26話 月夜野優斗
「なんなんだよ、あいつ……!」
「ムカつくよな……今から走っていけば間に合うし、ぶっ飛ばしに行こうぜ? どっちが上の存在か、つれみやの野郎に叩き込まねぇと」
「そ、そうだよな! よっしゃ、追いかけるぞ──」
「誰を追いかけるって?」
二人で、不良4人組の前に姿を現す。
曲がり角に隠れて聞いていたが──まさか連宮が、小学校の時、いじめられていたとは。
なんでいじめが起きたのかは知らねぇけど、ああ、無性に腹が立つぜ。
「あぁ? 誰だてめぇら。……もしかして、つ・れ・み・や・くぅんのおともだちですか~? 見逃してやるから、早く逃げた方がいいぜー?」
「おいおい、見逃すつもりなんてないんだろ~?」
「あ、バレた~? ぎゃっはっは!」
──薄汚い奴らだ。連宮に安心してもらうために、早く片付けなければ。
そう考えていると、俺より先に、クラスでは温厚な奴が荒い口調で話し出した。
「悪いが俺たち、相当イラついてるんでね。そっちこそ、早く逃げた方がいいよ」
おお、滅茶苦茶怒ってる。
笑顔なのが怖いが、俺も負けじと不良どもに言い放つ。
「連宮を追うのはやめた方がいいぜ。俺らにぶっ飛ばされたくはないだろう?」
「おい、こいつ何か言ったか?」
「ぶっ飛ばしてください、って聞こえたぜ」
「じゃ、お望み通り──!」
汚らわしい言葉と同時、不良のリーダー格っぽい奴が俺に殴りかかってきた。
「正当防衛」
「おわっ!?」
馬鹿正直に真正面から突っ込んできたので、拳を避けて不良の懐に潜り込み、顎を俺の右手で掴み、そいつの身体全体を持ち上げる。
予想だにしなかったことだからか『ひぃっ』なんて怖がっちゃって、情けない。
滑稽すぎて、怒りは引いてきた。──この感情が消えないうちに、俺の手一本で宙に浮いている不良に、怒りを全て出した声色で伝える。
「連宮に手を出したらどうなるか、これで分かったな?」
「……あ、あぁ……」
かなり強めに掴んでいた顎から手を放すと、不良は地面に落っこちた。その姿もまた、滑稽で笑ってしまいそうになる。
その不良は、落ちてから5秒ほど経ってようやく状況が分かったらしく、立ち上がり、仲間と共に走って俺たちの視界から消えた。
『助けてくれぇー!』なんてかすれた声で言いながら。本当、口ほどにもねぇなあいつら。
「──やれやれ。おいしいところは全部、月夜野君に持ってかれちゃったね」
俺の左隣でそう呟くのは、同じクラスの根原悟。
「いやいや、お前の一言にもあいつらビビってたぜ。ま、一番活躍したのは俺かもしれねぇけどな!」
「ソウダネ、カッコヨカッタネー」
目をそらしながら、思いっきり棒読みになる根原。
「ツッコミを入れてくれないと、ただのナルシストになっちゃうんだけど!?」
「え、違うの?」
「違うよ!?」
あれ、いつの間にか俺、いじられキャラになってる?
