34話 冬休みが終わったら
あっという間に冬休みが終わり、1月も下旬へと差し掛かる。
師走はとっくに過ぎたというのに、先生たちは忙しそう。
「連宮君、どうかしたの?」
「え? どうもしないけど……」
クラスで一番早く来ちゃったから、窓の近くに立って校庭を眺めていたら、教室に入ってきた根原君に質問された。
特に変わったこともないし、どうもしないのだけど。
「最近、結構早く学校に来てるみたいだから、何かあったのかなって」
「ああ、そういうことね」
よく見てるなぁ、根原君。
そういうことなら、心当たりがある。
「落ち着かないんだ」
「……?」
頭の上にはてなマークを浮かべる根原君。
こればっかりは『僕の気持ち』だから、分からなくて当然だけど。
「卒業式、もうそろそろだからさ」
「そろそろ、って……まだ1か月もあるよ?」
不思議そうに僕を見る根原君から窓の外の校庭へと視線を移し、ため息とともに呟く。
「『もう』1か月、なんだよ」
もう、1か月しかないのだ。
──橋崎先輩が卒業する日まで、もう1か月しかないのだ。
「だから落ち着かなくて、早く来ちゃうのかも」
「繋がらないような……」
「ふふっ、おかしいのは僕も分かってるよ」
それでも。
僕は卒業式が始まるまでは、早く来ちゃうだろう。
「『橋崎先輩が通っている学校』に、長くいたいからね」
「……ま、連宮君の負担になってなければいいんだけどさ」
頬を掻いてそう言い、根原君は席に着いた。
心配してくれてるのだから、すごくありがたい。
5分後、窓の外を歩いてくる橋崎先輩を見つけ、少し嬉しくなりながら、僕も席に着いた。
◆◆◆
2月の中旬、卒業式の練習が始まった。
他の学校では1年生が参加しないこともあるらしいけど、僕らの学校では1年生も卒業式に参加する。
在校生として、橋崎先輩たちをしっかりお見送りするんだ。
「連宮、泣いてるのか?」
「頑張って堪えてるよ!」
練習なのに、3年生が入ってくるところで泣きそうになっちゃった。
月夜野君に呆れられたけど、実際泣いてないもん。……少し危なかったけど。
「あと少しで、3年はこの学校からいなくなるんだなぁ」
「月夜野君……それ以上言うとどうなるか、分かってる?」
意地悪な笑顔で言ってきたから、睨み返してみる。
「泣くよ?」
「何かされるのかとビビったじゃねぇか……悪かったよ。大事な先輩でもいるのか?」
「──ひぐっ」
「え!? 今のはセーフだろ!?」
さっきよりも強く涙腺に来る言葉を優しくかけられ、ついに涙腺は決壊した。
周りの人にはバレてないみたいだから、汗を拭くふりをして、ハンカチで涙を隠す。
「……じゅーす」
「え?」
「じゅーす」
「……分かったよ、おごるよ」
やりぃ。
無自覚でも、意地悪言う方がいけないんだもんね。
◆◆◆
放課後、文学部部室で三上さんと小説を書いていると、廊下へと続くドアが勢いよく開かれた。
「え? ……橋崎先輩!」
「久しぶりね、連宮君。三上さんも、久しぶり」
「お久しぶりです、橋崎先輩」
橋崎先輩、部室を見渡して、ほっ、と息を吐いた。
もしかして……
「部長に用事があったんですか?」
「逆よ、逆。安喰君はいない方が好都合だわ」
いない方が……って、喧嘩でもしてるのかな。
「今日は連宮君と三上さんに用があったのよ。……手伝ってほしいことがあるの。卒業式の前の日って空いてる?」
「卒業式の前の日、ですか」
その日はほとんどの部活が休みになる日。文学部も例外ではない。
「部活はないですし、空いてますよ」
「自分も空いてます。でも一体何を?」
「ふっふっふ、それはね──」
ドアの近くに集まった僕と三上さんに、橋崎先輩は『作戦』を伝えてきた。
──すっごくワクワクして、ドキドキする作戦。
その内容は──
「あたしの想いを安喰君に伝えちゃおう! ……って作戦よ」
卒業式まで、あと2週間。
まだ、しんみりするには早かったようだ。




