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夢見少年物語  作者: イノタックス
1章 春の出会い
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4話 三上愛香

「あの、すみません」

「ん?」


僕の呼びかけに、三上さんと高波さんが気付き、振り返る。


「えっと──あ、4組の」

「はい、連宮といいます。三上さん、ちょっと今、いいですか?」

「え……」


──三上さん、すごく嫌そうな顔をした。

向こうは僕のことを知らないだろうし、当たり前か。


「連宮君……って言うのね。悪いけど、みかみんは恋人は募集してないわよ」

「そういうことですので、失礼します」


きっぱりと言って、高波さんと三上さんはまた歩き出した。

──え、ちょっと待って。

高波さんに言われたような、恋人になりたい、なんて気持ちは1ミリもないんだけど。


「あ、いや、そういう意図で声をかけたわけではないんですけど……」

「あれ、そうだったの?」


高波さん、意外そうな顔をしている。


「ごめんね、早とちりしちゃったみたい。みかみんに何の用事?」


みかみん──というのが、三上さんのあだ名らしい。

それはまあ、今はいいんだけど。


「三上さんに、少し訊きたいことがありまして」

「自分に訊きたいこと、ですか」


──三上さんの一人称は、『自分』らしい。

自己紹介ゲームの時に、それで若干浮いてしまっていたので、憶えている。


「はい。昨日のデパートでのこと、なんですが」

「──っ!」


三上さん、かなり驚いている。──なぜか高波さんも。

昨日のことは、触れてほしくなかったのかな。


「あの、時間がないようでしたら、大丈夫なんですけど……」

「みかみん、どうする?」


不安そうに、高波さんは三上さんに訊いてみたけど、どうだろう。


「──昨日のデパートでのこと、というと」

「えっと……紳士服売り場で、三上さんを見かけた、ということなんですが」

「見られて、たの、か」


マズい。三上さん、相当落ち込んじゃってる。


「あ、あの、あまり話したくない内容でしたら、大丈夫です、誰にも言ってはいないので!」


三上さんのあまりの落ち込み様に、なぜかテンパってきてしまった。


「──誰にも、話しませんか?」

「は、はい、話しません」


僕の目を真っ直ぐに見て訊いてきたので、僕も三上さんの目を真っ直ぐに見て、答える。


「みかみん、いいの?」

「うん、大丈夫。すみません、高波さんにいてもらってもいいですか?」

「はい、もちろんです」


話しにくいことらしい。やっぱり、『そういうこと』なのかな。


「一応、場所を移しましょう。──ここを真っ直ぐ行ったところの公園で、いいですか?」

「はい」


僕の家の近くの公園に向かって、3人で歩き出す。


◆◆◆


公園のベンチに3人で腰かける。


「自分は、『私』という一人称が、あまり好きではありません」


(おごそ)かさすら感じさせる、静かな口調で、三上さんが話し始める。

一人称については──やっぱり、という感じ。


「このスカート──女子の制服も、どうにも好きになれません。スカート自体に嫌悪感はありませんが、自分が『女子』にカテゴライズされている気がして、制服だけは、どうしても」


