43話 月夜野兄妹
「お、お兄ちゃん? なんでここに──」
「いやぁ……ただ通りかかって」
思いっきり目をそらして答えている。
あれ、ちょっと変だよね。一応言っておこう。
「ここ、南校舎1階の一番奥だよ?」
「うっ……」
「……お兄ちゃん?」
「そんな顔で見るなよ、美月ぃ。……悪かったよ、盗み聞きしてて」
妹に睨まれて、すぐさま謝る月夜野君。
盗み聞きされてたのか……って、一体どこから!?
「えっと、月夜野君。その──どのタイミングから聞いてたの?」
「『タメ口で話しましょう』くらいから」
「ああ、そこからね」
そこから聞いたのなら、僕と三上さんの秘密はバレていないはず。
「本当に悪かった。……美月が連宮たちとちゃんと打ち解けられたか、心配で来ちまったんだ」
「僕は怒ってないけど……月夜野さんは」
「……はぁ、仕方ないなぁ」
かなり反省しているようで、俯いている月夜野君の元へ歩き、月夜野さんが優しく話す。
「心配してきてくれたんでしょ? だったら──怒れないわ。ありがとね、お兄ちゃん」
「美月……!」
──本当に仲がいいんだな、月夜野兄妹。
それはそうと、一つの疑問が僕の頭の中に存在していたので、訊いてみる。
「なんで月夜野さんがここに来るって知ってたの?」
サッカー部の練習もあるはずなのに、なんで来れたのか、ってことも分からない。
「サッカー場に来た根原に教えてもらったんだよ。今は休憩中だから来れた、ってわけ」
「なるほど」
月夜野さんをここに連れてきた以上、月夜野君にも伝えておこうと思ったのかも。
こんなに時間差があったことの説明も、サッカー場が少し離れた場所にあるから──ということで片付く。
「そろそろ休憩終わる時間だし、俺はもう行くよ。……美月をよろしくな、連宮、三上」
「うん!」
「任せて~」
僕と三上さんの返答に満足したらしく、月夜野君は部室を飛び出していった。
「よし、執筆に入ろう!」
「ああ!」
「しっかり見学しますー!」
月夜野君の妹想いな一面を見れた、そんな高校2年初日だった。
◆◆◆
翌日は入学式だったので、僕たち2年生と3年生はお休み。
始業式から2日後、木曜日。午後2時。
「来ないですね……」
「呼びかけ、頑張ったんだけどね……」
僕と部長は、部室で椅子に座り、テーブルにぐたーっと倒れこんでいた。
新入生への部活入部の呼びかけを終えた後。……なのだけど、文学部に見学しに来る新入生はいなかった。
──そのタイミングで、部室のドアがノックされた。
「は、はい! 今行きますー!」
ダッシュでドアまで行き、ドアを開けて生徒を部室へ誘導する部長。
──新入生ではなかった。
「見学の人ですよね!? どうぞどうぞ、ぜひ見学していってくださ──」
「部長、その人が月夜野さんです」
「君が月夜野さんか! 連宮君から話は聞いてるよ、ゆっくりしていくといいよ」
「は、はい! 月夜野美月です、今日はよろしくお願いします!」
月夜野さん、やっぱり少し緊張気味。
先輩と話すのにも、慣れていないのかな。
「じゃあ、今日も書き始めようか」
「はい、部長。ああそうだ、月夜野さん。三上さんはもう少ししたら来るからね」
「うん、分かった!」
2年生だけど、部長も歓迎してくれた。
月夜野さんも加わって、もっと賑やかな部活になりそう!
──新入生に入ってもらいたい気持ちも、ないわけじゃないけど。




