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夢見少年物語  作者: イノタックス
3章 根原家の事情

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16話 根原の過去

「根原君って……えっと、どういう……」


『根原君に友達がいなかった』という事実に、高波さんは驚きを隠せないでいた。

コミュ力が高い根原君だけを見てきたのなら、その反応は当たり前だろう。


「悟は小さい頃から身体が弱くて、あまり学校に行けなくてね。同い年の友達と馴染めなかったんだよ。つい最近、ようやく調子が良くなってきたから、高校に通うことになったんだけど、まさか君たちのような友達ができるとはねぇ。──悟のこと、よろしく頼むよ」

「は、はい……」


──根原君のお父さんの言葉に、少し違和感を覚えた。

ああそうか、根原君が言っていたことと、だいぶズレているからだ。

根原君は、自分の性格が原因で友達ができなかった、と言っていた。

……親だから、子供の性格が原因だとは言いたくない、ってことなのかな。


「本当に、悟に友達ができてよかったよ。ずっと病気のせいで大変だったからね」


いや、根原君のお父さんは、病気のせいで友達ができなかったと本当に思っているみたい。

──根原君の性格のこと、知らないのかなぁ。



「悟はついさっき寝たところなんだよ。せっかく来てくれたのに、ごめんね」

「いえ、連絡なしに来たのはこっちですし……今日は帰ります」


寝ている横で話をするのは、さすがに迷惑だろうし。


「明日、また来ますね」


ドアを開け、高波さんから順番で廊下に出る。


「ああ、そうしてくれると嬉しいよ」

「はい。失礼します」


僕も廊下に出て、ドアを閉める。


◆◆◆


病院を出て、2分ほど歩いたところで。


「よかったね、大事には至っていないみたいで」

「だね。つれみー、明日は何時頃に行く?」


高波さんに、そう訊かれた。


「高波さん、部活は大丈夫なの?」

「……あ、忘れてた」


ゴールデンウィーク初日の今日は、文学部、軽音楽部共に活動日じゃなかったからお見舞いに来れたけど、明日は軽音楽部の活動はあるはずだ。


「午前中は部活だから、午後なら大丈夫」

「午後の3時頃は大丈夫?」

「うん。よし、明日は午後3時に行こう!」


──ということで、明日は午後3時にお見舞いに行くことになった。


◆◆◆


翌日、ゴールデンウィーク2日め、午後3時。

三上さんと部活終わりの高波さんと3人で、今日も512号室の前に来ていた。

ノックをしようと、ドアに拳を近づけていくと。


「あら、悟に何か用かしら?」

「え?」


左隣から声をかけられた。

僕の左隣には、不審そうに僕らを見る女性が一人。


「はい、お見舞いに来たのですが……」

「お見舞い? ……ああ、あなた達が昨日来てくれたっていう、悟の友達なのね」


少しだけ、女性の表情が和らいだ。


「もしかして、根原君のお母さんですか?」

「ええ、そうよ。……ちょうどいいわ、あなた達には、教えておいたほうがいいわね。ついてきて」

「え、あ、はい……」


何が何やら。

とりあえず、ついていってみる。



同じ5階の、テーブルと椅子がいくつか並べられている、休憩スペースへ。

窓際のテーブルの周りに僕らが座ったのを確認すると、根原君のお母さんは話し始めた。


「悟の身体が弱いのは、知っているかしら?」

「はい、知っていますけど……もしかして、学校を長期休むとか、そういう……?」

「いえ、そういうことはしないわ」

「ああ、よかった……」


よかった、そういう事態にならなくて。



「高校、やめさせようと思っているの」



──え?



「やっぱり、自宅療養が一番だと思うのよ。『高校に行かなくちゃいけない』みたいに思い込まなくていいからね。色々考えたけど、これが一番だと思ったのよ。ああ、悟にはこの話はしないでおいてくれる? 友達から言われたら、悟の心が揺らいでしまうかもしれないから」

「──いや、ちょっと」


今の口ぶりから察するに、根原君はまだこのことを、知らないようだけど。

──こんな重要なこと、親だけで決めていいことじゃない。

言わなければ。『高校をやめさせないで』と言わなければ。


「──あ、あの」

「あら、もうこんな時間なのね。そろそろ看護師さんが来るから、私は悟のところに行くわね。それじゃ、今後とも悟のことをよろしくね」

「え──」


一方的に、話を切り上げられてしまった。

休憩室に残ったのは、僕ら3人と──何とも言い難い、重苦しい空気。


「い、行かなくちゃ……」


立ち上がり、根原君のお母さんを追おうとしたのだけど。


「つれみー、今日は帰ろう」

「え……でも高波さん、このままじゃ」

「行ったところで、今は病室に看護師が来てるみたいだから、多分中には入れないよ。また明日来よう?」


──納得できない事だらけだったけど。


「……うん、分かった」


今日は無理そうだから、また明日来ることにする。


◆◆◆


病院からの帰り道。


「明日も同じ時間に集合でいい?」


かなり重い空気の中、高波さんが話し出してくれた。

病院を出て、もう10分ほど経っている。

みんな、何を話せばいいのか分からなかったのだ。


「うん、大丈夫だよ。三上さんは?」

「自分も大丈夫。またここに集合でいい?」

「うん」


そうこう話していると、集合場所の分かれ道に到着。


「それじゃ……また明日」

「連宮君、また明日」

「また明日ね、つれみー!」

「うん、また明日」


歩いて行く三上さんと高波さんの背中を、数秒ぼーっと見て、ある考えが浮かぶ。


(……明日は、午前中にもお見舞いに行ってみよう)


午後だと、また根原君のお母さんがいるかもしれない。

お父さんのほうが話を分かってくれそうだったし、午前中に行こう。


午前中に根原君のお母さんがいる可能性もあるけど、それは──その時に考えよう。

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