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夢見少年物語  作者: イノタックス
3章 根原家の事情

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17話 説得

ゴールデンウィーク3日め、午前10時。


「失礼します」


ノックの後、女性の返事を確認し、512号室に入る。


「こんにちは、根原君のお母さん」

「あら、あなたは昨日の……」


中に入り、ドアを閉める。


「自己紹介がまだでしたね」


背筋を伸ばし、根原君のお母さんの目をしっかりと見て。



「高波佳奈美です。今日はお話があってきました」




「……それはあなた個人の意見に過ぎないわ」

「重々承知の上です。根原君がどう思っているかなんて、所詮私には分からないことですから」


根原君が寝ている横で、話は進む。

それにしても根原君、よく寝てるなぁ。それほど体力が弱まっているのだろうか。


「『学校に行かせてやって』なんて言われてもねぇ」

「根原君もきっと、行きたがっているはずです」


高校での彼の言動から、それらを察するのは容易いことだ。


「あら、悟がどう思っているのかは、あなたには分からないんじゃなかったの?」

「ええ、だからこれは、あくまで私が彼の言動から察した、憶測のようなものです。……でも、ですよ」

「『でも』何かしら」


根原君のお母さん、全く理解できていないのだろうか。──子供のことなのに。


「根原君のお母さん、あなたがご自分の息子のことを理解している『と思っている』ように、私も彼のことを、少しですが理解できていると思っています。でも、私たちの意見は食い違っている」

「結論を言ってもらえるかしら」

「根原君の意見も聞いてはどうでしょうか」


第三者の意見が食い違っているのなら、本人に聞くのが一番早く、確実だろう。

──と、思ったのだけど。


「あのね、悟は今大変な状態なのよ? あなたの思い過ごしに付き合わせている時間はないの」

「本人の意見を聞かずに、そんな大事なことを決めるつもりなんですか?」

「──っ! 私はこの子の母親なのよ! あなたに何が分かるっていうの!?」


──やば、怒らせちゃった。

仕方ない、今日のところは退散するか。


「では、私はこれで──」


今にも襲いかかって来そうな根原君のお母さんから逃げるように、ドアの方を向いた瞬間。

──ドアをノックする音が聞こえた。


◆◆◆


午前10時15分。

昨日決めたとおり、僕は三上さんと高波さんには内緒で、病院にお見舞いに来ていた。

受付を済ませ、1階でエレベーターを待っていたのだけど。


「あれ、連宮君?」

「……え、三上さん?」


なぜか、三上さんがそこにいた。



エレベーターを出て、512号室目指して廊下を歩く。


「同じことを考えてたみたいだね」

「あはは……まさか三上さんもいるなんてね」


三上さんも、一人でお見舞いに来ようと、昨日から決めていたらしい。

やっぱり、根原君のことが心配だったのだ。


「よし、着いた」


エレベータから比較的近い、512号室の前に到着。

ノックをして、当然返事が返ってくるものだと思い、ドアを開けようとしたのだけど。


「……あれ、返事ないね」

「誰もいないのかな……連宮君、もう一回ノックしてみたら?」

「う、うん」


もう一回、ノックをしてみる。

すると、中から『はい』という女性の声。

──ってことは、根原君のお母さんがいるのか。

ちょっと不安だけど、仕方ない。


「失礼します……」


ドアを開けて、中に入ると、そこには。


「つ、つれみー? みかみんも……」

「高波さん?」


なぜか、高波さんがいた。


◆◆◆


ドアを閉め、中に入る。


「どうして、高波さんが……」

「うーん、考えることは同じ、って言えば分かるかな」


……まあ、大体は理解した。


「あなた達は、何の用で来たのかしら」

「お願いがあって来ました」


強めの口調で言われたので、僕も負けずにしっかりと答える。


「お願い?」

「はい。──根原君を、退学させないでください!」


寝ている根原君が起きない程度の声で、言い切る。


「……なんですって?」


根原君のお母さんは──少し戸惑っている様子。


「自分からもお願いします、根原君を高校に行かせてあげてください!」

「──なんで」


全く理解できないといった様子で、根原君のお母さんは僕らに訊いてくる。


「なんであなた達は、悟のことにそこまで一生懸命になれるのよ。あなた達は、悟の何なのよ!」


まるで僕だと言わんばかりに、声を荒げて。

──言わないと、分からないのだろうか。


「友達です」

「そう、所詮友達なのよ! だからあなた達には──」

「分かりますよ、根原君の気持ち。──『友達だから』」

「っ! ──なんで、そこまで……」


何度も言うようですけど、と僕は付け加える。


「友達だから、家族ですら分からない、学校での根原君を知っているんです。楽しそうに、嬉しそうにしている根原君を知っているんです。だから、一生懸命に、必死になれるんです」

「で、でも……」


僕の言葉に、必死に抗おうとする根原君のお母さん。

──と、そのタイミングで、『起きた』。


「……母さん」

「さ、悟! あなたもほら、この子達に言ってあげて! あなたも学校をやめたほうがいいと思っているでしょう?」

「──母さん」


根原君、お母さんの目をしっかりと見て、問いに答える。


「俺は、高校に通いたい」

「……な、なんで」

「ずっと学校を休んできたから、『学校』に行きたい、っていうのもあるけど、一番は──」


僕らの方を見てから、またお母さんの方を向いて、根原君は強く答える。


「友達と一緒に、勉強したり遊びたいんだよ。ずっと、そういうことをしたかったんだ」

「悟……」

「だからお願いだよ、母さん。……俺を、学校に通わせてください」


頭を下げて、お願いする根原君。

その姿に、何かを思ったようで。


「……1日だけでいいから、考えさせてくれる?」

「うん、もちろん」

「……ありがとう、悟」


渋々ながら、根原君のお母さんが折れた。


「ごめんなさいね、あなた達のこと、怒鳴ったりしちゃって」

「いえ、気にしてないですよ」


……息子の言葉で、ここまで変わるものなのか。


「ちょっと、2人にしてくれるかしら?」

「あ、はい。それでは、失礼します」


来たときと逆に、三上さん、僕、高波さん……の順番で廊下に出る。

高波さんが根原君たちに一礼して、ドアを閉めた。


◆◆◆


「ねえ、三上さん、高波さん」


病院からの帰り道。

僕は、病院を出るときからずっと考えていたことを、言ってみた。


「明日の午後、またお見舞いに行こうと思うんだけど……」

「お、いいと思うよ。何時頃?」

「いや、その……僕だけで行こうと思っているんだ」


僕だけじゃないと、駄目なのだ。


「つれみーだけで?」

「うん。──根原君に僕のこと、話しておこうと思って」

「え……1人で大丈夫なの?」


予想通り、2人は心配してくれている。

だけど、これだけは。


「根原君は1人で、自分の身体が弱いことを僕に言ってくれたんだ。その時は、『秘密を打ち明ける』なんて雰囲気じゃなかったけど……」


でも、根原君は僕の秘密を知りたがっていた。

きっと、友達だから、という単純な理由なんだろうけど。


「僕も自分のことを、根原君にちゃんと言っておきたいんだ。根原君の初めての友達として」


言い終えて、ちらっ、と2人の反応を伺う。


「つれみー、さすが! 頑張ってきなよ!」

「根原君ならきっと分かってくれるよ。頑張って!」

「うん!」


2人とも、応援してくれた。

よし、明日は根原君に、ちゃんと言うぞ!

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