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夢見少年物語  作者: イノタックス
7章 橋崎、卒業

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35話 想いを

そわそわする日々を過ごし、2月最終日。作戦実行の日。

全てのクラスが、今日はホームルーム2時間だけ。午前11時、帰りの短いホームルームが終わると同時、僕と三上さんは荷物を持ち、教室を飛び出した。

向かう先は、2階の奥の方にある、2年10組。


「あ、橋崎先輩!」

「来たわね、二人とも。……準備はいい?」

「はい!」

「もちろんです!」


僕、三上さん、の順に小さな声で元気に答える。

──あ、部長が来た。


「じゃ、また明日。──あれ、橋崎先輩? なんでこんなところに……連宮君と三上さんも」

「にぶちんな安喰君に、知ってもらいたいことがあってねぇ」

「はい? 一体何を──」


部長の疑問をスルーして、作戦が開始する。


「よし、行くわよ連宮君、三上さん! そして現部長!!」

「はい!」

「分っかりましたー!」

「え、なに? ──って先輩!? 引っ張らないでくださいー!」


状況を理解できていない部長の手を取り──というか引っ張って、部長と先輩は廊下を駆けていった。

僕らも向かおう。



「部室──ですよね」

「ええ、部室よ。それも文学部のね」

「鍵がないと入れないと思うんですが」


未だ困惑したままの部長。

そんな姿をスルーして、僕らも続ける。


「鍵なら借りてきました」

「連宮君たちも先輩の企みに参加したのか……」


愚痴も無視して、部室の鍵を開ける。

観念したのか、部長は自分でドアを開け、部室の中に入る。

その後に、橋崎先輩、三上さん、僕──の順に。


「──……これ、って」


部長、すっごく驚いてる。橋崎先輩の予想通りだ。

部室の中央には、パソコンの乗ったテーブルが二つ、向かい合っていた。

昨日部活が終わった後に、橋崎先輩と僕らで配置したのだ。

そう、これは──


「1年生二人が入る前までの、部室の様子よ。思い出したかしら、まさか忘れちゃってた?」

「──忘れるはず、ないです」


驚きつつ、震える声で部長は答える。

そんな部長を見て、ほっ、と息を吐く橋崎先輩。余裕そうに見えてたけど、橋崎先輩も不安だったんだ。

でも、ここで終わりじゃない。作戦は、まだ続く。


「ね、安喰君。あたし──明日、卒業するんだ」

「──っ! し、知ってますよ。明日は卒業式です。俺もきちんと、先輩方を送り出さなければ──」


声を振り絞って、感情は出さずに答える部長。

少し伸びた前髪で顔が見えないけど、すごく悲しそうで、寂しそう。


「ねぇ、安喰君」

「──なんですか、先輩」


部長の顔を覗き込み、橋崎先輩はそっと訊く。

今までで一番、優しい微笑みで。


「君が送り出したい先輩は、だれ?」

「──っ! そんなの決まってます! ……決まってますよ、とっくに」

「そう、それならよかったわ」


決まってるけど、まだ勇気がないみたい。

少しだけ震えている部長の手を両手で包み、橋崎先輩は静かに話し始める。


「あたしはいるわ、送り出してほしい後輩」


部室の中央に置かれたテーブルの片方を見ながら、話す。


「ずっとあたしのことを好きでいてくれて、ずっとそばにいてくれた、そんな後輩。……結構可愛いのよ、知ってるかしら」

「──可愛いかは、分からないですけど」

「可愛いのよ。それに──責任感もあって、かっこいいの」

「過大評価ですよ……」


俯いたまま、部長も話す。


「そんなにできた人間じゃないです。先輩にかっこいいところを見てもらいたくて、責任感があるふりをしていただけです。本当は不安だったのに。情けないですよ──俺」

「どうかしらね」


自分より背の高い部長の頭をなでて、続ける。


「不安だったのに、あんなに堂々としていたんだもの。すっごく頑張ってたのよね」

「──っ、俺は……」


部長から少し離れて、橋崎先輩は最後に一言、こう告げた。


「明日──卒業式のあと、待ってるわね」

「──……」

「さ、二人とも、帰ろっか。安喰君、鍵の返却よろしくねー」


今にも泣きそうな部長を部室に残し、橋崎先輩と僕らは生徒用玄関へと向かった。

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