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夢見少年物語  作者: イノタックス
1章 春の出会い
2/81

2話 根原悟

『奏太ぁ、起きてるー?』


──朝。


『ご飯出来たよー!』

「はーい」


そこそこ最悪な朝。


とりあえず、起きよう。


◆◆◆


『君、もしかして……』


昨日は結局、そこまでの言葉で怖くなって、走って家まで帰ってきた。

逃げてきた、と言った方が近いかもしれない。

根原君──あの人のことは、どうも好きになれなさそう。


「奏太、友達できた?」


食卓で、一緒に朝ごはんを食べているお母さんに訊かれる。

お父さんは仕事、妹の真菜は中学の部活、にそれぞれ行っている。


「うん、みんな面白くて、楽しいんだよ」


お母さんの問いをお得意の嘘であしらって、また彼のことを思い出す。


(なんで僕の嘘、ばれたんだろ……)


今まで誰にもばれたことのない、僕を守る嘘。

いつから嘘を吐き始めたかなんて、憶えていない。

多分、ずっと小さいころから、僕と一緒にいたんだ。


(学校、どうしよう……)


今日と明日は休日だけど、明後日は月曜日、当然学校はある。

まあ、行くという選択肢しかないんだけど。


「ごちそうさま」


食器を流しに置いて、2階の僕の部屋へと向かう。

月曜日は──彼がいないことを願いつつ、向かおう。


◆◆◆


「……ん?」


午前11時50分、配布された『自己紹介カード』を記入し終え、お腹が空いていることに気が付いたので、1階でお昼ご飯にしようと思い、部屋から出たのだけど。


『~~~~、~~~~』


1階、おそらく玄関の方から、話し声が聞こえる。

面倒だから、行かないほうがいいかな……と気楽に考えて、聞き耳を立てる。

母さんと──誰だろう、男の人の声。セールスとかかな。


『ええ、連宮君の友達になりました、根原悟といいます』


──よし、1階に降りて家から追い出そう。

僕の精神的休息に必要なことだ。



「あ、奏太、お友達が来てくれたわよ」

「連宮君!おはよう、昨日ぶりだね」

「……あの、……うん」


水色のポロシャツにカーキ色のチノパンという、すごく爽やかな服装の──来てほしくない人が来ていた。

なんで根原君、こんなにテンション高いのだろう。


「上がってもらってもいい?」

「ああいえ、大丈夫で」

「大丈夫だよお母さん、根原君と出かけてくるから」


お母さんの前で根原君を家から追い出すのは、色々と面倒くさくなりそうだったので、『出かける』と嘘を吐くことにした。

根原君はと言うと、昨日と同じ、カラっとした笑顔で僕を見てくる。


「準備してくるから、外で待っててくれる? ……外で、待っててね」

「了解!それじゃあ、お邪魔しました!」

「いえいえ、何のお構いもできなくてすみませんねぇ。元気でいいわねぇ」


根原君が家から出て行ったのを確認してから、2階へ上がる。

適当な用事で、途中で根原君と別れて、コンビニでも寄ってくるかな。


◆◆◆


「おまたせ、根原君」

「お、連宮君!」


根原君は、玄関前の駐車場で待っていた。

相も変わらず、僕には眩しすぎる笑顔。

一体何を考えているのだろう。


「それじゃあ連宮君、出発しよっか」

「へ?」


出発って、え、どういうこと?


