41話 月夜野美月
午後0時30分、文学部部室。
持ってきたお弁当を食べ終え、原稿用紙に小説を書いていると、部室のドアが3回ノックされた。
『はーい』と返事をして立ち上がると、そこには今朝ぶりに会う、人物の姿。
「根原君?」
「今朝ぶりだね、連宮君。……君だけかい?」
部室に僕しかいないのを不思議に思ったらしく、そう訊いてきた。
「うん、部長は用事があって帰ったし、三上さんは忘れ物があったみたいで、教室に戻ってるよ。──そっちの人は?」
根原君の後ろに、女子生徒が立っていた。
──月夜野君と一緒に歩いてた人だ。文学部に何の用事だろう?
「ああ、この人は──いや、ここからは俺の出番じゃないね。連宮君、少し耳を貸してくれるかい?」
「え、うん……」
僕の近くまで歩いてきて、耳元で小声で根原君は話す。
『この人も、『守っている嘘』を吐いているから、君に会わせたかったんだ』
『なるほどね。うん、僕に任せて』
僕の返答に満足したようで、根原君は『じゃ、俺はこれで』と言って、部室を出ていった。
残された女子生徒は不安そうにしていたけど、それは数秒だけ。すぐに笑顔になり、自己紹介を始めた。
「私、今日からこの学校に転入してきた、月夜野美月といいます! 可能でしたら、文学部を見学していきたいのですが……大丈夫でしょうか?」
「ええ、大丈夫ですよ。転入生だったんですね。──え、『月夜野』?」
聞いたことのある苗字、もしかして。
「兄をご存じなんですね。私、月夜野優斗の双子の妹です」
「あ、そうだったんですね……」
一気に胸のつかえが取れた感覚。なんで不安だったのかは未だに分からないけど。
──ここで、根原君の言葉が本当だったのだと気付く。
この人の目、全く笑っていない。
この状況が楽しくないとか、そういうことじゃなくて──自分のことを隠すために、奥底にある感情を押し殺している感じ。
なんて悲しい。なんて寂しい。根原君がこの人を連れてきた理由が、ちゃんと分かった気がする。
「辛く、ないですか?」
「え、何がですか?」
隠し続けている。──こうなったら一か八か、僕のことを話してみよう。
あまりペラペラ話すことでもないけど、今回は特例だろう。
「月夜野さん、何か──隠していませんか?」
「え、な、何を言って」
「言いたくないことでしたら、言わなくて大丈夫です。でも──あまりにも辛そうに見えたので」
「……兄の言う通りの人、ですね」
月夜野君になんて言われたんだろ、僕。
「兄に教えてもらったんです、この文学部に、面白い人がいるって」
「なんて言われたのか、すごく気になりますね」
「褒めてましたよ、あなたのこと。食べ方が綺麗とか、仕草一つ一つがどの女子よりも可愛いとか」
──まさか月夜野君、僕の内面に気付いてる?
そ、それも今は置いておこう。考え出したらキリがないし。
「それで──私を理解してくれるかもしれない、って」
やっぱり僕と同じで、『守っている嘘』を吐いていたんだ。根原君の洞察力、相変わらず凄いなぁ。
月夜野さん、さすがにそこからは言い渋っているみたいだから、僕から話そう。
「僕は2年3組の、連宮奏太です。──小さいころから、女の子になりたいと思って生きてきました」
「──っ! ほ、本当ですか!?」
「本当ですよ。自分の部屋の奥に、スカートとかワンピースみたいな、可愛い服を隠してたりします。軽蔑しましたか?」
「するわけないです! 男とか女とか、全く関係ないです。自然なことだと思います」
少し不器用に、肯定してくれた。
受け入れてもらえると、やっぱり嬉しい。
「私も性別のことで悩んだりしてますから、連宮さんの気持ち、分かります。……私は──」
両手をぎゅっと握り、月夜野さんが話す。
両目は必死さをまとい、輝いている。
「──半陰陽なんです」




