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夢見少年物語  作者: イノタックス
10章 秋の訪問、冬の初詣

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54話 大晦日の買い出し

12月31日、午前9時。

買い出しのため、僕は真菜と一緒に、駅前のスーパーに向かっていた。


「『年の瀬』って、なんか苗字っぽいよねー」

「……そう?」

「年の瀬をなんかこう、『と』を高く『せ』に向かって低くなるように言ってみると?」


よく分からないけど、言ってみる。


「『としのせ』……おお、なんか『一ノ瀬』みたいだね」


イントネーションの問題だった。


「ふふん、でしょー? 文学部に入るんだもん、これくらいは気付けないとね!」

「……文学部と関係あるの?」

「もちろんあるよ、いい小説のネタになると思う!」


なるほど、そういう考え方が。

──というか今、真菜、『文学部に入る』って言った?


「真菜、文学部に入るの?」

「うん! 小説書くの好きだし、お兄ちゃんがいるからね」

「あはは……」


ということは、僕と同じ高校に入ろうとしてるんだよね。なんていうか、苦笑いしかできない。

真菜はこんな風に『お兄ちゃんっ子』なんだけど……それが最近、悩みの種になってきているのだ。

もし、僕の内面が女だと知ったら、ショックを受けると思う。僕から離れるだけならいいけど、落ち込んでしまったら……と考えると、やっぱり家族には内面のことを言わない方がいいのかな、なんてことも考えちゃう。

本当、どうしたものか。


◆◆◆


──なんて考えながら歩き、駅前のスーパーへ到着。

僕が買い物かごを持ち、真菜は年越しそばを、僕はおせちの具材を見に、二手に分かれた。



「……うん、こんな感じかな」


黒豆も選び終え、買い物かごに入れる。

だいぶ時間かかっちゃった。途中、栗きんとんを選ぶのにかなり時間を費やしてしまったのが原因だと思う。だって一番好きなんだもん。あの甘さ、たまらないよね。

真菜は年越しそばを選び終え、買い物かごに入れ、買い忘れがないか見に行っている。レジ前で合流することになっているから、レジ前へと向かおう。──と思い、歩き出したその時。


「あの人って……」


視界の隅に、懐かしい人が歩いているのを発見。

レジに向かっているようなので、少し早足でその人のもとに行き、声をかける。


「あの、お久しぶりです、五十嵐さん!」

「ん? おお、連宮君じゃないか! 久しぶりだね、元気だったか?」

「はい!」


うおお、すごく久しぶりだ。確か前に会ったのは……1年前の文化祭の時、かな?


「ああそうだ、安喰から聞いたんだが、三上さんが新しい部長になったんだってな。あとでよろしく伝えておいてくれるか?」

「はい、きっと喜びますよ」


三上さんの喜ぶ顔が目に浮かぶ。五十嵐さんの大ファンだったもんね。


「だといいねぇ。一人で来たのかい?」

「いえ、妹と。ここで合流することになってるんですけど──あ、来た」


レジ前に着いたタイミングで、真菜も到着。


「買い忘れはないよ、会計しちゃおっか」

「うん、分かったよ。あ、さっき言ってた、妹の真菜です」

「はじめまして、連宮真菜です! 兄がいつもお世話になっております! ……えっと、どちら様でしょうか?」

「……ふはっ」


五十嵐さん、吹き出した。


「面白い妹さんだね。ああ、自己紹介が遅れたね。五十嵐浩一郎というものです、連宮君とは文学部つながりの知り合い、ってところだね」

「へぇ、文学部つながり……五十嵐浩一郎さん……五十嵐浩一郎さん!?」


──あ、この反応はもしかして。


「しょ、小説家と作詞家の、五十嵐さんですか!?」

「ああ、そうだよ。作詞家の面も知ってくれているなんて、最高に嬉しいね!」

「ほぁ…………」


口をポカーンと開けたまま、数秒。

かと思ったら、はっ、と何かを考えついたのか、レジ前から離れる真菜。


「え、どこ行くのー?」

「先に会計しておいてー!」


質問に答えを返さないまま、真菜はお店の奥に行ってしまった。


「不思議な妹さんだねぇ。じゃ、会計しちゃおうか」

「そうですね。……真菜、どうしたのかな」


何のことやら、といった感じだけど。

言われるがまま、年越しそばとおせちの具合を会計し、お金を支払った。



「お待たせ、お兄ちゃん!」

「おかえりー……何それ」


買い物を終え、ビニール袋に詰めていると、後ろから真菜の声。

真菜も何かを買ったらしい。ビニール袋から中身を取り出し、僕に見せる。


「手帳とボールペン……だよね」

「にぶいなぁお兄ちゃん。……五十嵐さんは?」

「ついさっきスーパーを出たけど。……って真菜、またどっか行くのー?」


スーパーの出口に向かって、再び早足で向かう真菜。


「五十嵐さんに用事があるのー! 荷物は後で持つからー!」

「はぁ……」


本当、何のことやら。



大きなビニール袋二つを持ち、スーパーを出ると、出口の横で五十嵐さんと話している真菜を発見。

『ありがとうございます!』とお礼を言っているみたいだけど、何かあったのかな。


「お兄ちゃん! 見て!」

「ん? ……ああ、なるほど」


真菜が持っていたのは、さっき買った手帳。

その1ページ目に、五十嵐さんのサインが書いてあった。


「サイン! して! もらった! の!」

「……ふふっ」


すっごく嬉しそうに話す真菜を見て、思わず微笑む。


「よかったね、真菜。……ありがとうございます、五十嵐さん」

「いやいや。サインを頼まれるなんて、なんて最高の大晦日だ! って感じさ、はっはっは!」


文化祭の時も見た、豪快に笑う五十嵐さん。

僕の隣には、手帳に書いてもらったサインと五十嵐さんの顔を交互に見て、ふにゃぁ~とにやける真菜。

なんか、僕まで幸せな気持ちになれた。


◆◆◆


「あんなすごい人と知り合いだったなんて、お兄ちゃん、早く言ってよー」

「仕方ないでしょ、真菜が五十嵐さんのファンだったなんて知らなかったんだし」

「それはまあ、そうだけど……でもでも、今日会えてよかったー! 最高の大晦日になったよ!」


帰り道。話題はずっと五十嵐さんのことだった。

五十嵐さんの小説なら、小説家だと知ってから何冊か買って読んだことはある。伝えたいことはしっかり通して書かれているし、キャラの分け方もすごく上手。何より、読みやすいのだ。

でも、その話を真菜にしたことはなかった。まさか真菜が、ここまでの五十嵐さんのファンだったとは。


「会えてよかったね、真菜」

「うん!!」


幸せそうな真菜の表情、それを見つつ僕は──さっきのサインについて考えていた。

真菜がしてもらったサインには、『連宮真菜さんへ』と書かれていた。


──『さん』と、書かれていたのだ。


三上さんがサインしてもらった時には、確かに『三上『君』へ』と書かれてあったのに。

もしかして五十嵐さん、三上さんの内面に気付いてたのかな。でも、そんな素振りはなかったような。……うだうだ悩んでも仕方ないことだし、あまり考え込まないようにしよう。


明日はお正月。近くの神社に行き、根原君たちと初詣をする。

美月さんも、──優斗君も、来ることになっている。

すごく、すっごく楽しみだ。

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