32話 大晦日はおごそかに?
12月最終日、午後1時、高波家にて。
「今年の目標は、大晦日をおごそかに過ごすことです!」
異様に高いテンションの高波さんが、クッションから立ち上がり手を掲げて、唐突に語り始める。
オレンジジュースしか飲んでないはずなんだけど、酔ったみたいにテンションが高い。要するにいつも通り。
「今年って、あと半日もないけど」
「知ってまぁす!」
根原君の冷静なツッコミに負けず、高波さんのハイテンショントークは続く。
今日の高波さんは敬語キャラらしい。
(……あれの影響だよね)
視線を本棚に向ける。
夏休みに来た時にはなかった小説や漫画が、本棚にいくつか並べられているのだけど──その中に、登場人物が敬語で話す小説があったのだ。それに影響を受けたのかも。
真菜に勧められたから僕も読んでみたけど、結構面白かった。下町育ちの活発な少女が、中学に転校してきた臆病な少年に恋をする、という小説。少年は誰に対しても敬語で、そこが気になった少女が少年に関わっていくうちに、少年の秘密を知っていく──という、ガールミーツボーイなお話。
「今年の目標立ててなかったから、今立てました!」
「そっか、それなら大丈夫だね」
「ええ、大丈夫なのです!」
口調は変わってるけど、テンションはいつものまま。そのおかげか、敬語なのを誰も指摘していない。……こんな高波さんに慣れちゃってるだけかな。
というか高波さん、活発な少女じゃなくて臆病な少年の方に影響されたんだよね。──よく分からなくなってきたから、それについて考えるのはやめよう。
「高波さん、おごそかに……って、具体的にはどう過ごすの?」
「ん? ……静かに過ごせば、それっぽくなるんじゃないかな」
三上さんの問いに答えて、高波さんは再びクッションに座る。正座で。
立ち上がる前は胡坐をかいていたから、少し『おごそか』に近づいたかも。
──と思っていたのだけど、少しぐらついている。正座をし慣れていないのかな。
胡坐を続けている根原君と三上さんを羨ましそうに見ている。『おごそかに過ごす』って言った手前、そう簡単には胡坐に戻ったりしないのだろう。
ちなみに、僕はいつも通り、クッションの上に正座している。アヒル座りまではいかないくらいに、足を開いて。厚みのあるクッションの上だから、この座り方が一番楽なのだ。
「あ、そうだ!」
何かを思いついたらしく、また立ち上がる高波さん。
「来年の目標を立てようよ!」
「まだ早くない?」
「つれみー、何事も早く済ませないと。人生損するよ?」
正座しつつ『やれやれ』と自信満々に諭してくる高波さん。本当にテンション高い。大晦日だから?
「来年のことを言えば鬼が笑う、ってことわざが」
「ねはらっち、おばさんみたい」
「おば──っ!?」
何事にも動じないと思っていた根原君、ここでまさかのダウン。
「連宮君、高波さんに言い返して」
「僕が!? ……今のは仕方ないかな、うん」
「連宮君もそっち側かー!」
両手を床につけて落ち込む根原君。
それを見て『自分もことわざ大好きだから気にしないで!』とフォローする三上さん。なぜかあたふたしている。
根原君を三上さんに任せて、高波さんはまたまた立ち上がって語る。
「私の来年の目標は、……──」
そこで止まって、クッションに正座する。
えっと、来年の目標は?
「まだ思いついてません!」
「そ、そうですか……」
つられて、僕も敬語で返す。
──さっきから気になってたんだけど。
「高波さん、足しびれてる?」
「へ!? し、しびれてないですけど……なにゆえ」
頻繁に立ち上がっているから、多分しびれてるよね。
何よりの証拠と共に、伝える。
「ずっと足の位置を調整してるんだもん、気付くよ」
「バレてたの!?」
バレてないと思ってたの!?
「自分も気になってた。高波さん、ずっと足をパタパタしてるから」
「みかみんにもバレてたー!? うわーん!」
「ちょ、高波さん!?」
両手を床につけて(根原君と同じ状態で)落ち込む高波さん。
また三上さんがあたふたしている。
「俺、おばさんみたいなの……?」
「足しびれてたの、バレてた……」
「ふ、二人とも、元気出してー!」
「……ふふっ」
そんな三人を見て、自然と笑いがこぼれていた。
結局、おごそかな大晦日にはならなかったけど。
「俺、まだまだ若いし……」
「私にはまだおごそかは早かったの……?」
「二人ともー!」
騒がしい大晦日も、アリだよね。
そんな会話を2時間ほどして、解散の時間に。大晦日だから、今日は少し早めに帰ることにしたのだ。
落ち込んでいた二人もいつの間にか回復していて、途中からはそれぞれの部活のこと(根原君はギターのこと)を話した。
短かったけど、たくさん話せたから満足。また明日、初詣でいっぱい話そう。
そういえば、来年の目標を立てるって話はどこへ。




