25話 進むために
「よっ、連宮」
「連宮君、おはよう」
「……う、うん、おはよう」
今の自分にできる精一杯の笑顔で、根原君と月夜野君にあいさつを返す。
今の時刻、午前8時。場所は、学校。
──結局、僕は学校に来ることにした。
通学路であいつに待ち伏せされていないか不安だったけど、そういうことは一切なかった。
(……大丈夫かな)
根原君はいつも通りの笑顔で僕にあいさつしてくれた。
だから多分大丈夫だとは思うけど、僕が来る前に月夜野君と話していたみたいだし、気になる。
僕が泣いちゃったことを知ったら、根原君は僕のことを嫌いになるかもしれない。
月夜野君だって、内心僕のことをどう思っているのか。
「おはよう、連宮君」
「っ……おはよう、三上さん」
後ろから声をかけてきたのは、三上さん。
三上さんにも『道端で泣いた』なんてこと、知られたら、きっと──
「どうしたの、連宮君?」
「え、な、何が?」
「いや、いつもと雰囲気違う気が」
「ち、違わないよ。いつも通りだよ」
ギリギリの心を隠して、笑顔で答える。
「そう? ……ま、いいや。そうだ、今日からまた部活始まるでしょ? 今度は何をやるのかなー、楽しみだね!」
「そ、そうだね、楽しみだね」
なんとか答えを返して、僕は『トイレに行ってくるね』と嘘を吐き、早歩きで教室から出た。
◆◆◆
「よし、今日はこれまで。お疲れ様、二人とも」
「お疲れさまでしたー!」
「……お疲れさまでした」
部活が終わり、部室の外が暗くなり始めた。
急いで帰らないと。
「連宮君、一緒に帰──」
「よ……用事があるから、先に帰るね!」
「え、う、うん……」
誘ってくれた三上さんには悪いけど、もし昨日みたいにあいつが帰り道にいたら──三上さんにまで迷惑が掛かってしまう。それは絶対に避けなければ。
部室を出て、生徒用玄関で急いで靴を履き、外に飛び出る。
早く、早く帰らないと──
「お、連宮! 今帰りか──」
「ま、また明日!」
「──……あ、ああ」
部活終わりらしい月夜野君の横を走り抜けて、僕は家へと急いだ。
◆
「連宮君、どうしたのかな……」
今日の連宮君、どこか変だった。
いつもみたいに自分たちと話していたけど、連宮君から話題を振ってはこなかった。
まるで、自分たちを避けているかのように。気のせいならいいんだけど……。
「あ、三上!」
「月夜野君……? ……なんで校門の外に寄りかかってたの?」
「お前を待ってたんだ」
「……え?」
……まさか告白? いや、正直困るんだけど。
まだ恋愛とか分からないし、そもそも自分男だし。男の人同士の恋愛が嫌ってわけじゃないけど、向こうが自分のことを女だと思っているのが、なんかなぁ。
「──おかしな想像してないか?」
「当たってほしくない予想ならしてるけど」
「じゃあ安心しろ、その予想は外れてるから。──連宮のことだ」
「連宮君? もう帰ったと思うけど……連宮君の様子がおかしかった理由、知ってたりするの?」
軽い気持ちで訊いたのだけど、帰ってきた言葉にはかなり、真剣みが含まれていた。
「連宮の奴、昨日──泣いたんだ」
◆
「連宮君!」
「み、三上さん?」
駅を少し過ぎたところで、後ろから三上さんに声をかけられた。
息を切らしている。僕を追いかけて走ってきたのかな。でも一体、なんで──
「昨日、泣いたって聞いた。何があった」
「……っ!」
なんで三上さんが、昨日のことを──。
まさか、月夜野君から聞いたのかな。一体、何を言ったんだろう……。
「ねぇ、それ、誰から聞い──」
「そんなこと、どうだっていいだろ!」
「ひっ……」
三上さん、なぜか怒ってる。え、本当になんで?
「何かあったんだろ、嫌なことが。なのになんで──なんで相談してくれなかったの!? 自分たちは友達でしょ? そう思ってたのは自分だけだったの!?」
「ち、違う……! 友達だから、迷惑かけちゃったら」
「離れられる、って思ったの?」
「……」
思った。
離れられるって、思った。
「……あのね、連宮君?」
怒りのこもった声から一転、三上さんは優しく、僕に語りかけてくる。
「何があっても、自分たちは友達だ。自分が連宮君のこと、嫌いになるわけないだろ?」
「……っ、三上、さん……」
「大丈夫、ずっと連宮君の味方だから。だから、安心して」
「うん……!」
泣きそうになった顔を見せたくなくて、必死に堪えて。
だけど、僕はまた──泣いてしまった。
昨日とは違う、暖かな気持ちで。
◆
結局、三上さんには昨日のことは話さなかった。
聞いたらきっと三上さんは、一緒に僕の家まで来てくれただろう。
でも、それはダメ。
これは、僕が解決しなくちゃいけないことなんだ。
「あれ~、またここを通ったんだねぇ、つ・れ・み・や・くぅん?」
「……っ」
昨日と同じベンチに、足を組んで座っている、僕の『元』同級生。──『たち』。
同級生4人組が、僕を見てにやついている。
きっと、いい『遊び道具』が手に入ったと思っているんだろう。
こんな奴らに、僕の小学校生活を滅茶苦茶にされたのか。
──あ、なんかムカついてきた。
「つれみやくぅん、君の家、教えてよ~毎日行ってあげるからさぁ~」
「前みたいに、物を隠してお前が探す遊び、しようぜぇ?」
「なぁ、つれみや~……おいてめぇ、俺らの話、聞いてんの?」
ムカついた影響かな、逆にどんどん冷静に、目の前の4人組の顔を見れてきた。
こんな奴らに、こんな奴らに──。
「おい、聞いてんのか──」
「僕、は」
「あん? あれぇ、もしかしてまだ『ぼく』とか言ってんの~? うわ、キモくね~?」
「キモいー! キモすぎー!」
ぎゃっはっは、と下品な笑い声を夕方の住宅街に響かせる4人組。
僕も負けじと、はっきりと伝える。
「──僕はもう、お前たちなんかに屈しないから」
「えっ……」
あはは、4人ともすごく情けない顔してる。飼い犬に逃げられた飼い主みたいな、そんな表情。
「じゃ、僕はもう行くから。──僕の前に、二度と姿を見せるなよ」
呆然とする4人を残し、僕は意気揚々と家へと走っていった。




