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夢見少年物語  作者: イノタックス
4章 夏休み

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19/81

19話 ショッピングセンターへ

初めて友だちができた4月、根原君に僕の秘密を話した5月が終わり、6月に入ると──だいぶ落ち着いてきた。

高校の授業にもだいぶ慣れたし、部活も毎回出られている。

去年までの僕では、全く考えられなかったことだ。


時々ある抜き打ちテストや体育の授業は大変だったけど、抜き打ちテストは結果が返ってくるのが楽しみだったし、体育は根原君がペアになってくれたから、ほとんど苦痛に感じずに授業に出られた。


そんな6月も過ぎ、季節は夏へと変わる。

夏といえば、そう、夏休み。


今日は、その初日だ。


◆◆◆


7月中盤の土曜日、夏休み初日。文学部は休み。


僕の家から10分ほど歩き、駅に到着。

そこのバス乗り場で、目的地のバスを探す。


「えっと……あ、あれだ」


バス停の看板に、郊外のショッピングセンターの名前が書かれているのを見つけ、そこまで行って並ぶ。

すでに何人か並んでいた。休日だし、夏休み初日だから、ショッピングセンターも混んでいるかも。


少し待ち、バス停に来たバスに乗る。

時刻は午前10時。ショッピングセンターで買い物をするついでに、お昼ごはんも食べてくる予定だ。


◆◆◆


バスに乗ったのは十数人だったので、僕も席に座ることができた。

しかも、バスの右側の、前向きの席。

車酔いするほうじゃないから横向きでもいいのだけど、やっぱり前向きの席のほうが好きだ。


バスに揺られながら、右側の窓をボヤーッと眺めていると、見覚えのある看板が目に入った。

明るいピンク色の看板に、黒で文字が書かれている。

──僕が通っていた、保育園の看板だ。

いつもなら目を逸らすのだけど、今日は──保育園の建物まで、見つめていた。


◆◆


あの場所には、卒園してから1回も行っていない。

いじめられたから、みたいな理由はないのだけど、嫌な思いで通っていたからだ。

絶対に他の人にいじめられないように、僕は小さい頃から『秘密』を言わずに来たのだ。

小学校の時に先生に言ってしまったのは、そんな保育園の生活が辛かったから、というのが一番の理由だ。


薄いピンク色の外壁や、窓の場所、園庭に植えられている木も、あの頃のままだ。

門のそばに置かれた、この時期に使っている組み立て式のプールの色だって、記憶通り。

通っていた記憶はきちんとあるのに、楽しかった記憶は一つもない。

あの頃から僕は、家の自室だけがくつろげる空間だったのだ。


そうだ、噂では、僕と同じタイミングで卒園した、同学年の人たちは同窓会を開いたらしい。

──そう、『噂』では。

別に、呼ばれたところで行かないのだけど……招待状も届けないのはさすがに薄情じゃないかな、と思ったりもする。

あの頃は、なるべく他の人と仲良くしようとしていたのに。

……仲良くできていなかったのかな?


まあ、なんでもいい。

小さい頃のあの日々は、ただの『過去』だ。

それも、振り返る必要のない類の。


──いつかちゃんと、向き合わなくちゃいけないのだろうか。


ま、その時までは考えなくていいよね。


◆◆


保育園を通り過ぎて30分ほどで、ショッピングセンターへ到着。

バスを降りると、気持ちのいい風が全身を包み込んだ。

山からそう遠くない位置だから、空気がきれいなのかな。


バス停から少し歩き、東側の自動ドアから中に入る。

入ってすぐの自販機の横にある、店内地図で目的のお店の場所を確認する。

建物は広いし、頻繁に来るわけではないから、どのお店がどこにあるのかが未だによく分からない。


エスカレーターで3階に上がった、楽器屋の横にあることが分かったので、出発する。


◆◆◆


(……どれだ?)


目的地、CDショップに到着。

早速邦楽コーナーに行き、最近知って好きになったアーティストのCDを探す。


(あ、あった……!)


か行の真ん中あたりに、最新アルバムが並べられていた。

最新といっても、3,4ヶ月くらい前に発売されたものだから、あるか不安だったのだ。


(……どうしよう)


予想以上に早く見つけることができたから、まだ時間がたっぷりある。

店内を色々と見てみよう、他にも好きなアーティストのCDがあるかもしれないし。



CDショップで買い物を済まして、お店の外の通路に置かれたベンチで、少し休憩。


(買っちゃった……)


あの後、お店の中を見て回っていると、好きな洋楽アーティストの最新アルバムを発見した。

つい先日発売されて、そこそこ気になっていたから、それも買ってしまった。

CDにお金をかけるのはいいと思うから、後悔はしていない。


(11時10分、か)


スマホで時間を確認して、荷物を持ち、立ち上がる。

──と。


「つれみー?」

「え?」


後ろから、誰かに声をかけられた。

──『つれみー』って呼ばれたよね、今。


「やっぱりつれみーだ!」

「高波さん! 高波さんも来てたんだね」

「うん! そこの楽器屋で買い物してたんだ!」

「ああ、なるほど」


CDショップの横の楽器屋にいたんだ、全然気が付かなかった……。


「つれみーも買い物?」

「うん、CDを買ってたんだよ」

「ってことは、隣のお店にいたんだね! すごい偶然!」

「あはは、そうだね」


高波さん、すごく嬉しそう。

全く予期せぬところで友達と会えたから、嬉しいのだろう。

僕は最近まで、そういう経験は全く無かったけど。

友達いなかったから、仕方ないと思う。


「つれみーは1人で来たの?」

「うん。高波さんは?」


あ、もしかして、三上さんもいるのかな。

今日は文学部は休みなんだし、一緒に来ていてもおかしくはない。


「私は家族と来たんだ~」

「……え、そうなんだ」

「ああ、家族っていっても、お姉ちゃんは大学に行ってるから、両親だけ、だけどね」

「な、なるほど……」


──どうしよう。

高波さんは僕のことを理解してくれているけど、その両親も高波さんと同じように理解しているかは、全く分からない。というか理解していないだろう。

正直、会いたくはないのだけど──。


「佳奈美、お友達かい?」

「うん、つれみーだよ、前に話したでしょ?」

「ほう、この子が……」


──高波さんのお父さん、すぐに現れた。

その横には、高波さんのお母さんもいる。

仕方ない、逃げるのは諦めよう。


「こんにちは、連宮君。……でいいのかしら?」


──はい、連宮奏太です。

そんな風に、普通に返そうとしたのだけど。


「大丈夫だよ、みかみんたちはそう呼んでる」

「そうだったわね。よろしくね、連宮君」

「……?」


高波さんの言葉、お母さんの問いに対して、若干ズレていたような。

もしかして、名前じゃなくて『呼び方』を訊かれたのかな。

……なんで?


「こちらこそ、よろしくお願いします」


よく分からないまま、そう言葉を返した。

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