14話 殻をまとって
翌週、月曜日。
「根原君、大丈夫かな……」
根原君は、体調不良で学校を休んだ。
◆◆◆
根原君の体調不良は、4日間も続いた。
今日はゴールデンウィーク前日の木曜日。
心配だ。あの根原君が、体調を崩すなんて──。
「ホームルームを始めるぞー、席に着けー」
先生が教室に入ってきた。
朝のホームルームが始まる。いつまでも、こんなに暗く考えていてはダメだ。
「よし、始めるぞ。──と、その前に……今朝、学校に電話がかかってきてな」
……学校に?
何かあったのかな。
「根原の母親からだったんだが、根原、入院したらしい」
────え?
◆◆◆
その夜。
僕は、酷く混乱していた。
先生からの話によると、根原君は、相当疲労しているらしい。
土曜日から寝込んでいて、どんどん体調が悪化して、水曜日に入院、ということだったらしい。
初めての友達が、入院したのだ。
当たり前だけど、そんなこと、今まで1回もなかった。
僕の精神が、そんな事実に耐えきれるわけがなかったんだ。
だから、僕はまた、殻をまとって。
──殻に閉じこもらずに、外に出た。
◆◆◆
「それで、家まで来た、ってわけか」
「う、うん」
外に出たはいいけど、どこに行けばいいのか分からず、とりあえず友達の家に、ということで──三上さんの家まで来た。
ほとんど無意識の行動だったけど、街中に行く、とかの選択肢よりはマシなものを選べたと思う。
「電話で、自分の家の前にいる、って聞いたときはどういうことか分からなかったけど……そう言う理由なら、仕方ないかもね」
「ごめんね、迷惑かけちゃって……」
「いいって、父さんと母さんはもう寝てるんだし」
やっぱり、チャイムを押さなくて正解だったんだ。
「連宮君の両親にはバレなかったの?」
「うん、両親はもう寝てたし、妹はお泊り会で出かけてるから」
「あ、妹さんいるんだ」
「うん」
そう言えば、妹のことは言っていなかった。
「──ねぇ、連宮君、今思ったんだけど……」
「ん、何を?」
「その格好で、ここまで歩いてきたんだよね」
殻を──女物の服を身にまとって、三上さんの家まで歩いてきた。
「不審者とかいるだろうし、気を付けたほうがいいよ……」
「そ、そうかな」
三上さん、少し呆れている。
こんな僕でも、狙われるのだろうか。
「連宮君のその身長と、その髪の長さ、それにそのスカート……のシルエットは、パッと見ただけじゃ、ちょっと身長が高い、ボーイッシュな女子にしか見えないんだから」
「そ、そう……?」
注意されているんだろうけど、なんか、ちょっと嬉しい。
「……それにしても、違和感ないね、スカート」
「そ、そうかな……似合ってる?」
「似合ってるというか、着こなしてる感じが凄い」
褒められている……んだよね、多分。
「ねえ連宮君、高波さんを呼んでもいい?」
「いいけど、どうして?」
「女子同士の方が、よさそうかな、と思って」
「……なるほど」
言われて思い出したけど、僕と三上さんは、異性なんだった。
身体的にも、精神的にも。
──これだけの言葉だと、一般的な『異性』のように思える。
「もう遅いし、来るか分からないけど……」
そう言って、三上さんは高波さんに電話をかけた。
◆◆◆
「遅いのに、ありがとね」
「気にするでない、我はそなたと共にあり!」
「何キャラなの、それ……?」
電話の後、数分で高波さんは三上さんの家に来た。
やけにテンションが高い。
三上さんのベッドに座った高波さんに、なんでなのか訊いてみると。
「そりゃ高くもなるよ! だって、その姿のつれみーを見れたんだから!」
「見れて嬉しいものじゃないと思うけど……」
「嬉しいよ! 普段スカートを穿かない娘がスカートを穿いた姿とか、珍しくて素敵じゃない?」
「う、うん」
珍しいイコール素敵、という理論がよく分からないけど、とりあえず頷いておく。
「でも、僕の身体は男だよ?」
「こらこら、友達の家まで来ておいて、そんなことは言っちゃダメだよつれみー。ちゃんとすね毛は剃ってるみたいだし、とっても似合ってるよ」
「あ、ありがと……」
真剣みの混じった笑顔で、高波さんは言う。
本心からの言葉だろうし、素直に喜んでおこう。
「それで、つれみーは根原君が入院したから、こうしてみかみんの家まで来ちゃったわけでしょ?」
「そう……だよ」
言葉にして聞くと、僕の精神、ずいぶん弱いように感じる。
実際その通りなんだけど。
「根原君のことが、心配だと」
「う、うん」
「なら、話は早いね」
ベッドから立ち上がり、高波さんは提案する。
「明日、根原君のお見舞いに行こう!」
「あ、明日?」
随分急な……。
「こういうのは、早い方がいいよ!」
「高波さんの言うとおりだよ。どんな状態か分からないんだし、早めに行った方が確かだと思う」
「そう……だね。うん、分かった、明日行こう」
「よし、決まりだね! それじゃ、今日はもう帰ろう!」
──え、もう?
「明るい時間にその格好で外を歩くのは、つれみーや私たちは気にしないけど、他の人たちは気にしちゃうと思うし。何より、お父さんたちにはバレたくないんでしょ?」
「うん、今はまだ……」
「なら、これも早い方がいいよ。つれみーのお父さんたちが寝ている間に、帰ろう!」
「うん、そうするよ」
高波さん、色々考えてくれている。
◆◆◆
「高波さん、今日はありがとね」
玄関のドアを開けて、三上さんの家を出ようとしていた高波さんに、お礼を言う。
「お礼を言われることなんてしてないよ。友達として、友達を手助けしようとしただけだよ」
「……高波さんは、すごいね」
『そんなことはないよ』と言って手を振り、高波さんは家を出た。
「三上さんも、急に来ちゃったのに、ありがとね」
「気にしなくていいよ。困ったときはお互い様、だよ」
「うん! それじゃ、また明日」
「また明日、連宮君」
玄関を出て、僕も家に帰る。
やっぱり、三上さん、いい人だ。




