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夢見少年物語  作者: イノタックス
10章 秋の訪問、冬の初詣

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55話 元旦、初詣、おみくじ!

「……朝、だー」


カーテンの隙間から差し込む陽の光に起こされ、そんな意味のない確認の言葉を発する。

起き上がり、


「寒っ」


……やっぱり起き上がらず、再び敷布団と掛布団の中に潜り込む。

いやいやだって、本当に寒いんだもん。この冬一番の寒さなんじゃないのかな。

寒さのおかげで目は覚めたけど、寒さのせいで起きたくなくなった。


「……ふぁあう」


布団に残る体温を感じつつ、少し間抜けにあくびを一つ。

今日は冬休みの真ん中辺り、確か部活もなかったよね。二度寝といこうかな……なんて考えて目を瞑ろうとした、その時。


『奏太ちゃん、起きてる?』


──まだ寝ぼけているのだろうか。夏に会った水留さんの優しい声が、ドアの向こう、廊下から聞こえた。

ひょっとして、夢の中? ……そんなわけないよね。でもなんで水留さんが──ってそういえば!


「お正月だ!」


飛び起きて、枕元の時計で時間を確認する。

現在、午前8時。神社へ集合する時間まであと2時間。──二度寝してたら遅れてた、危ない危ない。


『……おーい、奏太ちゃん、寝てるのー?』

「あ、起きてるよー!」


ドアの外の水留さんに返事をして、ベッドを出て立ち上がる。

そのままドアのもとへ行き、ドアノブを回してドアを開ける。


「おはよ、奏太ちゃん」

「おはようございます、水留さん! あと、おひさしぶりです!」


半年ぶりに見る水留さんの顔は、半年前と変わらず、穏やかな優しさをまとっていた。

嬉しくてつい、はにかんでしまう。


「ふふ、ひさしぶりね。お雑煮の用意ができたから、着替えていらっしゃい……って伝えるように言われたから、伝えに来たわ」

「わかりました、着替えて行きます」

「それと──」


まだ何かあるのだろうか。

水留さんはニヤリと笑い、僕の目を見て、


「あけましておめでとうございます、奏太ちゃん」

「あ、あけましておめでとうございます。……あの、どうかしたんですか?」

「……ちょっと、ね」


年始恒例の挨拶をした後、水留さんはなぜか、酷く感慨深そうにしていた。

それほどのものだろうか。いやまあ、年始の挨拶は大抵今日くらいしかしないから、大事なものには違いないけれど。


「毎年お正月に思ってたの、──奏太ちゃんに会って、こうやって年始の挨拶をしたいな、って」

「あ……」


そっか、僕はずっと、水留さんを避けていたんだもんね。

避け続けて水留さんのことを忘れてしまってからも、水留さんは僕のことを心配してくれていたんだ。


「ありがとうございます、水留さん」

「え……?」


なら、お礼くらいは言っておかなければ。


「ずっと避けていた僕のことを、ずっと心配してくれていて。……これからは毎年会いましょう、水留さん!」

「──っ! ……そうね、毎年会いに来るわ、楽しみにしててね♪」

「はい! えへへ……」

「ふふっ、それじゃ、下で待ってるわね」


とても嬉しそうな笑顔で、階段を下りて行った。

さて、早く着替えて居間に行かなければ。


◆◆◆


「あけおめ、お兄ちゃん!」

「……まだ8時半じゃねぇか……寝る」

「ああもう、布団に潜りこまないでよー!」


ノックの返事を待たずに部屋に入ってきた妹を無視して、掛布団をしっかりかけて目を瞑る。

目覚ましは午前9時にセットした、つまりあと30分は寝られる計算。すやすや。


「お兄ちゃんにいじめられたーって泣くけどいい?」

「分かった起きる起きるからそれだけはするなよ!?」


掛布団を跳ね上げ、上半身を腹筋を使い勢いよく起こす。

俺にいじめられたーって美月が泣くと、自動的に俺が親から怒られるんだから、マジでやめてくださいホントに。


「元旦なんだし、早めに起きようよお兄ちゃん。ほら、着替えてリビングに来てね、もう準備できてるんだから!」

「はいはい、着替えて行くよ。……あの、着替えるから一旦出てくれるか? ……美月?」

「──お兄ちゃん、まじめな話があります」


未だかつて見たことのない真剣な表情で、口を開く美月。

まじめな話って、一体──。


「今日は、初詣に行きます」

「……はあ」

「文学部メンバーも来ます」

「まあ、そうだよな」


文学部メンバーの(美月以外の)二人と高波と根原の4人と神社で会う予定だが、それがどうかしたんだろうか。


「連宮君も来ます」

「……お前の言わんとしていることは分かった、寝る」

「泣くよ?」

「起きます」


脅された。いや、だって……なぁ。


「あのな、そんなに急ぐことじゃないと思うんだ。大体あいつの気持ちが……」

「連宮君も同じ気持ちだとしたら?」

「……マジか?」


連宮が、俺のことを?