「君が言ったんじゃないか、『根原君と出かけてくる』って」

「そ、それはそうだけど……」


迂闊なことを言うべきじゃないな、と猛反省。


「でも、出かけるって……どこに」

「駅まで歩いて、適当にどこかの店で買い物、の予定」


『出かける』なんて嘘を言った手前、断ることはできないんだろうけど……それにしても大雑把すぎないかな、そのスケジュールは。


「それじゃあ早速向かおう!」

「う、うん……」


まあ、行くしかないよね。

──気が重くなってきた。


◆◆◆


僕の家から駅まで、歩きで向かっている最中。

疑問に思っていたことを根原君に訊いておく。


「なんで僕の家の場所、分かったの?」


昨日は走って帰ったから、根原君は僕の家の場所、知らないはずなのに。


「簡単な話だよ。君の家は『駅から少し歩いたところ』だってことが、昨日の話で分かったからね。駅から徒歩15分以内で着く範囲の家の表札を、チェックしていっただけさ」

「──……え?」


この人今、とんでもないことをさらっと言ったような。

とても信じたくないような、行動力。


「なんてね、冗談だよ。本当は昨日、君の後を追っていったのさ」

「……昨日は僕、走って帰ったはずなんだけど」

「自己紹介の時に言ったんだけど、俺、ランニングが趣味なんだよ」


うわぁ。もっと信じたくない文章が、根原君の口から発せられた。


「でも、なんで僕の後を──」

「お、ゲーセン見えてきたよ!」


──はぐらかされた、のかな。



ゲームセンターの入り口にて。

根原君は先に自動ドアから、中に入ってしまった。

大音量のゲーム音が、これでもかと僕の耳を攻撃してくる。


「どうしたの、入らないの?」


僕が入らないのを不思議に思ったのか、ゲームセンターの中から出てきて、そう訊いてくる根原君。


「あの、……大きい音が苦手で」


僕は、ゲームセンターというものが苦手だったりする。

ゲーム自体は人並みに好きなんだけど、ゲームセンターの、いくつものゲームが奏でる地獄のような音は、何回聞いても堪えられない。

音楽を大きめの音で聴くのは好きだから、『大きい音が苦手』というのは、まあ、嘘だけど。


「……ゲーセン、そんなに好きじゃなかったりする?」


そんな些細な嘘さえも、早々に見破られたようです。泣きたい。

この人には、嘘が通じないのかな。


「えっと……その、苦手、かな」

「そうだったの? それじゃあ、駅前でもぶらついてみよっか」


そう言って根原君は、駅前へと歩き出した。

──正直、ここで根原君とはお別れといきたいんだけど、そうはいかないんだろうな。ホント、泣きたい。


◆◆◆


「あー、楽しかった!」

「そ、そう……?」


そこまで爽やかに『楽しかった』と言うほどのことは、していないと思う。


あの後、根原君の希望で駅前の小物屋に寄って、根原君はお箸を数膳、僕はネコのキーホルダーを購入した。

なんでお箸を買ったのか訊いてみたのだけど、『ピンと来たから!』というよく分からない答えだった。不思議な人だ。

今は、買い物を終え、帰っている最中。

途中までは同じ道らしく、僕の横では根原君が笑顔で歩いている。


「──あのさ、昨日のことなんだけど……」

「え?」


唐突に、根原君が話し始めた。

って、まさか昨日のことって──。


「ごめんね、嫌な思いさせちゃったかな」

「──少し」


本当は、そこそこ。


「──連宮君は、優しいんだね」

「優しい?」

「うん、すごく。だって俺、昨日、すごく失礼なことを言ったんだよ?」


あ、自覚はあったんだ。なんか安心。


「気になった人には勢いだけで踏み込んで行っちゃう性格だから、あとから反省したりするんだ……。連宮君の場合は、特に気になった。自己紹介の時に、『なんで嘘を吐き続けてるんだろ』って」


やっぱり根原君、嘘を見破れるのかな。


「根原君は、嘘は嫌い?」

「場合による。連宮君の嘘は──嫌いじゃない。『守っている嘘』だから」

「……そんなことまで分かるんだね」


凄いなぁ、根原君。

でも、その性格じゃ、きっと──。


「根原君、ちょっと──ううん、かなり失礼なことを訊いてもいい?」

「ん? 大丈夫だよ。正直なのは嫌いじゃない」


──ここまで『正直』にこだわる理由も聞きたいけど、それよりも。


「根原君、友達少ないんじゃない?」


嫌味じゃなく、本心から気になったので、訊いておく。

普通の人だったら怒るような質問。どんな反応が返ってくるだろう。


「よく分かったね! うん、いないよ」


感心された。本当に、不思議な人だ──って、え、『いない』?


「い、いない、って、どういう……」

「そのままの意味だよ。俺の性格のおかげで、友達はいないんだよ」

「そ、そう……なんだ」


──なんと返すのが正解なのか、僕にはとても分からなかった。

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