40話 『守っている嘘』
転入生の女子生徒は、淡々とは程遠い、抑揚のある自己紹介をしていく。
『家族の都合で来ました』だとか『この学校でもたくさんの人と友達になりたい』だとか──とても抑揚のある物語の展開。
そう、抑揚が──ありすぎる。
「これから2年間、よろしくお願いします!」
そう〆て、転入生──月夜野美月さんは元気に笑う。
──その裏に何らかの感情があると、俺には分かる。
自分に正直すぎて友達ができなかった俺とは、全く違うもの。
月夜野さんは──隠すのが下手で、友達ができなかった、ってところか。
教室では拍手が起こっているけど、それも今のうち。
明るすぎる月夜野さんを怪しがり、次第に離れていくだろう。
まぁ、ここまで俺の妄想──と言えばそれまでなのだけど、一応の証拠はある。
パッチリとした両目が、笑っていないのだ。
──仕方ない。
また、お節介を焼きますかね。
◆◆◆
帰りのホームルーム終了後、月夜野美月さんはクラスの女子に囲まれた。
もちろん悪い意味ではなく、みんな転入生のことを知りたくて来ているのだ。
新たなクラスメートの質問に、一つ一つ丁寧に答えていく月夜野さん。『彼氏はいるの?』なんて質問にも、酷く丁寧に、不気味すぎるほど丁重に答えている。
それでもまだ、月夜野さんの目が笑っていないことは気付かれていないようだ。
お節介を焼こうと思ったけど、これでは近づけない。
仕方ないので、このクラスでは一番仲の良い高波さんの席に行き、話しかける。
──そういえば高波さんは、あの輪の中に入っていないんだな。なぜだ?
「ねはらっち、転入生が来たね!」
「だね。まさかこのタイミングで転入生が来るとは思わなかったよ」
いつも通りのハイテンションな高波さん。調子が悪いのかと思ったけど、そんなことはなかった。
「しかも『月夜野さん』だって! 月夜野君の関係者かな?」
「この場合、親戚って言うんじゃないかな……」
仕事上の関係じゃないんだから。
「月夜野さん、すっごく面白いよね!」
「面白い……? まあ、可愛くはあるね」
「だねー、確かに可愛いよ!」
ニヤリと笑って、高波さんは続ける。
「最初の頃のみかみんと同じくらい、ね」
おや、そう言うってことは。
「気付いてたんだね、月夜野さんの内面のこと」
「初めて会った頃のみかみんとそっくりだもん。でも、あくまで同じ『くらい』ね。そっくりだけど、内面は少し違うみたい」
──驚いた。
俺は『守っている嘘を吐いている』ということしか分からなかったのに。
「根原君、お節介焼くつもり?」
「それもお見通しかい。──構わないだろう?」
「うん、いいと思うよ。みかみんとつれみーならきっと、本当の月夜野さんを引き出せるはずだし」
高波さんからのゴーサインももらえたし、囲んでいる女子がいなくなったら声をかけてみるかな。
◆
しばらくして、教室からほとんどの人が出ていったタイミングで、帰り支度をしている月夜野さんに近づいてみる。
ちなみに、高波さんはすでに部活に行った。
「初めまして、月夜野さん。根原悟っていいます、これからよろしくですー」
「あ、は、はい! 月夜野美月です、2年間よろしくお願いします!」
少しお辞儀をした後、俺の顔を見る月夜野さん。
他に何か用事があると思っているのだろうか。実際その通りだから、こちらから話を切り出す。
「部活は何かやってましたか?」
「い、いえ、特には」
──なんてラッキー。文学部に誘いやすくなる。
「では、文学部に入ってみてはいかがですか? 理系クラスに入ってきた人に言うのもなんですが、小説を書くのって結構楽しい──らしいですよ」
俺はバリバリの理系だから、連宮君が教えてくれた情報をそのまま話す。
俺の言葉のどこかに反応したようで、月夜野さんの目が少しだけ笑った。
「私、文学部に入ろうと思ってたんです! 文学部の部室の場所、教えていただいてもいいでしょうか」
「いいですよ。文学部の部員に用事があるので、部室まで案内しますよ」
なんという偶然。それっぽい理由を作り、案内することにした。
一応、連宮君にこっそり事情を話しておこうかな。
「根原さんはちなみに、どこの部活に入られているんですか?」
「ああ、俺は入ってませんよ。身体が弱いので」
「あ──すみません、失礼なことを訊いてしまいました」
「気にしないでください。この身体のおかげで、色々貴重な体験をできたんです。俺はこの身体を、疎ましく思ってなんかないんですから」
──去年の入学式の日、こんな掛け合いを初めてできた友達とやったことを思い出した。
色々あったから、随分昔のことのように感じる。
「そう……ですか」
また、笑っていない目に戻ってしまった。
今の俺の言葉に、何か引っかかるところがあったのだろうか。
──去年みたいに、詮索したりはしない。それは俺よりも連宮君の方が適任だ。
「じゃあ早速、文学部の部室に行きましょうか。忘れ物はないですか?」
「はい、大丈夫です! お願いします!」
声は元気で顔は明るく、目だけ笑わない月夜野さん。
連宮君ならきっと、月夜野さんを心からの笑顔にできるはずだ。
そう考えつつ、俺と月夜野さんは教室を出て、文学部部室へと向かった。




