21話 僕の場合は
「ねえ佳奈美」
「ん、なに?」
ショッピングセンターからの帰り、高波さんのお父さんが運転する車にて。
高波さんのお母さんが、何かを思い出したように、助手席から後ろを振り向き高波さんに話しかけた。
「あの話、三上さんにしたの?」
「もちろん! ……あ、つれみーにはしてなかったね」
「へ?」
『あの話』──何のことだろう?
「夏休みのどこかで、4人で遊ぼうと思って!」
「4人──ってことは、あと一人は」
「もちろん、ねはらっちだよ!」
ああ、やっぱり。
根原君もいてくれた方が楽しいから、よかった。
「私の家で遊ぼうと思うんだけど、どう?」
「……うん、いいと思うよ!」
高波さんの家、か。
僕の事情を知っている三上さんの家の方がよかったけど、仕方ないかな。
「佳奈美、根原君は連宮君たちのことを知っているのかい?」
「うん、心配いらないよ」
「そうか、それならよかった」
──やっぱり、これって。
気になるから、小声で訊いてみる。
「ねえ、高波さん」
「なに?」
「高波さんのお父さんとお母さんって、僕や三上さんの内面のこと、知ってるの?」
「うん、だから心配しないでうちに遊びに来てね」
高波さんも、小声で返してくれた。
「大事な友達のことだから、話しておきたかったの。勝手に話したこと、怒ってる?」
「まさか。そう思っててくれて、嬉しいよ」
少し照れ気味に、そう返した。
「なあ佳奈美、連宮君の家ってここを曲がればいいんだっけ?」
「そうだよー。つれみー、後で空いてる日を教えてね!」
「うん、部長に確認してみる。……今日はありがとね、高波さん」
「気にしないでよ。友達でしょ?」
そんなことを、すんなりと言う高波さん。
やっぱり、高波さんは凄い。
改めて、そう思った。
◆◆◆
夕飯を食べ終え、お風呂にも入り終えた、午後11時。
僕は自分の部屋のベッドに腰かけて、買ってきたCDをイヤホンで聴きながら、少し考え事をしていた。
「高波家は、理解してくれているみたい。三上さんの両親も、理解するための努力はしている」
昼間のことを、思い出しながら。
「……じゃあ、僕の場合は?」
僕の両親は、僕のような──性別で悩んでいる人のことを、知っているのだろうか。
一応、差別的な発言をしていたことはない、と思う。
だけど。
「高波さんや根原君は、例外だろうし」
小学校で僕の秘密を知った人は『例外なく』僕のことをいじめてきた。
先生も、僕を庇おうとはしなかった。
男子には笑われ、女子には気持ち悪がられ、担任の先生には煙たがられていた。
そんなものなのだと思っていた矢先に、三上さんたちが現れたのだ。
「……あまり考えすぎてもいけないかな」
イヤホンを外し、電気を消して、ベッドに寝転ぶ。
「部活は……明後日からか」
明日も休み。
明日は何をしよう。
そう思いながら、僕は目を閉じた。