ないない、あいつに限ってそんなことは──でも、万が一、そんなことがあったら……。


「マジなのか……?」

「ふっふっふ……」

「み、美月?」

「勘です」


思わずベッドからずり落ちる。


「あのなぁ美月」

「じゃ、リビングで待ってるね!」

「おい待て! ……ああ、行っちまった」


ぴゅーっと廊下へ走っていった。真面目なのか違うのか分からん。

ため息を吐きつつフローリングの床に立ち、着替えようとタンスを開け、適当なTシャツとパーカー、ジーンズを取り出す。


「ね、お兄ちゃん」

「……ノックをしてくれ」


まだ脱いでなかったからよかったが。

ドアを開けて、さっきの真剣み溢れる表情はどこへやら、といったにやけた表情で。


「久しぶりに連宮君と会えるね!」

「……はい」


なんかもう面倒くさくなったので、それだけ口にした。

まさか俺、今日ずっといじられるの……?


◆◆◆


居間で家族にも年始の挨拶をしたり、おせちとお雑煮を堪能したり、今年の抱負を宣言し合ったり。

僕は短大を受けるつもりなので、『受験勉強を頑張る』と言っておいた。

本当は『家族に僕の内面を知ってもらう』だけど、きっかけがないと……と自分に言い訳をして、結局言わなかった。早く言いたいけど言いたくないというかなんというか。僕にはまだ難しい。


午前9時40分になったので、財布やスマホを入れた小さなカバンを肩にかけて、家を出発。

目的地は、家から徒歩10分の神社。なんとなく去年のことを思い出し、小さく吹き出す。

確か去年の初詣では、根原君と三上さんにいじられすぎて涙目になった高波さんに、二人が大焦りで謝ってたっけ。で、根原君が甘酒をおごる羽目になって。

懐かしいなぁ、なんて思っているうちに神社に到着。みんなはどこだろう、と──。


「つれみー! こっちだよー!」

「高波さん!」


鳥居をくぐってすぐ右側に、いつも以上に元気な高波さんを見つけた。

高波さんの隣には、三上さんもいた。


「お待たせ、二人とも」

「自分たちも今来たところだよ、連宮君。あとは根原君と美月さん、優斗君の三人が来れば──お、噂をすれば」


神社の入り口を見ていた三上さんが、何かに気付く。

僕もそっちを見てみると、そこにはよく知る三人が。


「お待たせ、みんな」

「おはよーございます! ほら、お兄ちゃんも」

「お、おはよう……」


根原君と、美月さんと、優斗君。

……根原君はいつも通りの落ち着いた雰囲気だけど、月夜野兄妹は少し違った。美月さんはやけに楽しそうで、優斗君は──なんか恥ずかしそう?


「優斗君、どうかしたの?」

「へ!? い、いや、どうもしないぜ!?」

「そう?」


よく分からないけど、本人がそう言ってる以上、僕の気のせいなのだろう。

優斗君の隣で美月さんが笑ってるけど、何が何やら。


「結局、今年もみんな普段着かぁ」


そう不満げに言う高波さんも普段着なのだけど。


「このメンバーは振袖とか袴を着ないでしょ、多分」

「それもそうだね。それじゃ、新年のご挨拶といきましょー! せーのっ」


高波さんの合図で、みんなが一斉に言葉を発する。


『あけまして、おめでとうございます!!』



新年の挨拶の後、ごった返す神社を進み、拝殿から続く列に並び、拝殿でお参りをした。

お参りの後は、拝殿向かって左側に歩き、社務所でお守りを購入。

僕は学業成就のお守りを買った。短大受験、頑張ろう。

その後はみんなでおみくじを引き、一喜一憂していたのだけど。


「……?」


引いたおみくじの内容で、一つだけ分からないものがあった。

『失せ物』や『旅行(たびだち)』には一般的なことがかいてあるのだけど、分からないのは『待ち人』のところ。

『待ち人 気付くことが大切』と書かれているのだけど、普通待ち人って『来る』とか『来ず』とかじゃないのかな。この神社独特の表現?

……待ち人って、運命を良い方向へ導いてくれる人のことだっけ。──結局、何のことやら。


一応、おみくじ自体は小吉なので持って帰ることに。

小吉なら結んでも結ばなくてもいいんだよね。あれ違ったっけ? ……まあいいや。



という感じで。

今年一年の運勢は、まだ分からず仕舞いでしたとさ。

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