42話 秘密の共有
「半陰陽──」
全く想像していなかった言葉が、月夜野さんの口から発せられた。
半陰陽、それって確か──
「男性と女性、それぞれの身体の特徴を持っている人、ですよね」
「基本的にはそんな感じです。……よくご存知ですね」
自分の性別でずっと悩んでいた時に、ネットでその単語を見つけたのだ。
浅い知識しかないから、詳しくは知らないけど。
「私の場合は、この世に生まれた時がその状態でした」
生まれた時──ってことは、今は違うのかな。
「生後すぐに整形手術を受けたので、私の外見は『女』で間違いありません。ですが──」
『外見は』と月夜野さんは言った。
つまり、内面は──
「内面が、かなり揺れ動く方なんです。感情とかの話ではないですよ?」
「心の性別、ですか」
「はい。女だったり男だったり、中間だったり。……そこが厄介なんです」
心の性別──僕の場合は『女』だけど、それが揺れ動くなんて、相当苦労してきたはず。
「性格もかなり変わるみたいで、自分で言うのもなんですが、小さい頃は結構苦労してました。そういうことを隠そうとした結果、自然と友達が離れていきましたね。だから、兄には感謝しています」
「月夜野君に?」
「ええ。兄が言ってくれたんです、『この学校に入らないか』って」
月夜野君、妹さんのことをよく考えているんだなぁ。
「前の学校では孤立していましたから、兄の言葉には助けられました。──こうして連宮さんとも会えましたし」
「僕なんかでよければ、いつでも話しかけてきてください。文学部も気に入ったら、ぜひ入ってくれると嬉しいです! 部員は3人しかいないので、結構静かなほうですけど」
「では、見学させてもらいます! ……ごめんなさい、作業中にこんなにお喋りしてしまって」
申し訳なさそうに頭を下げる月夜野さん。
人と話し慣れていないのか、少し不器用な雰囲気。
「気にしないでください。自分の内面について話せて、すごく楽しかったですから。それに──月夜野さん、元気になってくれましたし!」
「あ……はい!」
月夜野さんの目は、キラキラと輝いていた。
秘密を共有できる人と出会えて、嬉しかったのだろう。
僕にとっての三上さんたちみたいになれたのなら、よかった。
「じゃあ、執筆に戻りますね。──あ、帰ってきた」
「え?」
ドアが開き、三上さんが部室に入ってきた。
「ごめん、遅くなった。教室前の廊下で高波さんと遭遇して、色々話してて……」
遭遇って。
今日は高波さん、三上さんと会えていなかったから、会えて嬉しくなったのかも。
ハイテンションな高波さんの姿が思い浮かんだ。
「あれ、えっと……」
「は、初めまして! 月夜野美月といいます、文学部の見学に来ました!」
「ああ、そうでしたか。自分は三上愛香といいます。……あれ、でも入学式は明日だから、まだ1年はいないし……2年生ですか?」
「はい、転入してきました!」
「なるほど」
また月夜野さん、すごく緊張して言葉を選んでいる。
ここは──少し手を貸そうかな。
「月夜野さん、三上さんも僕と同じですから、そこまで緊張しなくて大丈夫ですよ」
「つ、連宮君? ……もしかして月夜野さんも、何か内面に──」
気付いてくれたみたいで、三上さんが質問してくれた。
「は、はい。実は──」
◆
「なるほど、半陰陽で、手術を受けているから身体は固定されているけど、中身は揺れ動いている、と。あまり勝手なことは言えませんけど──苦労されているんですね」
「いえ、そんな……否定はしませんけど」
月夜野さんの表情、すっごく明るくなっている。
「月夜野さん、嬉しそうですね」
「もちろんですよ、連宮さん! 今日だけで2人と、秘密を話せたんですから!」
「喜んでもらえたならよかったです。ああ、連宮君と同じ──って説明されましたけど、自分の場合は連宮君とは逆で、心が男なんです。すみません、話してなかったですね」
三上さんも、秘密を話せて嬉しそう。
「あ、今日はいないですけど、文学部の部長は僕らの内面を知らないので、入ることになったら注意してくださいね」
「まさか、差別的なことを言ったり──」
「いえいえ! そういうことではないんですけど、なんか言いづらくて。──いつか言おうとは思っているんですけどね」
「そうなんですね……分かりました!」
伝えなくてもいいことだけど、伝えておきたいこと。
部長に伝えられる日は来るのだろうか。
あ、それと──言っておかなければいけないことがあった。
「同級生なんですから、タメ口で話しましょう?」
「い、いいんでしょうか」
「当たり前です、僕たちはもう『友達』でしょ?」
「──っ! は──う、うん!」
すっごく喜んでくれた。
僕も根原君とタメ口で話せて嬉しかったし、僕以上の年月内面を隠してきた月夜野さんは、もっと嬉しいのかも。
「自分ともタメ口でお願いしますね。……これからよろしくね、月夜野さん!」
「うん! よろしく、三上さん!」
──何とか、本当の月夜野さんを引き出せたかな。
根原君、きっとこれを狙って月夜野さんをここに連れてきたのだろう。
後で根原君にも、報告しておかなければ。
「じゃあ、執筆に入るね。自由に見学していってね──ん?」
部室の外──部室前の廊下で、物音がした。
部長は帰ったし、一体誰が──
そう思い、ドアを開けると、そこには。
「うわっ!? ──よ、よぉ連宮」
「月夜野君?」
ドアが突然開いて驚いている、月夜野君がいた。




