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夢見少年物語  作者: イノタックス
9章 高校2年の夏休み

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45/81

45話 県北の観光地で

改札を抜けると、そこは別世界だった。

──と言うと少し盛ったように聞こえるかもしれないけど、実際、そう感じたのだ。


去年の夏、ショッピングセンターに行った時よりも、もっと気持ちのいい風。

涼しいけど、どこか懐かしい匂いのする、風。

──懐かしい?


「おぉー、風が気持ちいいですね、部長」

「そうだね、三上さん。山に囲まれているからかな、空気がおいしいね!」


懐かしい──という感情はきっと、この風景を見たからだろう。

誰もが心の奥底で求めるような、古き良き町並み。

僕らの住む町の正反対を行く、木造住宅しかない景色。

それを見たから、『懐かしい』なんて感じたのだろう。


「あ、あっちに団子屋がありますよ!」

「よし、早速行こう!」


三上さんと部長、すごく楽しそう。

民宿の部屋割りのことが心配だったみたいだけど、この町並みを見てテンションが上がったらしい。こういう景色、好きなのかな。


さて。


「僕たちも行こっか、月夜野さん」

「うん! 部長、待ってくださいよー!」


三上さんたちの元へ、駆けてゆく。

僕もその後を追おうとして──ふと、違和感。

正確には、既視感。

ここに来た記憶なんて、ないはずなのに。


さっきから僕、どうしたのだろう。

──ま、気のせいだよね。


◆◆◆


「おいしかったですね、パフェ!」

「そうだね。量もあったし、大満足だよ!」


町並みと買い物を楽しんだ後、町の端の方にある甘味処でパフェを食べ、今はそこから近い川沿いの道を歩いている。

観光地らしく、タイルで綺麗に整備された道。緑、青、黄、ピンク──の4色を散りばめた、なんともきれいな──というか可愛い道。歩いているだけで楽しくなってくる。


相も変わらず、ハイテンションで僕らの前を歩く、部長と三上さん。

──なんで三上さん、あそこまで楽しそうなのだろう。

いやまあ、確かに楽しい状況には違いないのだけど、いつもの三上さんとかけ離れているほどの楽しみようだから、何か理由があるのかな、と思ったのだ。


「ねえ、連宮君」

「ん、なに?」

「三上さん、すっごく楽しそうだけど、何かあったの?」


──月夜野さんも、同じことを考えていたみたい。


「僕も丁度気になってたとこだよ。でも、訊いていいのか分からなくて……」

「……? よし、夜に民宿で訊いてみる!」


僕の話し方に疑問を持ったみたいだけど、詮索はしないでくれた。

月夜野さんは、三上さんの事情(親のこと)を知らない。

隠していたわけではないんだけど……それに関係することだったら、三上さん、話しづらくないかな。

手助けできそうだったら、しよう。


「15時……うん、ちょっと早いけど、民宿に向かおうか。執筆も始めないとだからね」


部長の一言で、お昼の予定は終了し、4人で民宿へと向かった。


◆◆◆


午後10時、僕と部長が泊まる部屋。

畳のいい匂いのする中、僕と部長はくつろいでいた。

3時間ほど集中して執筆した後、温泉に入って、大広間で食事を済ませて、今に至る。


「月夜野さん、結構文才あるんだね! 驚いたよ、理系クラスだって言うから、俺と同じくらいかと思ってたのに……俺も頑張らないとなぁ」

「部長の小説も素敵だと思いますよ?」

「そう言ってくれると助かるよ。いやぁ、それにしても……」


ぐぐーっと伸びをして、窓から見える山々を眺めつつ、部長は続ける。


「いい温泉だったね!」

「そ、そうですね」

「隣接しているスーパー銭湯に無料で入れるなんて思わなかったよ」


部長の言うように、この民宿に泊まった人は、隣接しているスーパー銭湯に無料で入れたのだ。

……それはまあ、いいのだけど。


「露天風呂もあったし、満足満足! 連宮君も楽しめた?」

「はい、もちろんです」


精一杯取り繕って答える。

取り繕わなければならない理由は、ひどく単純なこと。髪と体を洗ったあと、温泉に浸からずにすぐに出たからだ。

恥ずかしかったし、何より『男湯に入っている』ということへの違和感がかなりあったから。


「それならよかった。……ちょっと早いけど、そろそろ寝ようかな」

「え、もうですか?」

「ああ。テレビとか見たかったら見ててくれて構わないよ。明日は早起きして、近くの散歩に行く予定だから、俺はもう寝るよ」

「そうなんですか? あの、僕も一緒に行ってもいいでしょうか……?」


僕の問いを聞き、満面の笑顔になる部長。


「もちろんだよ! そうなると……明日は君へのサプライズがある、ってことになるね。楽しみにしていてくれ!」

「サプライズ、ですか?」


そういうのって、サプライズを受ける人に教えてはダメなような。


「言っても予想できないと思ったからね」


……確かに、何が起こるのかまったく分からない。


「ま、明日のお楽しみってことでさ。よし、じゃあ電気消すよー」

「は、はい!」


何が起こるのか分からないまま、電気の消えた部屋で布団に入り、僕は眠ることにした。

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