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夢見少年物語  作者: イノタックス
8章 高校2年、始まり

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40話 『守っている嘘』

転入生の女子生徒は、淡々とは程遠い、抑揚のある自己紹介をしていく。

『家族の都合で来ました』だとか『この学校でもたくさんの人と友達になりたい』だとか──とても抑揚のある物語の展開。

そう、抑揚が──ありすぎる。


「これから2年間、よろしくお願いします!」


そう〆て、転入生──月夜野美月さんは元気に笑う。

──その裏に何らかの感情があると、俺には分かる。

自分に正直すぎて友達ができなかった俺とは、全く違うもの。


月夜野さんは──隠すのが下手で、友達ができなかった、ってところか。


教室では拍手が起こっているけど、それも今のうち。

明るすぎる月夜野さんを怪しがり、次第に離れていくだろう。


まぁ、ここまで俺の妄想──と言えばそれまでなのだけど、一応の証拠はある。

パッチリとした両目が、笑っていないのだ。

──仕方ない。


また、お節介を焼きますかね。


◆◆◆


帰りのホームルーム終了後、月夜野美月さんはクラスの女子に囲まれた。

もちろん悪い意味ではなく、みんな転入生のことを知りたくて来ているのだ。

新たなクラスメートの質問に、一つ一つ丁寧に答えていく月夜野さん。『彼氏はいるの?』なんて質問にも、酷く丁寧に、不気味すぎるほど丁重に答えている。

それでもまだ、月夜野さんの目が笑っていないことは気付かれていないようだ。


お節介を焼こうと思ったけど、これでは近づけない。

仕方ないので、このクラスでは一番仲の良い高波さんの席に行き、話しかける。

──そういえば高波さんは、あの輪の中に入っていないんだな。なぜだ?


「ねはらっち、転入生が来たね!」

「だね。まさかこのタイミングで転入生が来るとは思わなかったよ」


いつも通りのハイテンションな高波さん。調子が悪いのかと思ったけど、そんなことはなかった。


「しかも『月夜野さん』だって! 月夜野君の関係者かな?」

「この場合、親戚って言うんじゃないかな……」


仕事上の関係じゃないんだから。


「月夜野さん、すっごく面白いよね!」

「面白い……? まあ、可愛くはあるね」

「だねー、確かに可愛いよ!」


ニヤリと笑って、高波さんは続ける。


「最初の頃のみかみんと同じくらい、ね」


おや、そう言うってことは。


「気付いてたんだね、月夜野さんの内面のこと」

「初めて会った頃のみかみんとそっくりだもん。でも、あくまで同じ『くらい』ね。そっくりだけど、内面は少し違うみたい」


──驚いた。

俺は『守っている嘘を吐いている』ということしか分からなかったのに。


「根原君、お節介焼くつもり?」

「それもお見通しかい。──構わないだろう?」

「うん、いいと思うよ。みかみんとつれみーならきっと、本当の月夜野さんを引き出せるはずだし」


高波さんからのゴーサインももらえたし、囲んでいる女子がいなくなったら声をかけてみるかな。



しばらくして、教室からほとんどの人が出ていったタイミングで、帰り支度をしている月夜野さんに近づいてみる。

ちなみに、高波さんはすでに部活に行った。


「初めまして、月夜野さん。根原悟っていいます、これからよろしくですー」

「あ、は、はい! 月夜野美月です、2年間よろしくお願いします!」


少しお辞儀をした後、俺の顔を見る月夜野さん。

他に何か用事があると思っているのだろうか。実際その通りだから、こちらから話を切り出す。


「部活は何かやってましたか?」

「い、いえ、特には」


──なんてラッキー。文学部に誘いやすくなる。


「では、文学部に入ってみてはいかがですか? 理系クラスに入ってきた人に言うのもなんですが、小説を書くのって結構楽しい──らしいですよ」


俺はバリバリの理系だから、連宮君が教えてくれた情報をそのまま話す。

俺の言葉のどこかに反応したようで、月夜野さんの目が少しだけ笑った。


「私、文学部に入ろうと思ってたんです! 文学部の部室の場所、教えていただいてもいいでしょうか」

「いいですよ。文学部の部員に用事があるので、部室まで案内しますよ」


なんという偶然。それっぽい理由を作り、案内することにした。

一応、連宮君にこっそり事情を話しておこうかな。


「根原さんはちなみに、どこの部活に入られているんですか?」

「ああ、俺は入ってませんよ。身体が弱いので」

「あ──すみません、失礼なことを訊いてしまいました」

「気にしないでください。この身体のおかげで、色々貴重な体験をできたんです。俺はこの身体を、疎ましく思ってなんかないんですから」


──去年の入学式の日、こんな掛け合いを初めてできた友達とやったことを思い出した。

色々あったから、随分昔のことのように感じる。


「そう……ですか」


また、笑っていない目に戻ってしまった。

今の俺の言葉に、何か引っかかるところがあったのだろうか。

──去年みたいに、詮索したりはしない。それは俺よりも連宮君の方が適任だ。


「じゃあ早速、文学部の部室に行きましょうか。忘れ物はないですか?」

「はい、大丈夫です! お願いします!」


声は元気で顔は明るく、目だけ笑わない月夜野さん。

連宮君ならきっと、月夜野さんを心からの笑顔にできるはずだ。

そう考えつつ、俺と月夜野さんは教室を出て、文学部部室へと向かった。

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