27話 文化祭を回ろう
10月最初の週、その土曜日、午前11時。
「A班のみんな、お疲れ! 交代の時間だよ、今度は私たちB班の番だー!」
教室の奥、カーテンで仕切られた一角で、高波さんがそう伝える。
それを合図に、エプロンを外しながら『疲れた~』とか『早く見て回ろうぜ!』なんて会話が、その一角で飛び交う。もちろん、お客さんには聞こえないくらいの声量で。
「連宮君もお疲れさま。自分たちも見て回れたし、連宮君もいっぱい遊んできてね」
「うん! それじゃ、行ってくるね!」
「行ってらっしゃい、連宮君。さて、俺も頑張るとするか!」
三上さんと根原君に送り出され、僕は校内を見て回ることにした。
廊下に出ると、そこにはたくさんの人。
今日は、文化祭1日目だ。
◆◆◆
校庭横の(生徒がやっている)屋台でチョコバナナを買って、文化祭のために設置されたベンチで食べる。
「……おいしい」
すごく小さな声で、そう呟く。
楽しくないわけじゃない。非日常が味わえるんだから、楽しくないわけがない。
でも、友達と回りたかったな──というのが、今の正直な気持ち。
一人でいてもつまらないし、文学部の部室に行こうかな。文学部も文化祭に参加しているけど、午後1時までは部室に部員以外が入ってくることはないし。もしかしたら、部長たちがいるかもしれない。
「よっ、連宮」
チョコバナナを食べ終え、刺さっていた串を右手で持って賑わう校内をボーっと眺めていると、急に右隣に座られる。
一瞬『誰っ!?』ってなったけど、声ですぐに分かった。この落ち着く声は──
「月夜野君!」
「お、チョコバナナ食べてたのか。俺も後で買おう──じゃねぇや」
「……?」
月夜野君、自分にツッコミを入れてる。話の内容がよく分からないけど、なんか面白い。
──で、どうかしたのかな。
「なあ、一緒に校内を見て回らねぇか?」
「え、いいの!?」
「もちろんだぜ。一人で退屈だったんだ」
「うん、一緒に回る!」
月夜野君に誘ってもらえた。よかった、友達と校内を見て回れる!
立ち上がり、ベンチの左隣に設置されたごみ箱に串を捨てる。
「あ──」
「ん、どした?」
生徒用玄関の近くに、クラスメートの姿を見つける。
確かあの人、サッカー部所属だったような。
パッと見た限り、数人で行動しているみたい。月夜野君も、あの人たちと回りたかったんじゃ……。
「つ、月夜野君」
「どこから見るか……連宮はどれが気になる?」
文化祭のパンフレットを広げ、やっていることの一覧を見せてくれる月夜野君。……ちゃんと言わなきゃ。
「月夜野君、サッカー部のみんなと見て回った方が」
「連宮と見て回った方が楽しそうだから、お前と一緒に回るよ。……文句あるか?」
「──ううん、ない」
笑顔で、優しく語りかけてくる月夜野君。
きっと、一人でつまらなそうにしていた僕を見つけて、話しかけてくれたのだろう。
「……ありがと」
「気にすんな、俺らはダチだろ? ──よっしゃ、まずは腹ごしらえだ! まだ食えるか?」
「うん!」
上機嫌で焼きそばの屋台へ向かう、月夜野君。
そのあとを、僕もついていく。
◆◆◆
「鉄道研究同好会、面白かったな」
「だねー。模型小さくて、可愛かったね!」
「可愛い……?」
よく分からない様子の月夜野君。あの模型たち、可愛かったと思うんだけどなぁ。
もしかして、男子はああいうのを『かっこいい』って感じるのかな。しまった、そう言うべきだった。
変に思われていないか、少し不安だったけど。
「浪漫はあるよな!」
「ろ、浪漫……?」
月夜野君は月夜野君で、少し不思議な考えを持っていた。
でも、鉄道研究同好会の人と対等に話せていたんだから、そう考えていてもおかしくはないかな。
本当に、月夜野君って面白い。なんて考えながらリズミカルに歩いていると、月夜野君は何かを見つけたようで、少し興奮しながら僕に提案してきた。
「次はあそこに行こうぜ!」
「──……う、うん」
少し出てきた冷や汗をサッと拭って、僕は咄嗟に同意した。──同意してしまった。
ここは2階、2年生のクラスがあり、今日も2年生が色んな出し物をしている。
その中の一つ、『お化け屋敷』と書かれた教室に向かって少し早めに歩く、月夜野君。
仕方ない、覚悟を決めよう。
◆
「うぅ……怖い」
「苦手なら、言ってくれればよかったのに」
「だってぇ……」
楽しげな月夜野君の邪魔は、できないもん。
月夜野君の右腕にしがみついて、一緒に歩く。
黒いビニールシートが窓に隙間なく張ってあるせいで、昼間だというのに教室の中は薄暗い。
少しだけ、少しだけでいいから、陽の光を下さい……!
『ウアアアアア!』
「きゃーっ!」
「おお、よく出来てんなぁ」
何もないと思っていた通路の仕切りから、お化けの人形(等身大)が飛び出してくる。
等身大はダメだって、怖すぎるもん……!
でも、あと少しで『ゴール』って書いてあるドアにたどり着く。
「……あれ?」
お化けの人形や声が、しなくなった。
入口の方向では未だに悲鳴が聞こえるから、そっちに集中してるのかな?
何はともあれ、これでやっと終わりだ。『ゴール』と書かれたドアを開け、月夜野君より先に、その先へ足を踏み出す。ってあれ、ここは何の部屋だろう? ドアとドアに挟まれた、個室のような──
『ウアアアアアアアア!』
「きゃーーーーっ!」
突然聞こえてきた、お化けのかなり大きめの声。
負けないくらいの悲鳴を出してしまって数秒後、気付く。──僕の後ろで、ケラケラと笑う声。
「笑わないでよ、月夜野君!」
「いや、だって……ふはっ、明らかにトラップだったし。悪く思うな……くくっ」
「むぅ……」
お腹を抱えて笑う月夜野君を無視してもう一つのドアを開けると、今度こそ廊下に出られた。ああ、怖かった。
もう、お化け屋敷には入りたくないな……。




