52話 月夜野家!
翌日、午後0時50分。日曜日だからか、駅前はとても賑わっていた。
駅前のベンチに座っていた三上さんと高波さんの2人と合流し、少しだけおしゃべりをする。
高波さんは白と黒の縞模様の入ったシャツと紺のワイドパンツ、三上さんは灰色のパーカーとジーンズ……という服装。僕は緑色のセーターにカーキ色のチノパン、という服装にしてきた。
3分ほどして、黒色のセーターにジーンズを履いた根原君も合流。
更に2分後。
「お待たせ、みんな!」
薄緑色のゴアードスカートを履いた月夜野さんが迎えに来てくれた。
「早速だけど、家まで案内するねー。ついてきて!」
月夜野さんに連れられて、いざ、月夜野家へ。
◆◆◆
月夜野家に到着し、通してもらったリビングで月夜野君と合流して、勉強を開始する。
僕は理系科目を、他の人もそれぞれの苦手科目の教科書を持ってきていた。
幸い、文系3人、理系も3人……という風にバランスよくいるので、それぞれ教え合うことができた。
1時間ほど勉強を続けて、少し休憩。
その最中、月夜野さんが『うーん……』と何かを考え込んでいたので、声をかけてみる。
「どうかしたの、月夜野さん?」
「いや、少し気になって……今日だけじゃなくて、前からなんだけどさ」
「う、うん」
執筆について語る時よりもまじめなトーンで、夏休みに部長に秘密を明かした時よりは軽いテンションで、月夜野さんは僕──僕たちみんなに話した。
「ややこしくない?」
──月夜野さん以外、なんのことやら、といった表情。
僕も分かっていないので『何が?』と訊いてみると。
「私たちの呼び方、ややこしいなー、って思ったの」
『私たち』と言いながら、自分自身と月夜野君を指差す月夜野さん。
「さん付けと君付けでもいいんだけど、なんかややこしく感じちゃって」
「つっきーとゆーとの呼び方、ねぇ」
──と呟いたのは高波さん。少し前から、月夜野さんのことは『つっきー』、月夜野君のことは『ゆーと』と呼んでいる。
月夜野君のあだ名が名前と同じなのは『語感がいいから!』とのこと……というのは一旦置いといて、うーん、呼び方かぁ。
「私はあだ名で呼ぶのに慣れてるからいいけど、つれみーたちは慣れてないからねぇ」
「そうなんだよね。呼び方、呼び方……」
苗字以外の、いい呼び方が出てこない。あだ名はパッと思いつかないし、どうしたものか。
三上さんと一緒に、さっきの月夜野さんみたいに『うーん』と考え込んでいたところに、月夜野君の声。
「普通に名前呼びでいいんじゃねえのか? ……俺は別にどっちでもいいけど」
……そうだよね、なんでその考えが出てこなかったのか。
「名前……そうね、それがいいかも。連宮君たちが大丈夫なら、だけど」
決めるのは僕たち、だけど答えはもう出ていた。
「うん、名前で呼ぶことにする。美月さん、優斗君!」
「自分も名前で呼ぶよ。もっと親しくなれそうだし」
「俺もそうする、確かに分かりやすいからね」
──ということで、今日から月夜野さんたちのことを『美月さん』『優斗君』と呼ぶことになった。
三上さんが言ったように、より親しくなれそう!
◆◆◆
呼び方についての一件が終わり、俺たちは再び勉強を始めた。
勉強は得意な方じゃねぇから、美月やみんなに訊きながら進めた。一人でやるより、断然捗る。
1時間ほどして、再び休憩。美月が飲み物を取りに行ったので、俺も手伝うために後から台所へ。
連宮たちが手伝いを申し出てくれたが、友達とはいえ、客人の手を煩わせるわけにはいかない。──と説明して、俺一人で台所に来た。
美月は冷蔵庫を開け、麦茶を取り出していた。ならば、と俺は食器棚からコップを取り出し、台所の中央に置かれたテーブルに置く。
「……ねぇ、お兄ちゃん」
「ん、どうした?」
6個目のコップを置いたタイミングで、美月が口を開いた。
「連宮君のこと、どう思ってるの?」
──酷く純粋な瞳で、そんな疑問を投げかけてくる。
「……分かってて言ってるんだろ」
「当たりー」
ったく、こいつは。
で、連宮のこと……か。『いい奴』とか『面白い奴』みたいな答えは望んでいない、ってのは分かる。
「大切なダチだよ」
「それ以外には?」
──この回答じゃあ駄目らしい。
それにしても、と。
「お前、ホントに明るくなったよな」
「話を逸らそうとしても無駄ですよー。さあ、答えなさい♪」
なんて楽しそうに訊くんだ、こいつは。……ああ、本当に元気になったな、美月。
嬉しい限りだ。連宮奏太──間違いなく、あいつのおかげだな。
「それ以外もそれ以上もそれ以下もねぇよ。──大切な、ダチだよ」
だからこそ、あいつに負担はかけられない。
妹の恩人と言っても過言じゃないような奴に、迷惑はかけられない。
「うーん、まぁ、そういうことにしておいてあげる。……応援、してるんだからね?」
「ありがとな。……何のことか分からねぇけど」
納得はしてないみたいだが、それ以上は訊いてこなかった。
◆
コップをお盆に乗せて、リビングへ向かう。
美月は午前中に焼いたクッキーを皿に入れ、先に持っていった。
「連宮奏太──か」
俺自身、整理できていないことなのだ。
あいつのことは本当に、大切なダチだと思っている。
『それ以外には?』
──美月、あんなに鋭かったか?
兄妹だから、分かったのかもしれねぇけど、バレないようにしねぇとな。




