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夢見少年物語  作者: イノタックス
4章 夏休み

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22話 夏休みの文学部

「さて、今日が締め切りだけど、小説は完成したかい?」

「はい!」

「なんとか完成しました!」


安喰先輩の問いに、僕、三上さんの順で答える。

今日は夏休み中盤の火曜日、その午前10時。文学部活動日。

今日が自作小説の締め切り日。僕たち1年生だけじゃなく、部長と安喰先輩も今日が締め切りだったらしいけど、随分前に完成させていたらしい。さすが先輩。


「じゃあ、読ませてもらうね。俺は最初は……連宮君のを読みますね」

「あたしは三上さんのを読ませてもらうわよー。厳しい目でチェックさせてもらうわね!」

「お、お願いします!」


部長の一言で、三上さんは一気に緊張したみたい。顔がこわばってる。

──もちろん、僕が書いた小説も、部長は読むんだよね。ああ、なんかこっちも緊張してきた。


「何言ってるんですか部長、どんな作品でも半分は絶賛するくせに」

「う、うるさい! 今日こそは小説の欠点をたくさん見つけてやるわよ~!」

「それはそれでどうなんですかね……」


部長は張り切って三上さんのを読み始め、それに呆れつつ安喰先輩も僕が書いた小説を読み始めた。



「……うん」


──と、部長。

今は僕の小説を読んでいる。


「……ふむ」


──と、安喰先輩。

今は三上さんの小説を読んでいる。


二人とも椅子に座り、机に読み終えた原稿用紙を黙々と置いていく。

とても静かで、厳かさすら感じさせる、そんな空間。

なんというか──すごく、ドキドキする。


最初は『日記を見られる恥ずかしさ』みたいなものがあったけど、二人が真剣に僕たちの小説を読んでいる姿を見て、そんな感情は消え去っていた。

一文字一文字、とても大事に読んでくれている──そんな印象。

僕も三上さんも、手が痛くなるくらい──具体的には原稿用紙50枚くらい書いた。だから読む方も大変だろうに、それを一切顔に出さないあたり、先輩たちは本当に小説が好きなんだろうな、と思う。

──なんてことを考えながらボーっと眺めていると、安喰先輩の声が聞こえてきた。


「うん、中々いいんじゃないかい?」

「ほ、本当ですか!?」


三上さん、すごく安心している。


「安喰君と同意見。初めて書いたにしては、結構読みやすかったし。誤字脱字も少なかったわ。二つとも、内容良かったし」

「ありがとうございます、部長」


──うん、褒められるのって、やっぱり嬉しい。


「とはいえ一応、訂正もさせてもらうよ。書いている自分では分からないことも、他の人が読むと出てくるものだからね」

「は、はい!」


安喰先輩の言葉で急に緊張して、声が裏返ってしまった。

うぅ、ドキドキする。


「まずは連宮君の作品から。全体的には読みやすかったよ。だけど、展開が少し遅くて、読みにくい箇所もあった。『別の種族が恋に落ちる』っていうテーマだからなんだろうけど、種族についての説明が長かったからね。読むときのテンポも考えると、もっといい作品になると思うよ」

「あたしもそこ気になったー。けどあたしがもっと気になったのは、『口調』ね」

「口調、ですか?」


口調──悩んだ末に、ちょっとオーバーな感じにしたところ、ダメだったかな。


「逆よ、逆。主人公とヒロインはどっちも『普通』な存在だから、そこはいいの。問題はその他の人。よく読めば分かるけど、パッと読んだだけじゃ分からないくらいには結構、全員モブ化しちゃってるわ。これは『小説』──作り物なんだから、遠慮せずに派手な口調を使っちゃいなさい。そうすればきっと、もっといい作品になると思うわよ!」

「は、はい! 分かりました!」


──凄い。

僕が悩んでいた『口調』についての解決法、執筆初心者の僕にも分かりやすいように、具体的に出してくれた。

よし、部長と安喰先輩の意見を取り入れて、もっといい作品にしよう。


「次は三上さんの小説だね。話の進み方や、キャラの差別化はすごく上手くいっていたね。『口調』を上手く使ったというよりは、会話の前後の文章で分かりやすくしていた感じ。だけどその反面、背景描写があまり上手にはできていなかったかな」