いやいや、そんなまさか。
「よし、俺たちも帰ろうか」
「お、おう! ……ところであの、俺はナルシストじゃなくてですね?」
低姿勢で、根原の誤解を解こうと試みる。
「え、違うの?」
「数秒前に訂正したよね!?」
──つーわけで。
連宮の重そうな過去を知ったり、根原と共に不良どもを撃退(?)したり──夏休み明け2日目は俺にとって、特別な日となったのだった。
◆◆◆
翌日、水曜日。
「おはよう、連宮君」
「よーっす、連宮」
校門前で偶然会ったので、そのまま根原と教室まで来た。
さて、連宮の様子は──
「おはよう、二人とも!」
──心配いらないみたいだな。
いつもの明るい笑顔で、あいさつを返してくれた。
◆◆◆
昼休み。いつも購買でパンを買っている俺は、今日も今日とて購買に。
1年から3年までの教室や職員室が入っている新しい校舎には購買はないので、わざわざ古い校舎まで行かないといけない。ゆっくり歩いても片道5分くらいだから、そんなに気にすることじゃねぇけど。でも少し面倒くさい。
購買へ向かう、その道中。
「お、連宮!」
「月夜野君?」
水色の小さな財布を両手で大事そうに持ち、少し緊張気味に歩いている連宮、発見。
度々思うが、こいつの仕草、いちいち可愛いんだよな。
もちろん、変な意味ではなくて。何というか──『女子っぽい』のかな。
──つーか、その、なんだ。
「なんでお前、そんなに緊張してんだ?」
「……購買に行くの、初めてで」
「それだけの理由で……?」
なんでまた、そんな理由で。
そう思って連宮を見ていると、気付いたのか、連宮は少し早口で話し出した。
「だって、購買だよ!? きっと先輩たちでひしめき合ってて、僕みたいにそんなに背が高くないやつなんて、押しつぶされちゃうんだから!」
「……それ、なにで知ったんだ?」
「昨日やってたアニメ! 寝れなくてテレビを点けたら、ちょうどその場面で」
「ああ、なるほど……」
そのアニメなら、俺も見た。夏から放送がスタートした、よくある学園恋愛ものだ。
原作のゲームが面白いらしく、放送前も放送後も変わらず高評価……というのを知り、興味本位で見始めたらハマった。
とにかくキャラが全員良い子で──って、そんなことはどうでもいい。
「それはアニメの中だけの話だから。実際はそんな危なっかしくはないよ」
「本当……? あ、あそこだよね!」
購買が見えてきた──のだが。
「──月夜野君の嘘つき」
「……ぐ、偶然だって」
購買周辺は、先輩たちでひしめき合ってた。
あの中に飛び込めと──?
◆
「ありがとね、買ってきてくれて」
「……い、いや、気にしなくて、いい、から」
息も絶え絶えな、サッカー部所属(のはず)の俺。
情けない? 馬鹿を言うな。──サッカー部の先輩たちに見つからないように前へと行くの、マジで大変だったんだから。
なんとかやり遂げて、今は教室へと戻っているところだ。
「はい、パンの代金」
「確かに受け取ったよ。……にしてもお前、それだけで足りるのか? 背、伸びないぞ?」
連宮に頼まれて買ったけど、パン2個だけって。
「うーん、身長はいらないし、いいかな!」
「──……そっか。ま、いいけどさ」
──今まで覚えていた違和感の正体、分かったかもしれない。
俺の横を歩く連宮は──『俺とは違う』。
正確に言えば『俺らとは違う』。──多分、当たっているだろう。
一応、訊いておくか。
「連宮って、もしかして──」
……いや、やめとこう。
もし本当に『そう』だとしたら、こんなことを訊かれるのはきっと、嫌だろうし。
『美月』がそうだったように、きっと。
「ん、なに?」
「いや、……駅前に新しくできたデパート、もう行ったのかな、って」
「ううん、まだ行ってないよ」
『高波さんは行ったみたいだけど』と付け加えられる。
そうなると高波はこいつの内面、知って──いや、考えなくていいだろう。そもそも、気のせいかもしれないんだし。
「じゃあさ、明日の午後、そこの楽器屋に行ってみないか? ちょうどピック切らしてたからさ」
明日は午前中が夏休み明けテストで、午後は部活なし。つまり暇なのだ。
ほとんどの部活が休みになる日。文化部は全て休みのはずだから、連宮の入っている文学部も休みだろう。
「うん、行ってみる! 月夜野君、ギターやってるんだね」
「ああ。まだ1年くらいしかやってねぇけどな」
部活が終わり、帰宅して少しやる程度だから、あまり上手くはねぇけど。
「ギターやってる人同士、根原君とも話が合うかもね」
「根原もギターやってるのか!?」
なんて会話を数分ほどして、教室に着いた。
──連宮奏太。
こいつならきっと、美月と仲良くしてくれるかもしれない。
美月への、いい土産話ができた。




