44話 部長の提案
月夜野さんが入り、少しだけ賑やかになった文学部。
結局新入生は一人も入らなかったけど、4人だけでの部活も悪くない。
そう思うことにして早2か月。
それは、部室に入ってきた部長の、唐突な言葉から始まった。
「夏休みに、文学部で合宿をしよう!」
◆◆◆
6月終盤、季節は初夏から夏へと移り変わる。
衣替えも終わり、着ているポロシャツが視覚的にも暑さを和らげてくれる、そんな時期の放課後。
「合宿ですか?」
「ああ、合宿だ。電車で県北に行って、そこの民宿に一泊する。昼間は観光地巡りで、夜は小説を書く──ってのを考えてるんだけど、どうだろう!」
県北──っていうと、古い町並みが評判の観光地のことだろうか。
あの場所なら乗り換えなしで行ける電車があるはずだし、そんなに遠くないし。いいんじゃないだろうか。
「私、いいと思います、合宿! あの古い町並みの雰囲気を味わいながら書けるなんて、最高じゃないですか!」
満面の笑みで答える、月夜野さん。
「そう思うかい、月夜野さん! 連宮君と三上さんは、どう?」
「僕もいいと思いますよ。いい小説が書けそうですし、何より楽しそうですし!」
「自分もいいと思いますよ。でも……一つ質問、いいですか?」
「なんだい、三上さん!」
いつもの何倍もハイテンションな部長に、戸惑いながら三上さんが質問する。
「民宿の……その、部屋割りとかって」
「安心してくれ! 二部屋予約するつもりだから、男子と女子で分かれられるよ」
「そ、そうですよね……」
──そうだった、その問題があった。
部長は僕らの内面を知らないから、当然僕や三上さんのことは外見に沿った性別だと思っているだろう。
ということは、部長と僕で一部屋、三上さんと月夜野さんで一部屋──ってことになるんだろうけど、見事に内面の性別とかみ合っていない。着替えの時とかに困るし、どうしたものか。
「よし、早速顧問と話してくるよ! 予算とかは後日報告するってことで!」
「あ、はい……」
(一応)全員の同意をもらえたのがよほど嬉しいらしく、早々に部室を出ていった。
さて、どうしたものか。
「断る……わけにもいかないよね」
三上さん、よほど心配らしい。
「私は気にしないけど、二人はやっぱり気になるよね。二人とも、大丈夫?」
「自分も、なるべく気にしないようにするよ」
「僕も、お風呂とかが一緒じゃなければ大丈夫」
──ということで、夏休みに合宿を行うことになった。
こんなので大丈夫かな……。
◆◆◆
時間は進み、夏休み中盤。
「それじゃあ、行ってきます」
「行ってらっしゃい、楽しんできなさいねー!」
「はーい!」
文学部合宿当日、午前9時。
民宿の部屋割りの不安があるけど、それ以上に楽しみな感情が勝っている。
駅までは歩いていき、そこから電車で県北の観光地に行く。
着替えとお財布と原稿用紙、筆記用具の入ったカバン(薄緑色)を背負い、一生懸命歩いていく。
みんな、もう着いてるかな?
◆
午前9時10分。集合時間10分前。
「おはようございます、部長、三上さん、月夜野さん」
「ああ、おはよう連宮君!」
いつもよりも少しテンションが高い部長。
水色のTシャツと七分丈の灰色のチノパン、スニーカーソックス……という、爽やかな服装。
「おっはよー、連宮君」
不安要素は気にしないことにしたのか、割と楽しそうな三上さん。
カーキ色の半そでシャツと、黒色の(部長と似ている)七分丈のチノパン、スニーカーソックス……という服装。なんかこう……『冒険!』って感じの服装だ。
「おはよ、連宮君!」
いつもの何倍も元気な月夜野さん。
白地に紺の縞模様が入ったTシャツと、フリルの付いた白いスカート(ひざ下くらいの)、アンクルソックス……という服装。見た目にも涼しさを感じられる。
三人とも──僕もそうだけど、夏らしい服装。
靴は全員スニーカー。割と歩くから、全員スニーカーで統一したのだ。まあ、僕も三上さんもカジュアルな靴はスニーカーしか持っていなかったし、ちょうどよかったかも。
「乗車券はもう全員分買ってあるから、早速行こうか」
「はい!」
ひとまず、夜までは楽しみが続く。
精一杯遊ぼう!