言いながら、はいているスカートを嫌そうに睨む三上さん。

これは、まるで──。


「三上さんの心は、男の子……なんですか?」

「──……はい」


数瞬、言うのをためらったようだけど。

力強く、そう語ってくれた。


「──ありがとうございます。大事なことを、僕に教えてくれて」

「感謝されるようなことはしてないと思いますけど。……引いたり、しないんですね」

「人の大事な内面を引くなんてこと、絶対にしないですよ。それに、訊いた僕が引くなんてことがあったら、失礼にもほどがありますからね」


基本的に僕は、失礼にあたることは絶対にしない、と決めている。


「面白い人ですね。自分の内面を知って、引かなかったのは連宮君で2人目です」

「2人目、ということは──1人目は高波さん、ですか?」


三上さんを挟んで、一番左側に座っている高波さんを見てみる。


「正解、その1人目は私よ。中1の時に教えてもらったの。大人っぽいみかみんと仲良くなりたくて、どんどん話しかけていったら、ある日突然教えてくれたの♪」

「追っ払おうと思って、自分のことを話したんですけど……高波さん、引かなかったんです。それどころか、それからも仲良くしてくれて」


──高波さんたちの話で、根原君のことを思い出した。

あの人も、もしかしたら──なんて甘い考えは捨てておいて、気になっていることを訊く。


「訊いた僕が言うのも変な話なんですけど──なんで隠さずに、話してくれたんですか?」


僕は、ずっと隠しているのに。──なんてことは言わないけど。


「変に隠したら、嫌な噂が立っちゃうかもしれない、と思ったので。正直に言った方が、まだいいのかな、と思いまして」

「──そう、ですか」


『正直に言った方が』──そう思っても、このことを出会ってすぐの人に伝えられるのは、凄いことだと思う。

僕も、正直になれるだろうか。


「さて、自分はそろそろ帰ることにします」

「みかみん、やっぱり帰るのね……ついていこうか?」

「大丈夫だよ、これは(うち)の問題だから、自分でなんとかする」


えっと──話がまったく見えないんだけど。


「三上さん、何かあったんですか?」

「いや、たいしたことではないんですけど──高校に入ったんだから、本当の自分のことを両親に教えようとして、昨日、その……」


それって、もしかして。

三上さんの内面を知って、引かなかったのは僕で二人目、と言っていたし──まさか。


「引かれた、とかですか?」

「……いや、えっと」

「その程度だったらよかったんだけどね」


言い淀んでいる三上さんに代わり、高波さんが話し始める。


「みかみんのお父さんとお母さん、みかみんを怒ったのよ」

「お、怒ったって──なんで」

「『普通の女に育てたつもりなのに、なんでそんなこと言うんだ!』──なんて具合でして」


俯いて、悲しげに話す。

──酷過ぎる。三上さんの両親、あまりにも自分勝手じゃないか。


「──決めた! 私、みかみんの家に一緒に行く!」

「高波さん……気持ちは嬉しいけど、高波さんに迷惑はかけられないよ」

「もう、いつまでそんなこと言ってるのよ! 私とみかみんは友達でしょ?」


──三上さん、いい友達がいるんだな。


「連宮君、あなたも来て!」

「へ!? ぼ、僕も?」


急に僕に振られたので、少し驚いた。


「何よ、ここまで聞いたのに、嫌だ、なんて言うつもり?」

「うぅ……」


有無を言わせぬ迫力で、高波さんに問われる。

そりゃあ、僕だって三上さんの両親を説得したいとは思うけど。


「説得するときの人数は、多い方がいいわ!」

「いや、僕はまだ、三上さんと会って間もないですし、三上さんは嫌じゃないかな、と……」

「女々しいわね」

「あはは……」


女々しい、か。

あながち間違ってもいない意見。


「連宮君、気にしなくていいんですよ。高波さんにも連宮君にも、やっぱり迷惑はかけられないです。──両親に、謝りますよ」

「みかみん……! そんなことしたら駄目だよ!」

「でも、今の自分じゃ、父さんたちの前できちんと意見が言えるかすら分からないんだよ。高校卒業まであの家にいるためには、自分を押し殺さなくちゃ」


──押し、殺す?

自分を押し殺して、家に居させてもらう?


「──駄目、ですよ」

「え?」

「そんなことしては、駄目ですよ! 三上さんの居場所が、三上さんの家から無くなっちゃいます!」

「連宮君──?」


三上さんの声で、はっ、と気付いた時には、全部言ってしまっていた。

──こうなったら、僕も協力するしかない。


「僕も三上さんの家に行きます。高波さんと一緒に。──いいですよね、三上さん」

「おお、よく言ったぞ連宮君!」


高波さん、すごく喜んでいる。


「でも、これはあくまで自分の家の問題で……」

「連宮君、行こう!」

「はい!」

「……仕方ないですね、何があっても知りませんよ」


そう言いつつも、少し嬉しそうな三上さんを先頭に、僕たち3人は三上さんの家に向かって歩き始めた。

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