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夢見少年物語  作者: イノタックス
7章 橋崎、卒業

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38話 安喰の答え

南校舎1階、その一番奥、文学部部室前。

職員室で借りた鍵でドアを開け、中に入る。

部室の中の光景に少し驚きつつ、橋崎先輩も入ってきてくれた。


「すみません、来ていただいて」

「気にしないで、あたしも高校生のうちに、この部室にもう1回来たかったし。──ま、もう卒業しちゃったけどね」


そう言って、先輩は部室を見回す。


「うん、いいね。……これが君の、答えなんだね」

「はい、先輩。俺は──前に進みます」


部室にはいつも通り、『3つ』のテーブルと椅子が配置されていた。

今朝、連宮君が南校舎から出ていくのを確認してから、大急ぎで戻って配置を変えたのだ。


「いいよ、その意気だ。ようやく君も、一人で歩き出せたんだね。少しホッとしたよ」

「いえ、俺は──まだ、一人では歩けません」

「随分と弱気だね」


先輩の言う通り、弱気な発言に聞こえるだろう。実際そうだし。


「一生かかっても、一人では何もできない子供なんです、俺。今だって、先輩がこの学校からいなくなると思うと、泣きそうですし。──だから俺、思ったんです。誰かに頼ってもいいんじゃないかな、って」

「……自立こそが人間の到達点だと、あたしは思うわ」

「先輩はそう言うと思ってました。だから、頼ったら嫌われるかもしれないって、ずっと思ってたんです」


そう思っていたから、恐れていたから、俺は今まで何もしなかった。

でも今朝、ようやく分かったのだ。


「連宮君に怒られたんです、自分の過去の行動を否定してはダメ、って。そこでやっと俺は、自分の気持ちを肯定できました。先輩と会いたいから文学部に入って、先輩の傍にいたいからずっと部活に出て。それらが決して不純なものじゃないってことも、分かったんです。俺は──」


先輩はしっかり聞いてくれている。

だから、俺もはっきりと伝えなければ。



「俺は、橋崎先輩が好きです。ずっと──俺の背中を押してください」



◆◆◆


──安喰君らしい、というか。

弱気なところすらも肯定してくるとは、ね。


「顔を上げて、安喰君」

「……はい」


安喰君の顔は、今まで見たことがないくらいに輝いていた。

自分の弱さを肯定して、ようやく前を向けたのだろう。


「最初に言っておくわ、永遠なんてないわよ。あたしが先に死んだら、君はどうするつもりなの? まさか、あたしの後を追いかけるなんて──」

「そんなことしないですよ」


……あれ、意外。


「先輩のしてほしいことをします。長生きしろって言われたら、頑張って一人で生きてみます。もちろん、後を追えって言われたら迷わず追いかけます」

「病んでない?」

「純粋って言うんですよ」


屁理屈じゃないかしら。悪い気はしないけど。


「俺は、先輩に頼って生きていたいです」

「──はぁ、負けたわ」

「え──」


負けよ、負け。途中で気付いたけど、あたしの方がごねてたし。

──あたしも、ちゃんと言ってあげよう。


「いいわ、君の背中、押し続けてあげる。──大学に行っちゃうから、遠距離でもいいなら、ね」


表情とは逆に、震える安喰君の両手をあたしの両手で包み、その手にそっとキスをした。

安喰君ったら、顔真っ赤にしちゃって。──ああ、可愛いなぁ。


「絶対、幸せにします」

「あたしも君を幸せにするわ。負けないわよ♪」


そう誓い合って、二人で笑い合った。



その後あたしは、安喰君のファーストキスを見事奪うことに成功した。

今までで一番の赤面を見せてもらえた。──あたしも安喰君に負けないくらい、顔真っ赤になっちゃってたかも。

少し恥ずかしかったけど、最高の高揚感を味わえたので、良しとする。


──これからが、楽しみだ。


◆◆◆


卒業式の二日後、金曜日、午前8時。


「おはよう、月夜野君! はい、これ!」

「おはよー連宮。ん? なんだこれ……ってハンカチか」

「うん、ちゃんと洗ってきたからね」


卒業式で泣いてしまった時に、月夜野君から借りたハンカチ。

そのまま返してくれればいいって言ってくれたけど、さすがに申し訳ないからちゃんと洗濯してきた。


「はいよ、確かに。……で、こっちの袋はなんだ?」


ハンカチと一緒に渡した小さな紙袋を、不思議そうに見る月夜野君。


「開けてみて!」

「あ、ああ。……チョコ?」

「うん! 先月のバレンタインの日、チョコもらえなかったーって言ってたから、買ってきたの!」

「そ、そうか」


月夜野君、どんな反応をしたらいいのか困ってるっぽいけど、一体どうして?

……って、当たり前じゃん! 僕の身体は男なんだから。こういうのは普通、女の子からもらうものだもん。


「ごめん、嫌なら捨てて──」

「んむっ、ん、美味いなこれ」

「あっ──」


た、食べてくれた。

でも、なんで。


「同情のチョコはいらねぇけど、これは感謝のチョコだろ? 感謝の形を捨てるなんて、俺はしねぇよ。……ありがとな、連宮」

「うん!」


チョコを食べてもらえただけなのに、なぜかすっごく嬉しくなった。

今日も1日、頑張れそう!

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