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夢見少年物語  作者: イノタックス
9章 高校2年の夏休み

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48話 優しくて、暖かくて

次の日。

午後4時に、お仕事から帰ってきたお父さんの運転する車で家を出発して、2時間ちょっと。そのくらいで景色がガラッと変わる。

昔風の家──って言うのかな、そういうのがいっぱいある。ぼくの住む町で見るような、コンクリートの建物はほとんどない。

その代わり、『かわら屋根』の家とか、木でできているような建物がいっぱいある。


そんな町並みが見える道路を走り、到着。──水留ちゃんの家だ。

前に来たのは確か、ぼくが小学校に上がる時。だから、2年以上前だ。


「おお! よく来たね、奏太くん、真菜ちゃん」


懐かしいなって思いながら車のドアを開けて、カバンを背負って水留ちゃんの家の前まで行ったら、水留ちゃんのお父さんが出迎えてくれた。


「ひさしぶり、おじさん!」

「久しぶり、真菜ちゃん。奏太くんも、久しぶり!」

「おひ……久しぶり、おじさん」


家族以外の年上の人と話す機会はほとんどないから、敬語になりそうだったけど、慌てて子供っぽい口調に直す。

ぼくくらいの年齢の子供が敬語をすらすら言えたら、それはそれで問題になりそう……ってことは、なんとなく分かる。だから、おじさんとかには子供っぽい口調で話すようにしている。

ぼくのぎこちない挨拶でも満足してくれたみたいで、おじさんはぼくと真菜、お母さんとお父さんを家に招き入れてくれた。



ぼくたちが泊まる部屋、1階の仏間に荷物を置いて、お父さんとお母さん、真菜と4人で居間に向かう。

居間には、お母さんのお兄さん──ぼくらのおじさんと、おばさん、それと──水留ちゃんが待っていた。

掘りごたつの上のテーブルには、端から端までごちそうが並んでいた。


水留ちゃんと『久しぶり』って言い合うくらいの簡単な挨拶も済ませて、みんなで夕ご飯を食べ始める。

お父さんとお母さんは、おじさんとおばさんといっぱいお話をしていた。ぼくにはよく分からない話も合ったけど、楽しそうに話しているのは伝わってきた。


食べ終わって、真菜は眠そうだったから、お母さんとお風呂に入りに行った。

お父さんはお酒を飲みながら、おじさんとお話していた。

邪魔にならないように、仏間でカバンの中身を確認していると、水留ちゃんが話しかけてきてくれた。


「ね、部屋で一緒に遊ぼう?」

「あ……う、うん!」


普通の反応。よし、カバンの奥の方までは見られていない。

カバンの奥の方にある、チャック付きのポケットの中には──ぼくの大事な、『ぼくであるための』服が入っているのだ。

フリフリの、ひらひらしている──女の子がよく着ている、服。

絶対に見られないように、うまく隠しているから、バレちゃう心配はまったくない。


仏間の隅にカバンを置いて、水留ちゃんと一緒に水留ちゃんの部屋に向かう。



水留ちゃんの部屋は、すっごく女の子っぽい。

小学5年生だから、お人形とか、おままごとで使うようなものはないけど、ぬいぐるみはたくさんある。

だからかな、すっごく居心地がいい。


水留ちゃんと遊ぶときは、いつもおしゃべりをする。

水留ちゃんは、何かで遊ぶよりおしゃべりをする方が好き、って言ってた。

だから今日も、おしゃべりを楽しむ。


水留ちゃんは、ぼくのことを『男の子』っていう風には見ていないみたい。

だからって、女の子だと思っているわけでもないみたいだけど。

おしゃべりをしていて、ぼくを男の子とも、女の子とも思っていないのが分かる。


──これだけ聞くと、すっごく嫌な人みたいに聞こえるけど、違う。その逆。

ぼくのことを、『一人の人間として』扱ってくれているのだ。

だからおしゃべりの最中に、『男の子』『女の子』としての意見を聞いてきたりはしない。

大人だったら『よくできた子だね』で済ますんだろうけど、ぼくにとっては信じられないくらい、嬉しいこと。

だって──


いじめられているときは、一人の人間としてなんて、見てもらえないから。



次の日。

午前中はお父さんとお母さんと真菜とぼくの4人で、古い町並みの観光地を見て回った。

そこでお昼を食べた後は、水留ちゃんたちと一緒に、おじいちゃんたちのお墓参りに行った。

ぼくはおじいちゃんとおばあちゃんの顔を憶えていないけど、一緒に暮らしていた水留ちゃんは憶えているみたいで、ぼくと真菜におじいちゃんたちの話をしてくれた。

少し、胸が暖かくなった時間だった。


水留ちゃんの家で夕ご飯を食べた後、疲れちゃったみたいで、真菜はお風呂に入る前に寝ちゃった。

だから、ぼくが先にお風呂に入った。



昨日も感じたけど、人の家のお風呂に入るのって、なんか楽しい。

お風呂の形が違うのもあるけど、シャンプーとボディーソープの位置がぼくの家とは違う高さにあったり、体を洗う用のタオルがぼくの家のものより薄かったり──生活感が感じられて、すっごく楽しいのだ。