「な、なるほど……!」


目から鱗な三上さん。

書いているときに少しだけ、三上さんの小説も読ませてもらったけど……正直全然、気にならなかった。

僕も背景描写、気をつけなくちゃ。


「安喰君の言うとおりね。背景描写がないと、簡単なことだけど──今、主人公がどこにいるのか、ヒロインはどこから登場してきたのか、今は何時ごろで、明るいのか暗いのか──『作者なら当たり前に分かること』が読み手には伝わらない、ってことに繋がっちゃうから、気を付けてね」

「はい、ありがとうございます!」


『作者には当たり前に分かること』、僕もあまり書いていなかったかも。

色々気を付けて、もっといい小説にしなくちゃ。


「訂正する点はこれくらいかな。部長、他に何かありますか?」

「ううん、今日はこのくらいね。二人とも、さっき言ったこと、ちゃんと覚えておくのよ。そうすればきっと、私のような小説が書けるように──」

「部長、連宮君も三上さんも、そこまでは望んでいないと思いますよ」


まあ、部長みたいな作品が書けるのは、部長だけだろうし。


「少年よ、大志を抱かずして何を抱くというのだね!」

「そういう意味ではなく、部長の小説の書き方は難しすぎて、という意味ですよ」

「そっちなの!?」

「分かっていなかったんですか!?」


とても自然に、ボケとツッコミが繰り広げられる。

部長はボケているつもりはないのだろうけど。


「では、僕たちはこれで……」

「自分も、失礼しますー!」

「ああ、お二人さん、また明後日!」


明日は水曜日で文学部は休みだから、『また明後日』。


「また明後日ね! ──で、あたしの作品をどう思っているのか、聞かせてくれるかしら、安喰君」

「ちょ、怖いんですけど!?」


口喧嘩に発展しそうだったので、僕たちは素早く部室を出て、生徒用玄関へと向かった。


◆◆◆


「さて、安喰君」

「なんですかぁ、もう謝ったじゃないですかぁ」

「いや、その話題はもう飽きたから、今は違う話題よ」

「飽きるスピード、速すぎやしませんかね」


呆れつつの笑顔で、あたしの目を見る安喰君。

──ふふっ、やはり可愛いな、こいつ。


「どうしたんですか、急に笑顔になって」

「なんでもないよ。安喰君、──二人の小説を読んでみて、どう思った?」

「面白かった、みたいな感想を言えばいいんですか?」

「思ったままに、言ってくれればいいよ」


目を瞑り少し悩んで数秒。

答えを見つけたように、瞼をすぅっと持ち上げ、安喰君は話す。


「独特な感性を持っているのかな、と思いました」

「二人とも?」

「はい。連宮君は男性にはない感性を、三上さんは女性にはない感性を、それぞれ持っているな、と」

「──なるほどね」


確かに以前安喰君は、『男性の書く小説と、女性の書く小説って、やっぱり違いますね』なんてことを口にしていた。

僅かな違いが分かるあたり、この子にも執筆の能力がしっかりあるようだ、なんて思ったのを憶えている。

まさか、それがここで役に立つとは。


「あの二人なら、すごい小説を書けるはずです! 今よりももっと、すごいものを!」

「──ああ、やはりそこまでか」

「はい?」

「いや、なんでもない」


──そこまで。

安喰君はやはり、あの二人が『逆』であることを見抜くまでの目は持っていないらしい。

普通の人間は持っていないのだろうけど。


「さて、あたしたちも帰る準備をしようか。──そうだ、帰りに本屋に寄って行かないか?」

「本屋ですか? いいですけど、また唐突ですね」


──影響されたんだよ、と前置きをして。


「あの二人には負けられない。あたしたちももっと素晴らしい話を生み出さなければ!」

「ははっ、部長らしいですね。──ええ、情報収集、俺も付き合いますよ!」

「そう言ってくれると思ったよ! よし、今日は大量に本を買うぞー!」

「俺も買いますよー!」


叫びながら、あたしたちは文学部部室を後にした。


先輩として、あの二人よりもすごいものを書かなければ。

そう心に誓った、夏休み中盤の火曜日であった。

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