、根原君が甘酒をおごる羽目になって。
懐かしいなぁ、なんて思っているうちに神社に到着。みんなはどこだろう、と──。
「つれみー! こっちだよー!」
「高波さん!」
鳥居をくぐってすぐ右側に、いつも以上に元気な高波さんを見つけた。
高波さんの隣には、三上さんもいた。
「お待たせ、二人とも」
「自分たちも今来たところだよ、連宮君。あとは根原君と美月さん、優斗君の三人が来れば──お、噂をすれば」
神社の入り口を見ていた三上さんが、何かに気付く。
僕もそっちを見てみると、そこにはよく知る三人が。
「お待たせ、みんな」
「おはよーございます! ほら、お兄ちゃんも」
「お、おはよう……」
根原君と、美月さんと、優斗君。
……根原君はいつも通りの落ち着いた雰囲気だけど、月夜野兄妹は少し違った。美月さんはやけに楽しそうで、優斗君は──なんか恥ずかしそう?
「優斗君、どうかしたの?」
「へ!? い、いや、どうもしないぜ!?」
「そう?」
よく分からないけど、本人がそう言ってる以上、僕の気のせいなのだろう。
優斗君の隣で美月さんが笑ってるけど、何が何やら。
「結局、今年もみんな普段着かぁ」
そう不満げに言う高波さんも普段着なのだけど。
「このメンバーは振袖とか袴を着ないでしょ、多分」
「それもそうだね。それじゃ、新年のご挨拶といきましょー! せーのっ」
高波さんの合図で、みんなが一斉に言葉を発する。
『あけまして、おめでとうございます!!』
◆
新年の挨拶の後、ごった返す神社を進み、拝殿から続く列に並び、拝殿でお参りをした。
お参りの後は、拝殿向かって左側に歩き、社務所でお守りを購入。
僕は学業成就のお守りを買った。短大受験、頑張ろう。
その後はみんなでおみくじを引き、一喜一憂していたのだけど。
「……?」
引いたおみくじの内容で、一つだけ分からないものがあった。
『失せ物』や『旅行』には一般的なことがかいてあるのだけど、分からないのは『待ち人』のところ。
『待ち人 気付くことが大切』と書かれているのだけど、普通待ち人って『来る』とか『来ず』とかじゃないのかな。この神社独特の表現?
……待ち人って、運命を良い方向へ導いてくれる人のことだっけ。──結局、何のことやら。
一応、おみくじ自体は小吉なので持って帰ることに。
小吉なら結んでも結ばなくてもいいんだよね。あれ違ったっけ? ……まあいいや。
という感じで。
今年一年の運勢は、まだ分からず仕舞いでしたとさ。