湯船に浸かって、心の中で10数えて、出る。

昨日はもっとゆっくりしたけど、今日はまだ真菜が入っていない。

まだ寝てるかもしれないけど、もし起きてたら……早くお風呂に入って、ゆっくり寝てもらいたいもん。

真菜はぼくの大事な妹だから。


──って考えて早く出たけど、やっぱり真菜は寝ちゃってた。

ま、いっか。



次の日、ぼくの家に帰る日。

朝ごはんを食べて、テレビを見て少しゆっくりした後、お父さんとお母さんは帰る仕度をし始めた。

ぼくと真菜も、着替えとかの忘れ物がないように、しっかり準備をした。

今日も、カバンの中のチャック付きのポケットに入れた、『ぼくであるための服』──ピンク色のスカートがちゃんと入っているのを、確認した。


このスカート、ぼくのお気に入りなのだ。

お小遣いをもらっても、スカートを買いには行けないから、服の縫い方を本で読んで勉強して、自分で作ったのだ。

少しいびつだけど、かわいくできた、ぼくの自信作。


そんな服が入っていることをちゃんと確認して、お父さんに呼ばれたから、玄関に行き、庭に出た。

──チャックを閉め忘れたのに、気付かずに。



水留ちゃんの家の前で、おじさんたちと水留ちゃんと一緒に、写真を撮った。

なかなか来れないから、記録しておく──ってお父さんは言っていた。

写真の出来栄えに満足したみたいで、お父さんたちは喜んでいた。


「奏太、お父さんたちの荷物はもう車に積んだから、奏太もカバン、持ってきな」

「はーい」

「そうだ、真菜のも一緒に持ってきてくれるか──って、真菜?」


真菜が水留ちゃんの家から、自分のカバンを背負って歩いてきた。


「おとうさんとおかあさんがにもつをくるまにいれてたから、わたしももってきた!」

「おお、えらいな。それじゃあ、奏太も持ってきてくれるか?」

「うん!」


真菜、知らない間にしっかりしてきてたんだな。

そっか、もう小学生だもんな──なんて、気楽に考えながら水留ちゃんの家に入って、靴を脱ぎ、水留ちゃんの靴の横あたりに揃えておく。

水留ちゃん、もう家の中に入ってたのかな……って頭の隅で考えながら、廊下をちょっとだけ歩いて、仏間の扉の前へ。


そういえば、カバンのチャックを閉め忘れていたような──と、思い出した。

それと同時に、仏間で、小さな物音。


嫌な予感がした。

急いで仏間に入り、カバンが置いてあった隅の方を見て、──血の気が引いた。


水留ちゃんが、ぼくのカバンを持っていた。



「そ、奏太……ちゃん」

「水留ちゃん?」


嫌な予感を必死に頭から追い出しつつ、普通の声で水留ちゃんに話しかける。


「奏太ちゃ、ん、か……カバンを取りに来たの?」

「うん、そうだけど……あ、もしかして、カバンを持ってこようとしてくれてたの?」

「そうだ……よ」


水留ちゃん、優しい人だからなぁ。きっと、忘れものだと思って、急いで持ってこようとしてくれてたのかも。

──それにしても。


「水留ちゃん、さっきからどうしたの?」

「へ!? な、何が?」

「さっきからずっと、変だよ? 調子でも悪いの?」

「ち、ちがうよ! すごく元気だよ!」


やっぱり、変。

何かを隠してるみたい。……気にしない方がいいかな。


「元気ならいいんだけど……あ、カバンはぼくが持っていくよ。よいしょ……」

「あっ……!」

「ん? どうかした? って、……え?」


カバンのチャックが開いているのは、ぼくが閉め忘れたから、不自然ではないんだけど。

カバンの一番手前、一番よく見えるところに──ぼくのスカートが、見えていた。


終わった、って思った。



「ごめん、奏太ちゃん! カバンを持っていってあげようと思って、持ち上げたら手を滑らしちゃって、それで、その……スカートが、カバンの中にあるのが、見えちゃって」

「……あ」

「ほ、本当にごめん! きっと、隠したかったことなんだよね。私たちに知られたくない……ことなんだよね。だ、大丈夫だから! 奏太ちゃんが隠してることなら、私も絶対、誰かに言ったりなんてしないから!」

「……ああ」


すごく、泣きそうだった。

スカートを見られたのもそうだけど、何より──水留ちゃんが優しくて、とっても暖かな気持ちになって。

そんな気持ちに、ぼくは慣れてなくて。


「あ、奏太ちゃん……!」


たっ、と走って、逃げ出した。

カバンのチャックをしっかり閉めて、靴を乱暴に履いて、水留ちゃんの家を出た。

お父さんたちに不自然に思われないように、走らず、早歩きで車に向かった。


「お、お父さん、持ってきたよ!」

「おお、来たか。真菜はもう乗ってるよ。奏太も乗っちゃいな」

「う、うん!」


声が上ずったのは、バレていないみたいだ。



車に乗ってからは、よく憶えていない。

見送ってくれたおじさんとおばさんの顔は憶えているのに、水留ちゃんの顔は──憶えていない。

たぶん、直視できなかったのだろう。

初めてぼくの秘密を知った、水留ちゃんの顔を。


◆◆


最も辛かった時期の話。

辛くて、苦しくて、嫌で、嫌で、嫌だった日々の中の、ほんの少しだけ、暖かかった話。

今まで見ようとしてこなかった、僕の話。


僕と、水留さんの話。


◆◆◆◆

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